【化学物質の自律的管理】STEP1:化学物質管理者を選任する
オフィスを含め、ほとんどの事業場が「化学物質管理者」選任の対象となります。多くの化学物質にはSafety Data Sheet(SDS)がついています。SDSにはその物質の危険性や取り扱い上の注意等が書いてあり、紙で添付されている場合やネット上で公開されている場合があります。SDSの「15:適用法令」のところに「労働安全衛生法上の通知対象物」と書いてある物質を一つでも使用していたら化学物質管理者を選任しなければなりません。化学物質管理者は事業場(営業所)ごとに1人ずつ選任します。コピー機の業務用トナーや業務用油性ボールペンのインクといった意外なものまで「労働安全衛生法上の通知対象物」です。このため、ほぼすべての事業場に選任義務があると考えられます。
化学物質管理者は特殊な職場を除いて特に資格や講習受講の必要はありませんし、労働基準監督署(労基署)への届け出も不要です。ただし、専門講習(2日間)の受講が推奨されてはいます。
【化学物質の自律的管理】STEP2:リスクアセスメントを実施する
さて、いよいよリスクアセスメントを実施します。リスクアセスメントとは、化学物質を使った作業の「人体への悪影響」や「爆発などの危険性」を評価し、低減するための一連の作業です。以下のような手順で進めます。(1)事業場で使っている化学物質のSDSをすべて集める
文房具から給湯室の洗剤まで、オフィスで使用しているあらゆるものについて、SDSがないか確認して、すべて集めます。次に集めたSDSのうち、「15:適用法令」に「労働安全衛生法上の通知対象物」と書かれているものを洗い出します。これらがリスクアセスメント対象物質です。現在約1,000物質指定されていますが、数年のうちに3,000物質になる予定です。
(2)リスクアセスメント対象物質を使用している作業をすべて洗い出す
一つの化学物質について作業が複数あることも多く、数百作業ということもざらにあります。(3)リスクの大きさを確認
物質の毒性の他に、使用量、作業方法、風通し、手袋やマスクの有無などによって健康を害するリスクは大きく変わりますので、実際の作業ごとにリスクの大きさを確認(アセスメント)します。アセスメントのやり方は法令では決まっていません。厚生労働省の「職場の安全サイト」に「CREATE-SIMPLE®」が公開されています。物質名と作業内容を選択すると「リスクI(低い)~IV(高い)」までの4ランクで示されるというもので、これを使うのも一つの方法です。
【化学物質の自律的管理】STEP3:会社が自分の判断で措置の内容を決める
アセスメントの結果をうけて、“有害物が労働者に与える危険を少なくするための措置を取るべきかどうか”を会社が決めます。これも決め方は自由です。排気設備を整える、マスクや手袋といった保護具の使用を義務付ける、あるいはこのまま静観すると決めることもあるでしょう(なお、化学物質管理者を選任している事業場で保護用のマスクや手袋を使用する場合は「保護具着用管理責任者」の選任が必要になります)。作業環境が本当に改善したかどうかの確認も、会社は自分の判断で決めて「自律的に」実施しなければなりません。実際に有害物の濃度を測定する、健診項目や実施頻度などを決めて「リスクアセスメント健診」を行うなど、すべて会社が自分で判断して実施します。
正直なところ、これを全部自分たちだけで判断、計画するのは無理です。インダストリアル・ハイジニスト、オキュペイショナルハイジニスト、産業医などの専門家に相談することも視野に入れましょう。
【化学物質の自律的管理】STEP4:記録の保存と再アセスメント
会社はリスクアセスメント結果とその措置の記録を労働者に周知するとともに、半永久的に保存する義務があります。また、物質の使用法が変わったときや、SDSが変わって新しい毒性が加わったときなどは再度アセスメントを実施し、記録を更新します。さて以上の話を聞くと「大変だ、どうしよう」と不安に駆られることでしょう。独立行政法人労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所のサイト「ケミサポ」で事業者が実施することをさらに詳しくわかりやすく説明しているので、ぜひご参照ください。
- 1