SPECIAL INTERVIER HR トップが語る「人材開発のいま」

第6回

「暗黙知」を共有して、
グローバルNo.1であり続ける

ダイキン工業株式会社
執行役員 人事本部長
佐治 正規 氏

Interviewer/株式会社セルム 常務取締役 田口佳子
2013年12月取材 ※所属・肩書・記事内容は取材当時のものです。

「グローバルNo.1企業になろう」を目標に掲げて戦略を推し進め、2010年に空調事業におけるグローバルNo.1を達成したダイキン工業。
空調機器の専業メーカーであり、世界の競合他社と比べても
突出して規模が大きいわけではない同社が、如何にしてグローバルNo.1を達成し、さらなる成長戦略を推し進めていくのか。
戦略の先見性と共に鍵を握るのは、同社の人材である。日本企業のグローバル化のベンチマーク企業として注目されるダイキン工業の人事の鍵を握る執行役員
人事本部長 佐治正規氏からお話を伺った。

「夢」と同時に「危機感」が、 グローバル化に舵を切らせた

田口

グローバル化を目指す日本企業の多くがダイキン様をベンチマークしています。御社はグローバル化を、どのように進めていらっしゃるのですか。

佐治

ダイキンが現在のように「グローバル化」を全面に打ち出したのは、現会長である井上が社長に就任した1994年からだったと思います。この20年の間に海外事業比率は15%から72%へと大きく変化しました。1994年当時、日本国内のエアコンの普及率や建築物の着工状況を考えると、国内市場については、自ずと限界が見えていました。そうであればエアコンが普及していない海外に進出するしかない、ということはおそらく誰の頭の中にもあったはずです。ですが、そのことを明確にし、「グローバルNo.1を目指す」と言い切ったのが井上だったのです。
 目指すといっても当初は「そうはいっても夢のようなものだろう」という捉え方が多かったと思います。しかし、実際にそれ以降は、様変わりと言えるほどグローバルに舵を切り、次々と戦略・戦術を打ち出していきました。

田口

そして急速にM&Aを進め、2010年に「グローバルNo.1 を達成されるわけですね。しかし何故、ダイキン様だけができたのでしょうか。

佐治

我々の国内での競合企業は総合家電、あるいは総合電機メーカーで、エアコンは彼らにとっては商品群の1つに過ぎないものです。それに対して、我々は空調機器の専業メーカーであり、エアコンで勝負するしかないという危機意識の大きさが、本気でグローバルに向かわせたのではないでしょうか。
 また、意思決定をするその時々に非常にいいタイミングで、欧州における猛暑など我々にとって環境的な追い風が吹いたということも成功の要因の一つであったと思います。井上は自分のことを「強運の持ち主」と言ったりしますが、やはり並はずれた先見性があったのだと思います。

田口

先見性は御社の強みですね。中国進出の際のお話を伺った際にもそう思いました。

佐治

そうですね。中国に進出した95年当時の中国の業務用空調機器は床置きのものが主流でした。しかしダイキンは、見えないところからいつの間にか新鮮な空気が流れ込んでくるようにするのが空調の本来の役目だと考え、天井埋め込み式や壁掛け式で、空調器を目立たせないことをコンセプトにしました。天井や壁の上の方に機器があるので、「お前達は換気扇メーカーか」などと言われたそうですが、結果的にそれが良かった。

田口

オンリーワン。独自路線。それもまた先見性ですね。

佐治

先見性もあったのでしょうが、現実の問題として、中国のエアコンと同じようなものを作ったらコストで勝てない。2番手3番手に甘んじるくらいなら独自路線を辿った方がいい、という経営陣の強い想いがあったのだと思います。

人事部のグローバル化

田口

グローバル化をすすめていらっしゃる中で、人事部はどのようにグローバル化されていかれたのですか。

佐治

2007年の組織機構改革で本部制に変わり、人事部から人事本部と名称も変更しました。それまでの人事部の主な役割は海外現地法人(以下「現法」)への出向者も含め日本人だけを管理するというものでしたが、この時から、本社の人事本部が海外現法の人材管理も含めて統括する部隊になりました。組織の役割や意味合いとして大きな変化だったのですが、現法のサポートはそれまでも行っていましたし、組織が変わって2年くらいは実質的な業務内容はそれまでとほとんど変わりませんでした。メンバーが気持ちの上での切り替えが効いていなかったのです。現地で発生する業務以外に、新たな施策を展開できなかったというのが正直なところです。
 戦略経営計画の「FUSION15」が制定される前年あたりから、グローバル戦略の中での人事本部の役割を我々自身も意識し、様々な変革に取り組み始めました。
 工場等各事業場の人事・労務機能を本社に集約して効率化を図ったり、各拠点にとどまらず、グローバルに活躍できる人材の採用や、グループ幹部人材の把握を行ったり、様々な施策が本格化しました。

田口

人事本部のミッションが大きくかわっていったのですね。

佐治

エラい目にあいました(笑)。

田口

エラい目ですか(笑)。

佐治

現場は日々動いていますから、各拠点・各部門の事業課題は日々明らかになっていきます。一方で人に関する課題は見えにくい。直接的な声としては、「とにかく人が足らない」としか聞こえてきません。ですから、ビジネスリーダーとして自立的に動ける人材を如何に多く最前線に送り込むか、とにかく英語が話せて海外志向がある人材を採用し、その人材をどう配置するか、ということに大きく軸足をシフトしたのがFUSION15の前半戦でした。
 しかし、語学が堪能で海外志向があれば現地で活躍できるかというとそんなにビジネスは甘いものではありません。そこが難しいところです。経営的センスがあるとか、リーダーシップをもっているとか、色々な言い方がありますが、結局は自分の頭で考えて、考えたことを自ら発信し、周囲をきちんと納得させられる。場合によっては納得というより説得することができる人材でないと通用しないのです。また、本社が全体最適の観点から考えていることを知り、その考え方に共感できることが最低限必要で、さらに自分の言葉で人に伝えられる、或いは具体的に実行できる、現場の最前線における意思決定ができる・・・こんな人材が必要です。考えてみれば国内でも全く一緒ですね。

田口

そんなFUSION15の後半戦で、最も力を入れていきたいことは何でしょうか。

佐治

個人に焦点をあてて言えば「リスクテイク」ができる人材を如何につくるか、登用するかということです。「リスクテイク」は「責任を取る」と言い換えてもいいのですが、そういう言い方をすると誤解をする人がいます。部下の失敗を自分が部下の代わりに叱られることが責任をとることだ、という誤解です。それは決して「責任を取る」ことではありません。
 責任を取るとは、「やる」と決めたことを、何としてでも「やる」ことです。「ごめんなさい。できませんでした」と謝るだけなら誰でもできます。そんな人は不要です。
 そして、どんなに準備してもリスクはゼロにはなりませんから、最後はジャンプして挑戦していくことが大切です。ダイキンには一度ダメでもそこから這い上がって、再度チャレンジできる風土があります。ですから、納期が遅れようが、出来が悪くて何回もやり直しをさせられようが、それこそ泣こうが、わめこうが「やる」といったら「やる」人を求めます。

『理念は、現在の暗黙知のままグローバルでも共有する』
『ダイキン社員=チャレンジ中毒と言われたい』など、
インタビューはまだまだ続きます。ぜひダウンロードして、お読みください。

続きをダウンロードする

<トップページへ戻る

  • 労政時報
  • 企業と人材
  • 人事実務
  • 月刊総務
  • 人事マネジメント
  • 経済界
  • マネジー