本シリーズでは、若年層から準シニア世代(40代後半~50代前半)までを解説してきました。今回は、いよいよ最終回(全6回)。50代後半以降の「シニア世代」を取り上げます。この世代は大手日系企業の中では部長以上のポストに就いている人もいる一方で、早々と「ポストオフ」したという人もいるのではないでしょうか。また、定年再雇用や定年延長によって、定年退職の予定が伸びたというケースもあるはずです。組織の中の「シニア世代」に注目します。
世代別のトリセツ第6回:シニア世代の学びなおし

シニア世代の感覚は「もう古い」のか?

50代後半以降の「シニア世代」というと、どのようなイメージでしょうか。世間では、「古い」、「昭和」、「時代についていけていない」といった、どちらかと言えばネガティブな論調で語られることが多いような気がします。一般的な世代名としては、ちょうど高度成長期後半に生まれた「バブル世代」に該当します。幼少期を日本経済の発展とともに過ごし、社会人になってからもバブル時代をそれなりに謳歌した思い出を持つ世代です。企業の中で部長以上の重役に就く方もいる一方で、すでにポストオフしている方もいらっしゃるでしょう。

この世代は、終身雇用制と年功序列の中でバリバリ働いてきたため、「若いうちは苦労して、下働きをしたほうがいい」という価値観があります。転職はもってのほかで、1社で勤め上げるというキャリアが主流の世代です。また、物質的に豊かな時代に生まれたシニア世代の働くモチベーションといえば、何より金銭的な報酬が中心でした。“24時間働けますか”という有名なキャッチコピーのように、ビジネスマンは夜遅くまで真剣に仕事に取組み、まさに滅私奉公の限りを尽くすことが美徳とされたのではないでしょうか。

こうしたシニア世代のこれまでの価値観や考え方を、現代の働き方と比較すると、どうしても「古い」「時代に合わない」と感じてしまうのは当然のことです。そもそもシニア世代が、猛烈に働いていた当時と現在の時代背景は全く異なっています。しかし、シニア世代が必ずしも「古い人」というわけではありません。

温故知新をシニア世代の力にする

シニア世代はバブル崩壊から平成不況のリストラを超えて、サバイブした世代です。若い頃は夜遅くまでバリバリ働いた経験もあるため、精神力や仕事をやりきる力が高い世代でもあります。

大企業の中には、バブルから90年代にかけて興ったグローバル化の波に乗り、海外進出した企業も少なくありません。しかし、現在の大企業は既に成熟しきって、「実際にハードに仕事をやりきる」という場面はかなり少なくなっています。成長できる環境は、後進のベンチャー企業に奪われてしまっている実情があります。

若手が大企業に魅力を感じない、成長性を感じないと退職してしまうのも無理もないかもしれません。現在の大企業では、若い世代に成長できる環境や現場を用意することが難しくなっているのです。そのため、無人島や海外の秘境などにわざわざ研修名目で優秀な人材を派遣し、「タフアサインメント」という名前で育成している企業もあります。

シニア世代は、現在の大企業を始めとする日本企業の成長期にバリバリ働いてきたため、「仕事の本質やピンチの時に必要な対応」をよく理解しています。彼らが、こうした経験を若い世代に伝え、引き継いでいくことができれば、日本企業はもっと強くなります。

その中でネックになるのは、シニア世代特有の「経験主義」です。多くの経験をしてきたことは、それはそれで尊ぶべきことです。しかし、その経験を伝えることで、若い世代のパフォーマンスも伸ばすという「再現性」がなければなりません。また、伝え方や時代適合に配慮できているかも重要なポイントです。

昔のように「背中を見ろ」という姿勢では若い世代には何も伝わりません。現在の若い世代に目線を合わせ、SNSやデジタルツールなど新しい文化を学んで自らの経験と融合させた伝え方を工夫することが肝要なのです。シニア世代の「温故知新」を組織力に昇華させるのに重要となるのが、「コーチングによる客観的な経験の振り返り」です。「暗黙知であった経験」を「再現性のある形式知」に変換するとともに、現代の文化や新しいトレンドを取り入れた学びなおしが必要です。

シニア世代は「見守り力」で再起をはたす

以前、私が50代のベテラン社員と会話した際、「50代になると、すごく元気でも、気力や体力がついていかない」というリアルな声を聞きました。昨今、人生100年時代が叫ばれる中、世の中はシニア世代に「もっと働け」、「定年延長・再雇用だ」と、働くことを求めます。しかし、体力的にも変化し、厳しくなる年代にもさしかかっているのがホンネでもあるようです。

近頃、人材系サービスベンダーから「“シニア世代の学びなおし”をテーマにした研修を実施してはどうか?」という提案をよく受けます。その際に、「シニア世代は、現代社会にアップデートされてない。だから学びなおしが必要だ」というアドバイスとともに、「貴社ではシニア世代への対策はどうしていますか?」という質問を投げかけられることが頻繁にあります。

しかし、そうしたベンダーや、世間一般の論調に同調する若い世代は、シニア世代の現実を知らないのではないでしょうか。「やる気はあっても体力がない」という実情が見過ごされているのです。体力がなく、できることが少なくなってしまうという反面で、「やる気はあるのでつい口を出してしまう」という事が起こりえます。こうした些細なことが若い世代から「お荷物だ」と言われてしまう原因なのですが、本当はシニア世代も自分自身が周りの和を乱していることに対してかなり悩んでいます。

中には、もう割り切っていて「若い世代の邪魔になるから何も言わないし、あえて働かない」とする人も実は多いのです。こうした場面で、シニア世代の体力や健康事情に配慮するとともに、彼らも本当は働く意欲が高いことを企業側も知らなければなりません。では、どうすれば「シニア世代を組織づくりに活かす」ことができるのでしょうか。

最も良いのは「メンター」として活躍してもらう方法です。例えばある日本を代表するメーカーでは、マネジメント経験のある優秀なシニア世代をメンターとして、社内の優秀人材発掘に活用しています。タフな経験があるシニア世代だからこそ、人を見抜く力は人一倍あるのです。また、別の企業ではシニア世代にキャリアコンサルタントの資格を取得させ、「社内のキャリアコーチ」として活用しています。キャリア面談を全社員に対して行い、シニア世代がコーチとなってキャリア形成を支援するのです。

「シニア世代の考えは古い」と一概に決めつけてしまうのではなく、“適材適所の考え方”で組織づくりに参加してもらう方法を考えるべき時がきています。若い世代の成長を「見守りながら、未来へ導く手助けをする」、そんなシニア世代こそ一つの理想形といえるでしょう。

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