佐賀県が職員2名を“能力不足”による「分限免職処分」にしたことが報道された。処分は2024年2月29日付ということだから、約1年前のことである。このような公務員の分限免職処分は、これまでほとんど実施されてこなかったから、驚きをもって受け止めている。民間企業になぞらえれば、いわゆる「普通解雇」に近しい処分であると理解して良い。公務員の場合、ほぼ解雇されるようなことがないこともあって、あまり知られていないが「雇用保険には加入していない」。彼らの立場からすれば、極めて大きな影響を及ぼす処分であるといってよいだろう。

佐賀県庁の職員が民間企業で言うところの「解雇」に。「普通解雇」に近しい公務員の「分限免職処分」とは

半年の研修でも結果が出ず、処分対象に

分限免職処分の対象となったのは、佐賀県庁の50代の職員2名ということだそうである。

●業務の指示に従わない
●資料を紛失する
●数日でできる作業に3ヵ月もかかり、仕上がりも不十分


などの問題があり、勤務態度も含めて、分限免職処分に至ったとされている。

佐賀県は分限免職処分に先立ち、半年間に及ぶ研修を2名に実施したらしい。しかし、研修後も改善が見られず、「最下位の職位に降任しても見合った仕事ができない」と判断したようである。

佐賀県では、「地方公務員法」改正に基づき、2016年度から新たな人事評価制度を導入しており、職務を遂行するにあたり発揮した能力及び業績を把握したうえで人事評価が行われ、評価内容は給与・人事管理などに活用されているということである。

また、これにより2年連続で最低の人事評価を受けた職員を、業務に支障がある「要支援職員」とみなし、内部の判定委員会の議を経て、半年間の職員能力向上支援プログラムを適用するか否かを決めているという。今回の事例も、当該プログラム適用の対象となり、それに則った指導を受けたにもかかわらず、結果として能力不足による分限免職処分という経過をたどっている。

「分限免職処分」とは何か

そもそも、「分限免職処分」とは公務員を意に反して退職させる行政処分のことである。公務の効率性を担保するために行われ、職員の勤務実績が良くない場合や、心身の故障によって職務の遂行に支障がある場合などに適用される。また、懲戒処分とは異なり、懲罰的意味合いは含まれず、原則的に退職手当も支給される。

一般的に身分が安定的に保障された公務員にとって、分限免職には大きなデメリットがある。例えば、以下のようなことが考えられる。

1)退職金減額の可能性
2)雇用保険の基本手当の不支給や再就職の困難さ
3)社会的評価の低下
4)免職による心理的ストレスの増加


これらのデメリットを考慮すると、分限免職は公務員にとって人生へのマイナス効果が大きい出来事であるから、これまで慎重に運用されてきたといえる。併せて、法的根拠も法律でしっかり規定されている。地方公務員の場合は、「地方公務員法」第28条第1項で、“以下の4つの場合に分限処分を行うことができる”と分限事由が定められている。

1)人事評価または勤務の状況を示す事実に照らして、勤務実績がよくない場合
2)心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、または堪えない場合
3)その職に必要な適格性を欠く場合
4)職制もしくは定数の改廃または予算の減少により廃職または過員を生じた場合


また、国家公務員についても、「国家公務員法」に規定されていることはもとより、人事院が分限免職になる判断として、勤務態度や仕事の遂行についての具体例を下記のとおり示してもいる。

●連絡なしに出勤しなかったり遅刻・早退をした
●業務と関係ない用事でたびたび無断で長時間、席を離れた
●業務の成果物が著しく稚拙であった
●窓口対応等でトラブルが多く他の職員が処理せざるを得なかった
●職務命令に違反したり拒否した
●協調性に欠け他の職員と度々トラブルを起こした


このように、「分限免職の事例」や「法定された分限免職の判断基準」として重要なポイントは次のような点であろうか。

●継続的な勤務実績の低さ
●改善の機会(研修など)を与えても成果が見られない
●降任しても適切な職務遂行が期待できない

民間企業も公務員の分限免職処分について理解しよう

公務員の分限免職制度の運用が増加傾向にあることは、公務員制度が変化していることを物語っている。その背景にあるのは、以下のような要因が考えられる。

1)成果主義の導入:ほとんどの自治体で人事評価制度が導入され、能力や実績がより重視されるようになっていること
2)行財政改革の推進:公務の効率化や人件費削減の要請が高まっていること
3)社会の変化への対応:デジタル化やグローバル化など、公務員に求められる能力が変化していること


このように、公務員のマネジメントが民間企業に近づいていることを考えれば、公務員の世界で制度運用されている分限免職処分の仕組みが民間企業に流用されることも予想される。今のうちから、これらを民間企業も理解しておくべきなのかもしれない。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!