会議やワークショップを円滑に進行し、参加者の意見を引き出して合意形成を図る「ファシリテーター」。近年、組織の意思決定や問題解決において重要な役割を果たしている。そこで、ファシリテーターを育成したい企業や人事担当者、ファシリテーターを務める方に向けて、本稿では、ファシリテーターの意味や役割、必要なスキル、上手い人の特徴、注意点などを詳しく解説していく。
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「ファシリテーター」とは

「ファシリテーター(facilitator)」とは、会議やグループワークなどの場で、中立的な立場から議論を促進し、参加者の相互理解や合意形成を支援する役割を担う人のことを指す。集団による問題解決や意思決定のプロセスを円滑に進める重要な存在と言える。「facilitate(促進する)」という言葉が由来で、その行為や技法のことを「ファシリテーション(facilitation)」と言う。

●「ファシリテーター」の必要性

デジタル化推進や労働環境の多様化、環境問題への対応など、複雑な課題に直面する現代のビジネス環境においては、部門の垣根を越えた協力が不可欠だ。そのため、組織の意思決定や問題解決において、会議の質を高め、参加者全員の理解と納得を得ることが以前よりも重要になっている。しかし、会議の結論が特定の個人に左右されたり、上下関係によって発言が抑制されたりすると、参加者全員の理解と納得を得ることは難しい。そこで、多様な意見を持つメンバーの意見を効果的に引き出し、建設的な議論を促進できる「ファシリテーター」の存在が重要となる。また、複雑化する課題に対して、チームの知恵を結集させる必要性が高まっており、ファシリテーターの役割がますます重要になっていると言える。

●司会との違い

「ファシリテーター」と司会は似て非なる役割だ。司会は進行役として、予定された議題に沿って会議を進行することが主な仕事である。一方、ファシリテーターは議論の促進者として、参加者の意見を引き出し、整理し、合意形成を図ることに重点を置いている。ファシリテーターは議論の内容に踏み込み、必要に応じて軌道修正も行う。つまり、司会が「どう進めるか」に注力するのに対し、ファシリテーターは「何を達成するか」を常に意識しながら場をリードするという特徴がある。

●ネゴシエーターとの違い

ネゴシエーター(negotiator)は交渉人を指す言葉で、商談などの取引先との交渉を通じて、自社の利益と相手の合意形成に向けて、戦略的に対話を進める役割だ。一方で「ファシリテーター」は、中立的な立場を保ち、グループ全体の合意形成や問題解決に導く役割である。両者とも優れたコミュニケーション能力が求められるが、立ち位置と目的が異なる。

「ファシリテーター」の役割

ファシリテーターには、会議やワークショップを効果的に進める上で、いくつかの重要な役割がある。

・目的の明確化と共有
・話しやすい雰囲気の醸成
・意見の整理
・結論まで導く
・時間の管理


それぞれ解説していこう。

●目的の明確化と共有

「ファシリテーター」の重要な役割の一つが、会議やワークショップの目的を明確にし、参加者全員と共有することだ。議論の方向性が定まり、参加者の意識が統一される。具体的な方法としては、冒頭で目的を説明し、議論中には目的に沿った対話になっているかを常にチェックし、脱線しそうな場合は確認や修正を図る。これによって建設的な議論が可能になるうえ、参加者の当事者意識が高まる。

●話しやすい雰囲気の醸成

参加者が自由に意見を言える雰囲気を作ることも「ファシリテーター」の重要な役割だ。アイスブレイクの実施や参加者の自己紹介、発言しやすいルールの設定などをはじめに行い、議論中には発言の少ない参加者に適切に声をかけたり、批判的な発言を発展的な提案に変換したりすることで、参加者が安心して意見を述べられる。

●意見の整理

「ファシリテーター」は、出された意見を整理し、目的から外れないように進行する役割も担う。議論の流れを定期的に振り返り、ゴールに対する現在の到達点と今後の方向性を確認することで、参加者全員が議論の全体像を把握しやすくなり、建設的な意見交換を促進できる。

●結論まで導く

「ファシリテーター」は、単に議論を活性化させるだけでなく、最終的に結論や合意に至るよう導かなければいけない。そのため、議論の進捗状況をいつも把握しておき、必要に応じて軌道修正を行う。意見が対立した際には、双方の主張を整理し、共通点を見出すことで妥協点を探ったり、複数の選択肢を提示したうえで、参加者の合意を得ながら最適解を選んだりと、結論に至る過程を丁寧に進めることで、参加者全員が納得できる成果を生み出せる。

●時間の管理

効果的な会議運営には、適切な時間管理が不可欠だ。「ファシリテーター」が事前に設定したタイムテーブルに沿って議論を進行することで、効率的かつ充実した議論が可能となり、参加者の集中力も維持できる。タイムテーブルを設定するときには、各議題にバランスよく時間を配分し、重要な論点に十分な時間をかけられるよう調整する必要がある。また、議論が予定時間を超過しそうな場合は、参加者に状況を説明し、時間延長の合意を得るか、議題の優先順位を見直していく仕事も求められる。

「ファシリテーター」に求められる5のスキル

効果的なファシリテーションを行うために、以下の5つのスキルが重要と言える。それぞれ紹介していこう。

●議事進行のスキル

議事進行のスキルは「ファシリテーター」の基本的かつ最重要な能力だ。目的やルールを明確にし、アジェンダに沿って会議を進行していく。参加者の意見を引き出し、要約や整理を行うだけでなく、議論が脱線しそうな時には軌道修正を行い、建設的な議論へと導く。参加者に発言の機会を公平に設け、全員が参加できる環境を作る。そうした議事進行のスキルを磨くことで、生産的な会議とすることができる。

●コミュニケーションスキル

「ファシリテーター」には、高度なコミュニケーションスキルが求められる。参加者の意見を傾聴し、適切に受け止めつつ、複雑な内容をわかりやすく説明したり、対立する意見を調整したりしなければいけない。さらには参加者の表情、姿勢、声のトーンなどにも注意を払い、真意を読み取る能力も必要となってくる。コミュニケーションスキルを磨けば、場の雰囲気を察知して、適切な言葉かけやユーモアを交えることができ、参加者のモチベーション向上や円滑な議論、良好な人間関係の構築ができる。

●ロジカルシンキング(論理的思考力)

「ファシリテーター」には、ロジカルシンキング(論理的思考力)が不可欠と言える。複雑な議論を整理し、問題の本質を見極め、議論の構造を体系化しなければ、会議を結論に導くことができないからだ。時には、多角的な視点から問題を分析して解決策を自ら思い浮かべる力も問われる。議論の質を高めるうえで、ファシリテーターの論理的思考力は欠かせない。

●タイムマネジメント(時間管理能力)

効果的なファシリテーションには、優れたタイムマネジメントスキルを要する。事前に綿密なタイムテーブルを計画し、会議中はその計画に沿って進行することで、限られた時間で最大の成果を上げることができる。テーマの重要度を見極め、柔軟に時間配分を調整する能力も必要となる。さらに、議論が長引きそうな場合は、機を見て割って入り、次の議題に進ませる判断力も問われる。

●コンフリクトマネジメント(対立解決能力)

「ファシリテーター」には、対立や衝突を適切に管理するコンフリクトマネジメント(対立解決能力)のスキルも求められる。意見の相違や対立は会議にはつきもの。ただし意見の対立は、良いアイデアを生み出すきっかけになるが、放置すれば議論の妨げにもなる。そのためファシリテーターには、対立の原因を冷静に分析し、双方の立場を尊重しながら、妥協点を探る能力が問われる。時には、一旦議論を中断し、個別に話し合う機会を設ける判断も必要だ。

「ファシリテーター」が上手い人の特徴

ファシリテーションを上手に行う人には、共通の特徴がある。主な特徴を紹介していこう。

●メンバーから信頼されている

優れた「ファシリテーター」は、参加者から確かな信頼を得ており、積極的に参加者とコミュニケーションを図る傾向がある。常に中立的な立場を維持し、特定の参加者に肩入れすることなく、全員の意見を尊重する。その姿勢が信頼につながり、参加者が安心して意見を述べる場を作るポイントとなる。また、議題に関する深い理解や、過去の成功事例などを知っていることも信頼を築いて上手くファシリテーションできる条件となり得る。

●分け隔てなく対応できる

参加者の地位や立場にかかわらず、分け隔てなく対応できるのも、優秀な「ファシリテーター」の特徴と言える。参加者の好感度や主観的な意見に流されては、適切なファシリテーションはできない。役職や年齢、経験の差に左右されず、全ての参加者に平等に発言の機会を与え、誰もが議論に参加できる環境を作るためには欠かせない要素だ。

●自らのアイデアを思い浮かべられる

議論の内容について自分なりの見解やアイデアを見出すのも、上手くファシリテーションを行うためには欠かせない。議論が停滞した際に適切な問いかけや提案ができる人は、議論を活性化させることができる。しかも、優秀な「ファシリテーター」は主観的な意見を押し付けない。加減を心得ており、あくまでも参加者の思考を促すきっかけとしてアイデアを投げかける程度にコントロールできる。

●黒子役になれる

自分ではなく参加者が主役になれるよう黒子に徹する能力を持っている人は「ファシリテーター」に向いていると言える。議論を行うのはあくまでも参加者であり、ファシリテーターはその議論を支援する役割である。自分の意見や考えを前面に出すのではなく、参加者の意見を引き出し、それらを組み合わせて結論に導く必要がある。ファシリテーターが黒子役になることで、参加者の主体性が高まり、より建設的な議論を促すことができる。

●高い観察力を持っている

鋭い観察力を備えていれば、参加者の表情、姿勢、声のトーンといった非言語コミュニケーションを読み取り、見えない感情や意図を汲み取ることができる。また優れた「ファシリテーター」は、参加者の発言頻度や内容、関係性なども注意深く観察し、議論の雰囲気や進行状況を的確に調整していく。そのため、柔軟に会議やワークショップを進行することができる。

「ファシリテーター」を決める際の注意点

「ファシリテーター」を選定する際には、以下の点に注意が必要だ。

●中立の立場の徹底

「ファシリテーター」は双方の意見を尊重しながら進めることが重要なため、組織内の人間が担当する場合は、完全に中立な立場であるかを確認しておかなければならない。特に、議題に利害関係がある場合や、参加者との上下関係がある場合は注意が必要となる。複数のファシリテーターを配置し、相互にチェックし合う体制を作ることや、外部のファシリテーターを起用することも一つの選択肢となる。

●「ファシリテーター」のレベルに依存しがち

「ファシリテーター」の能力によって会議の成果は大きく左右される。そのため、優秀なファシリテーターに依存しがちになる。これは組織全体のファシリテーション能力の向上を妨げる原因にもなる。複数のファシリテーターを育成し、経験を積ませることも重要だ。あるいは、ファシリテーターの役割を固定せず、参加者が交代で担当することで、組織全体のスキル向上につながる。

●一人では負担が大きい

大規模な会議や長時間のワークショップでは、一人の「ファシリテーター」に全ての役割を任せると負担が大きくなる。そのため、複数のファシリテーターで役割分担をすることが必要となる。例えば、進行役、記録係、タイムキーパーなどの役割を分担したり、メインとサブに分けたりすると効果的だ。また、テーマごとに専門知識を持つファシリテーターを配置したりすることで、より深い議論が可能になる。

●育成とサポート

組織全体でファシリテーションの重要性を認識し、その育成に投資することで、会議の質と効率を向上させることができる。例えば、ファシリテーション研修を実施したり、外部の専門家によるワークショップに参加させたりすることで、組織内のファシリテーターのスキルアップが図れる。

「ファシリテーター」がするべき準備

ファシリテーションをそつなく行うためには、入念な準備が欠かせない。以下で主な準備項目を紹介していこう。

●ゴールをあらかじめ設定しておく

会議やワークショップの成功には、明確なゴール設定が必ず必要になる。「ファシリテーター」は、主催者や関係者と事前に「何を達成したいのか」、「どのような成果を得たいのか」を協議し、参加者全員と共有できるよう準備しておきたい。また、ゴールに至るまでの工程も想定しておくと、当日に進捗を確認しやすくなる。

●アジェンダを決めておく

会議を効率的に行うために、アジェンダを事前に作成しておきたい。議題、所要時間、担当者を明確にし、重要度に応じて時間配分を調整しておくことがスムーズな会議進行には欠かせない。また、アイスブレイクや休憩時間も設定して、参加者の集中力を維持しながら十分な議論ができるように工夫を凝らしたい。ただし、タイムテーブルを固めすぎると調整が利かなくなるため、状況に応じて柔軟に変更できるよう、余裕を持った設計をしておくことが大切だ。

●認識のズレを解消しておく

参加者間で議題に対する認識にズレがある場合、議論の進行が難しくなるため、事前に関係者へのヒアリングを行い、各参加者の立場や意見、懸念事項などを把握しておきたい。認識のズレがある場合は、会議開始前に調整を図るか、会議の冒頭で現状認識の共有時間を設けると良い。議題に関する情報や関連データを事前に共有し、参加者全員が同じスタートラインに立てるように準備しておくのも効果的だ。

●シナリオを想定しておく

どのような議論が展開されるか、予想される意見の対立点は何か、どのような結論に至る可能性があるかなど、会議の進行に関するシナリオを事前に描いておくと良い。時間が不足した場合や議論が紛糾した場合の対応策も考えておくと、不測の事態に対応しやすくなる。ただし、シナリオに固執せず、実際の議論の流れに応じて柔軟に対応することも重要だ。

●必要な資料やツールを用意しておく

会議やワークに必要な資料やツールの準備は欠かせない。議題に関する参考資料やデータ、過去の会議録などを整理し、必要に応じて参加者に配布しておく。また、ホワイトボードや付箋、マーカーなどの文具や、プロジェクター、スクリーンなどの機器も確認し、時間管理のためのタイマーやアイスブレイクのための道具なども忘れないようにしたい。

まとめ

ビジネス環境が複雑化する現在において、会議におけて意見を引き出し、結論に導く「ファシリテーター」の役割は重要度を増しているが、さまざまなスキルや準備、姿勢が求められる役割でもある。そのため組織全体でファシリテーションの重要性を理解し、ファシリテーターの育成やサポートに注力する必要がある。例えば、社内でのファシリテーション養成制度の新設や、研修の実施、外部のワークショップやセミナーへの参加促進などで、ファシリテーターのスキルアップを図っていくと良いだろう。

よくある質問

●「ファシリテーター」に向いている人は?

「ファシリテーター」に向いている人は、以下のような特徴を持っている。

・メンバーから信頼されている
・分け隔てなく対応できる
・自らのアイデアを思い浮かべられる
・黒子役になれる
・高い観察力を持っている

●「ファシリテートする」とはどういう意味?

「ファシリテーション(facilitation)」とは、会議やグループワークなどを円滑に進行しながら、中立的な立場から議論を促し、参加者の相互理解や合意形成を支援することを言う。また、その役割を担う人のことを「ファシリテーター(facilitator)」と呼ぶ。
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