昨今の人材マネジメントにおいて、「承認欲求」への理解と対応が重要性を増している。若手を中心に「承認欲求」の強い人材が増加する中、その対応に苦慮する管理職も少なくない。「承認欲求」の強い人の短所ばかりを見て誤った対応をしてしまうと優秀な人材の離職やチーム全体のパフォーマンス低下を招くリスクがある。一方で「承認欲求」を正しく理解し活用できれば、個人と組織の成長を促す原動力にもなり得る。人事担当者には、本質を理解し、効果的なマネジメント施策を進めていくことが求められる。そこで本稿では、「承認欲求」の意味や自己顕示欲との違い、強い人の長所・短所を紹介しつつ、満たし方、職場での付き合い方、マネジメントのポイントといった実践的な内容も解説する。
承認欲求

「承認欲求」とは

「承認欲求」とは、“他者から認められたい”、“評価されたい”という基本的な心理的欲求のこと。人間なら誰しもが持つ欲求だが、その強さや表現方法には個人差がある。現代社会では、SNSの普及や価値観の多様化により、「承認欲求」が顕著に表れるようになってきており、特にZ世代などの若い世代ではSNSの影響で、より直接的に「承認欲求」を表現する傾向があると言える。

また職場においては、評価制度や人間関係に大きな影響を与え、モチベーション管理の重要な要素にもなる。そのため、「承認欲求」を正しく適切な理解して、対応していくことが、現代の組織マネジメントにおいて避けては通れない課題となっている。

●自己承認欲求

「自己承認欲求」とは、自分自身の価値や能力を認めたいという内発的な欲求を指す。目標達成や自己成長を通じて満たされ、自己啓発や能力開発の原動力となり、個人のキャリア自律において重要な要素となり得る。

●他者承認欲求(社会的承認欲求)

「他者承認欲求(社会的承認欲求)」は、他者や社会からの評価や認知を求める対外的な欲求だ。職場では、上司からの評価や同僚からの信頼、顧客からの感謝など該当する。周囲から何も関心を示されなければ、孤独感を抱いてしまうものだが、誰かに自分の存在を認めてもらうことで、その欲求が満たされる。円滑な人間関係の構築やチームワークの形成、組織の活性化につながる概念と言える。

「承認欲求」と「自己顕示欲」の違い

「承認欲求」は他者との関係性の中で自分の価値を認めてもらいたいという欲求である一方で、「自己顕示欲」は自分の能力や価値を誇示したいという衝動的な欲求だ。つまり「承認欲求」が他者を中心とした考えであるのに対し、「自己顕示欲」は自己中心的な考えが強く、一方的な自己主張につながりやすい。

「承認欲求」の3つのタイプ

「承認欲求」のタイプは、大きく分けて「存在承認」、「行動承認」、「結果承認」の3つに分類できる。それぞれを解説していこう。

●存在承認

「存在承認」は、自分の存在自体を認められたいという最も基本的な承認欲求だ。組織の一員としての所属意識や、個人としての尊重が関連する。「存在承認」が満たされることで、職場への帰属意識や安心感が生まれる。またメンタルヘルスの観点からも重要な要素である。

●行動承認

「行動承認」は、日々の努力や取り組みのプロセスを評価されたいという欲求だ。問題解決への姿勢や業務改善への工夫などがその対象となる。すぐには結果が出にくい業務やプロジェクトにおいては特に顕著に表れ、モチベーション維持や向上につながる。部下の行動承認を満たすためには、上司が部下の努力や工夫を日常的に観察し、適切なタイミングでフィードバックを行うことが求められる。

●結果承認

「結果承認」は、達成した成果や実績を評価されたいという欲求を指す。数値目標の達成やプロジェクトの完遂、業務改善の成功など、目に見える形での評価を求めるものだ。営業職や成果主義の強い職場環境では、特にこの「結果承認」欲求は重要となる。一方で、「結果承認」のみに偏ると、成果だけに固執し、チームワークを軽視することにつながるため、注意が必要だ。

マズローの欲求5段階説における「承認欲求」

アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱した、人間の基本的欲求を階層構造で説明する『欲求5段階説』を基に「承認欲求」が語られる場面は多い。

●5段階説の概要

『マズローの欲求5段階説』は、人間の欲求を「(1)生理的欲求」、「(2)安全欲求」、「(3)所属と愛の欲求(社会的欲求)」、「(4)承認欲求」、「(5)自己実現欲求」という5つの階層で分類している。(1)を最下層、(5)を最上層として、下層の欲求が満たされるごとに、次の段階の欲求を求めるという理論である。
マズローの欲求5段階説

●「承認欲求」の位置づけ

「承認欲求」は第4段階に位置する。第3段階の「所属と愛の欲求」は組織に所属していることで満たされるが、単に所属するだけでなく、自らの所属意識を強めたい、すなわち“尊敬されたい”、“他者から評価されたい”と求めるようになるのである。

また、「承認欲求」の段階の中でも「低位の承認欲求」と「高位の承認欲求」の二つに分けることができる。「低位の承認欲求」というのは、他者に認められたり、注目されたりする「他者承認欲求」のことで、「高位の承認欲求」は、自らが自身のことを自分の価値を認める「自己承認欲求」のことだ。つまり、他者に依存した評価軸から始まり、次に自立して、自らを基準をとした承認を求めるようになるということである。

「承認欲求」が生まれる要因

現代社会において「承認欲求」が生まれる背景には、さまざまな社会的要因が存在する。主な3つを解説しよう。

●社会環境の変化

終身雇用制度の崩壊や成果主義の浸透により、個人の価値や能力の可視化が以前よりも求められるようになってきた。職場の多様化により、従来の年功序列的な評価基準も機能しにくく、さらに、副業・兼業の一般化により、個人の市場価値への意識が高まっている。そのため、明確な評価や「承認欲求」が強まっている。

●SNSの普及

インターネットの発展やテクノロジーの発達により、SNSがあらゆる年代に普及し、直接的に評価や承認を得られる機会が飛躍的に増加した。「いいね」や「シェア」といった機能は、手軽に「承認欲求」を満たせる手段として機能している。一方で、SNSで簡単に承認を得られることが、実社会での「承認欲求」の在り方にも影響を与え、時として欲求を満たすための過度な行動につながることが問題視されている。

●育ちの家庭環境

教育環境や家庭環境が「承認欲求」の形成に与える影響は大きい。過度な期待や評価をされて育ってきた場合、大人になっても承認への依存度が高まりやすい。逆に、十分な承認を得られなかった環境では、成人後に「承認欲求」が強く出ることがある。

「承認欲求」が強い人の長所やメリット

「承認欲求」が強い人はどんな特徴があるのか。まずは、その長所とメリットを解説していく。

●向上心が強い

「承認欲求」の強い人は、自分を改善する意欲が高く、向上心も強い傾向にある。新しいスキルの習得や、業務効率の向上に積極的に取り組むだけでなく、他者からの評価を意識するので、高い目標設定にも強い意志を持って臨むことができる。

●ハイパフォーマンスを発揮しやすい

周囲からの評価を強く意識したり、自らの能力を高めようとしたり積極的に自己研鑽に励んだ結果、ハイパフォーマンスを発揮しやすくなる。特に、リーダーシップを発揮することが多く、組織の成果向上に貢献する。

●自尊心を高めやすい

自尊心というものは、他者から自分の価値や能力を認められることで高めることができる。そのため、「承認欲求」が強い人は、常に成果を出して周囲に認められるため、自分の価値を承認しやすくなるのだ。

●社交的

他者との関係性を重視し、積極的なコミュニケーションを取る傾向があるのも「承認欲求」が強い人に見られる長所の一つ。他者からの評価や反応を重視するため、チームワークや人間関係の構築に長けている場合が多い。

「承認欲求」が強い人の短所やデメリット

一方で「承認欲求」の強さは、時に間違った形で表れてしまうこともある。「承認欲求」が強い人の短所やデメリットを紹介する。

●自分の話ばかりする

「承認欲求」が強い人は、自分の能力や成果をアピールしたい願望も強く、他者の話を聞く余裕を失いがちだ。一方的なコミュニケーションとなってしまい、周囲との関係性を損なう恐れがある。

●批判に過敏に反応する

相手から否定的な評価や指摘を受けると、過敏に反応してしまう傾向があるのも「承認欲求」が強い人の短所と言える。フィードバックを素直に受け入れることができず、批判を個人攻撃と受け取り、敵視してしまうケースさえある。

●他人と比較する

「承認欲求」が強いと、「あの人より自分のほうが優れている」という相対的な評価にこだわり、常に他者と比較してしまう。そうすると、嫉妬心を抱きやすく、不要なストレスや競争意識が生まれ、チームワークを阻害する可能性がある。

●モチベーションが下がりやすい

期待していた周囲から評価が得られなかったときに、急にモチベーションを低下させがちだ。外的な評価への依存度が高いためである。そうなると、どうしてもパフォーマンスの変動が大きくなってしまう。

「承認欲求」の満たし方・抑え方

「承認欲求」と、どう向き合えばいいのか。その満たし方や抑え方を紹介する。

●自分の感情を受容する

「承認欲求」は誰もが持つものである。「承認欲求」を持つこと自体を否定的に捉えず、自然な感情として受け入れることが重要だ。自己理解を深め、なぜその欲求が生まれているのかを客観的に分析し、自分の感情パターンを理解すると、自己肯定感が高まり、過度な「承認欲求」を抑えることができる。

●自己研鑽

他者からの評価に過度に依存せず、自分の成長に焦点を当てるのも効果的だ。スキルアップや知識の習得を通じて成長実感を得られれば、他者を基準とせずとも、自己評価によって「承認欲求」を満たすことができる。

●ポジティブな発信をする

ポジティブな発信を積極的にして、周囲の人から反応をもらうことで「承認欲求」は満たされる。ただし、過度な自慢やネガティブな発信は避けたい。自己成長や課題に対する取り組みなど、それを見たり聞いたりした人が成果や貢献を素直に評価し、賞賛してくれるからだ。

●成功体験を積み重ねる

小さな目標から始め、着実に達成感を積み重ねていくことは「承認欲求」と向き合ううえで非常に重要となる。成功体験を繰り返すことによって、自己評価の基準が定まっていくからだ。

「承認欲求」が強い人との職場での付き合い方

「承認欲求」の強い同僚や上司・部下との関係構築は、少しの工夫や意識で難易度が大きく変わってくる。付き合い方のコツを解説しよう。

●適度な距離感を保つ

まずは適度な距離を保つのが大事だ。「承認欲求」が強い人は過度な自己主張をする場合があるが、それを真に受けていては疲弊するばかりである。話題を変えたり、話したくない時には物理的な距離を取ったりするなど、ストレスが溜まらない程度にコントロールしていきたい。

●積極的に賞賛やフィードバックをする

積極的に賞賛やフィードバックをすることで、相手の「承認欲求」を満たしてあげる。成果だけでなく、努力の姿勢や細かな進捗に対してこまめに認めることが大事になってくる。その時、形式的な褒め言葉は避け、具体的な行動に対するフィードバックを心掛けたい。

●相手の希望を理解する

「承認欲求」の表現方法は人によって異なる。そのため、相手が具体的に何を求めているのかを把握することは、人間関係構築のカギとなる。職場であれば、定期的な1on1ミーティングやカジュアルな対話を通じて、相手が考える価値観や成長への期待を理解することで、相手の「承認欲求」を満たす方法を見出しやすくなる。

●自己主張の場を与える

「承認欲求」が強い人は周囲の人に発信することを好むため、自己主張の場を意識的与えていくと良い。もちろん、一方通行の発信ではなく、他者の意見を尊重する姿勢も併せて育成することが重要となる。例えば、会議やミーティングで発言の機会を設け、その内容に対して具体的なフィードバックを行うなどだ。

●批判的・否定的な言葉を避ける

「承認欲求」が強い人に対して問題点を指摘する際には、非常に気を遣うだろう。特に、公の場では慎重に行う必要がある。フィードバックの際は、批判的な言葉や否定的な言葉を避け、まず良い点を認めた上で改善点を伝え、具体的な改善策も併せて提示する。また、フィードバック後のフォローアップも重要となる。

「承認欲求」を踏まえたマネジメントのポイント

「承認欲求」を活用して効果的にマネジメントをする方法を紹介する。

●メンバーの「承認欲求」を理解する

定期的な面談をしたり、日常的に細かく観察をしたりして、メンバー個々の「承認欲求」を理解することは非常に重要だ。公の場で賞賛されることを好む人もいれば、静かな場所で伝えられる方が良いという人もいる。一人ひとりの性格や価値観を理解したうえで、それに合った評価やフィードバックをしていくことが大切だ。また、チーム内での人間関係や役割分担にも注目し、承認機会の偏りがないかも意識したい。

●明確な目標設定を行う

目標設定の際には、達成可能で具体的な目標を設定し、評価基準を明確にすることが肝となる。組織からの期待値と本人の能力を鑑みて、チャレンジングな目標を設定することでモチベーションの向上につながり、また、中間目標を設定し、進捗に応じてフィードバックを行うことで、モチベーションの維持を図りたい。つまり目標達成までのプロセスを細分化して、小さな成功体験を積み重ねられるよう支援することが求められるのだ。

●段階的に評価・承認する

3つのステップで評価・承認を行うことで、メンバーのモチベーションや満足度を高めることができる。まずは、メンバーの存在自体を認める「存在承認」から始め、次に、努力や工夫などの行動やプロセスを評価する「行動承認」をしていく。最後に、具体的な成果を認める「結果承認」で締め括る。この順序を意識することで、メンバーに安心感を与え、より高い目標にチャレンジする意欲を持たせることができる。

●組織全体で“承認文化”を醸成する

上司から部下への一方通行ではなく、組織全体で評価・承認を行うことで、社員同士が互いに認め合う“承認文化”を醸成することができる。例えば、定期的にチームで成果を共有し合う機会や表彰制度を設けたり、社内SNSによって気軽に称賛し合える仕組みを作ったりしたい。また、失敗を責めるのではなく、そこから学びを得ようとする姿勢を評価することで、チャレンジを推奨する組織風土も作り出せる。

まとめ

「承認欲求」は“管理すべき問題”ではなく、“活用すべき機会”として捉え直す時期に来ている。正しく理解して対応することで、個人と組織の成長を促進する原動力となるからだ。世代による価値観の違いや、デジタル化による働き方の変化も考慮しながら、自社に合わせたマネジメント方法を模索していただきたい。

よくある質問

●「承認欲求」が強い人の特徴は?

「承認欲求」が強い人の特徴として、以下のような長所と短所がある。

【長所】
・向上心が強い
・ハイパフォーマンスを発揮しやすい
・自尊心を高めやすい
・社交的

【短所】
・自分の話ばかりする
・批判に過敏に反応する
・他人と比較する
・モチベーションが下がりやすい

●「承認欲求」が強い原因とは?

終身雇用制度の崩壊や成果主義の浸透などの社会環境の変化によって、個人の市場価値への意識が高まっている。またSNSの普及により他者から直接的に評価や承認を得られる機会が飛躍的に増加した。さらに、幼少期に十分に褒められた経験がなかったり、過度に甘やかされたりした場合は、成人になっても他者から認められたいという願望が強い傾向がある。これらが「承認欲求」が強い原因として挙げられる。
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