「働き方改革」のプライオリティは、「従業員の幸福度向上の追求」であるべき
本来、生産性が向上するか否かは、そこで働いている従業員に依拠するはずだ。では、社内で「働き方改革」を推進する管理部門の担当者は、少しでも“従業員の心持ちに寄り添ったこと”があるだろうか。時代の変化とともに、人々の意識も大きく変容しているのが今日だ。旧パラダイムは壊れつつあるといっても過言ではない。このような時代にあって、「組織風土を改善しないといけない」、「心理的安全性を高めよう」といいながら、ほとんどがトップダウン的に決められ、従業員は納得できないながらも従わざるを得ない、という企業も少なくないだろう。経営者にはいま一度原点に戻り、従業員の“心”に思いを至らせて欲しい。彼らは、「働き方改革」や「ワークライフバランス」、「コロナ禍」で疲弊しきっているはずだ。そのような状況で「生産性を上げる」ことは難しいだろう。そのため、「働き方改革」のプライオリティは、「従業員の幸福度向上の追求」であるべきだと考えられる。
「従業員ファースト」を目指す理由とは
世間が「働き方改革」に目を向ける以前から、これを実践されている経営者もいる。トヨタ自動車の豊田章男社長が共感し、日参している長野県伊那市の伊那食品工業で、最高顧問を務める塚越寛氏である。その著書『リストラなしの「年輪経営」』によると、塚越氏が実践する経営方針は、一般的に企業が採択しがちな「手段」と「目的」が逆転しており、「幸せな職場やチーム、幸せな社員を創ることが会社の目的」となっているのである。これを目的として、「働きやすさ」や「円滑なコミュニケーション」を徹底した結果、社員のモチベーションが向上し、非効率なものが排除され、生産性が向上した、ということのようだ。それで、48期連続増収増益を達成しているわけだから、素晴らしい企業である。ちなみに、“年輪経営”とは、「木の年輪は毎年少しずつ形成され、急に成長したりしない。それが自然な姿であり、企業もそうあるべき。そして、社会の一員としてしっかり役割を果たしていく」という経営を意味する。このような企業にとって、「働き方改革」、「SDGs」、「ESG投資」などは“今さら感”があり、ことさら騒ぎ立てて対策する必要もないのだろうと思う。社員が幸福感にあふれ、自分たちで考えて行動できるのだから、「管理」などという言葉とは無縁なはずだ。
また、伊那食品工業の社是は「いい会社を作りましょう」、そして以下の「いい会社を作るための10箇条」が掲げられている。
2.売れるからといってつくり過ぎない、売り過ぎない。
3.できるだけ定価販売を心がけ、値引きをしない。
4.お客様の立場に立ったものづくりとサービスを心がける。
5.美しい工場・店舗・庭づくりをする。
6.上品なパッケージ、センスのいい広告を行う。
7.メセナ活動とボランティア等の社会貢献を行う。
8.仕入先を大切にする。
9.経営理念を全員が理解し、企業イメージを高める。
10.以上のことを確実に実行し、継続する。
よくよく考えたら「当たり前」ではあるが、企業も従業員も“皆が幸せになる”ことを目的とした施策を掲げ、地道に取り組んでいけば、おのずと「働き方改革」に繋がっていくのだろう。
大曲義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ
社会保険労務士・CFP
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