正解のない時代、「意識改革」とそれに疲れた社員のはざまで…
10年後、あなたはどんな自分であり、どんな会社にいるのでしょう。わたしは高校1年生向けにキャリア授業も行っています。テーマは「25歳の自分創り」。彼らは10年後の自分を今描き始めています。ひとが成長していくその瞬間に立ち会うのはしあわせなことですね。
彼らの10年後を楽しみにしつつも、わたしたちは今を生きています。
誰も経験したことのない時代。IOTやAIなどの技術革新、グローバル化とその軋轢、社会制度が激変する現代社会、1年後を見通すのも困難な時代です。
「正解を持つ」ひとりのリーダーが引っ張り、あとは唯々諾々ついてくればいい時代は終わりました。正解は創る時代です。柔軟でかつ目的を失わず、常に大切なものを守りながら革新し続ける人や組織こそが残る時代です。
それにはひとりひとりがリーダーでありながら団結ある力を発揮させることが真剣に求められています。ひとりひとりをリーダーにできるリーダーこそが求められているとも言えます。
ひとつの方法として「意識改革」は何度も繰り返し叫ばれてきました。
いわく「みずからリーダーの自覚を持つべきだ」「顧客志向に変わるんだ」「みずから行動するんだ」などなど。
しかし社員はこっそりこう思っています。
「言わなくてもわかっているよ。いつまで意識改革に振り回されるんだ……」
最新技術に遅れるな。グローバルな意識を持て。激変する社会制度に対応せよ。
少なくとも何年も社会で活躍し、苦労もしてきた社員たちは「変わることへの要請」に疲れています。いつになったら落ち着くことができるんだろう。なんで変わり続けないといけないのだろう。
ひととして生きる素朴で切実な声です。しかし社会が変わり続けるのも事実。対応次第では会社が無くなる可能性もあります。
この狭間でなお、しなやかで強い社員たちを生み出せるのでしょうか?
ジレンマに陥る社員がまっさきに見るものとは
思考実験をしてみましょう。「実感」をこめて。「顧客志向」という言葉。いまやビジネス一般通念として「正しい意識」ですよね。
わたしも顧客志向の大切さは身に染みた実感としてあります。あなたも、同じような実感をお持ちでしょう。
さて、もし社員がこんな状況に陥っていたらどうしますか?
「顧客が無理で無茶だ。振り回されすぎて、正直、もう顧客志向はつらい。」
一度は経験するジレンマですよね。
顧客に寄り添う? 社員を大切にする? つかず離れずやりすごす?……
こんなとき、どんな「意識」を社員に求めたらよいのでしょうか?
社員の心の声はこんなにあわただしいものです。
(ああ、いやだ。分からない。何が正解だろう。わたしが決めていいのかな、自分が決めたことを後で上司に責められないだろうか、無難にした方がいいかな、無難にやり過ごすとかえってあとでややこしいかな……)
心の声は不安だらけ。いくら「顧客志向が第一」と言っても、社員にまず起こるのは不安なのです。
実のところ、このケースに正解はありません。
100の会社があれば100通りの意識、対応があります。顧客側に立って成功する会社もあれば、厳しい基準で顧客を選別して成功する会社もあります。
正解はありません。が、考えることで「社員がやる気を出し、リーダーになるには?」という条件が見えてきます。
社員の「真のやる気」にアクセスするメンタリングの原則とともに見ていきましょう。
メンタリングの原則で見る「やる気の出しどころ」
社員が判断に困った時や不安になった時、何よりも経営者や上司の姿を見ます。問題を見るのではありません。上に立つ人間がどのような姿勢で、どうやって対処するのか。問題に対峙する「ひと」の姿を見ているのです。
そもそも経営者や上司が動揺していたら社員は不安でなりませんし、もし社員の決断を責めるだけだったら、その社員は二度と自ら決断することはありません。また前に言われた「守るべき意識」が問題の瞬間にひっくり返されたとき、その社員は二度と「上の言葉」を信じません。
ひとはひとの姿を見て育ちます。尊敬し信頼するひとの姿をみてひとは育ちます。ヒトの本能でもあり、だからたとえば幼児は大人のやることをやりたがります。「ごっこ遊び」などを通して社会性や成長後の姿を刻み付けています。
ひとはひとを見て、「こうなりたい」または「こうなりたくない」というみずからの「やる気を出しどころ」を決めています。
その「やる気の出しどころの」の第一。それはなによりも姿勢です。
まずは何よりもその姿勢をみて「こうなりたい、なりたくない」を決めています。
激変する社会、どんな姿勢が問われ、どんな姿勢がひとのやる気と信頼を得るかをいまこそ考えるときにきています。
そして、二つ目にその姿勢を現した「行動基準」です。
理念やミッションやポリシーなどの類似の言葉はありますが、ここでは同じとします。要は、会社内・社員と会社外・顧客や社会に対して発信する「姿勢の表明」です。
「行動基準」が実際の姿勢と一致しているとき、ひとは多大なる信頼感をいだきます。
「行動基準」には正解はありません。
大切なのは、ソレを本気で信じていること。社員がソレを共有し、経営者や上司がたとえ目の前にいなくとも自分たちと同じ姿勢でいることを信じ切って、社員みずからの判断でソレを実行できるかどうかです。
事例。姿勢と行動基準。
2011年3月11日(金)14時46分。東北地方に未曽有の地震が発生しました。東京でも震度5強を観測し、首都が混乱したことはまだまだ生々しい記憶です。
この震災は夢の「東京ディズニーランド(以下TDR)」でも例外ではありませんでした。
この日7万人が来場していたというTDR。誰も経験したこともなく情報も錯綜している真っただ中、ゲストもキャストも(TDRではお客さまをゲストと呼び、スタッフをキャストと呼ぶ)不安と恐怖でパニックになったとしても誰も責めることはできません。
ところがTDRはいまなお語り継がれる光景を、キャスト(しかも社員ではなくバイトも)ひとりひとりの自主的な判断で「これぞTDR」を創り出したのでした。
TDRには、以下のことを大切にしているそうです。
「TDRで働く全員が共有している「会社として大切にするべきことと優先順位」=行動規準は、~中略~「Safety(安全)」「Courtesy(礼儀正しさ)」「Show(ショー)」「Efficiency(効率)」だ。効率は上記3つを心掛けてチームワークを発揮することで、お客様が楽しむための効率を高めるといった意味で使われている。」(*1)
このときあるキャストは自主的に売り物のぬいぐるみをゲストにもっていき「これで頭を守ってください」と渡しました。またあるキャストは長時間の待機でお腹のすくゲストのためにクッキーやチョコレートを配り始めました。
これらの行動には、熟練者から見れば未熟な部分もあったのかもしれません。しかしそんなことはこの未曽有の場面ではどうでもいいこと。大切なことはキャスト全員がこの「大切にしていること」を共有し、信じ切って行動したことです。この「信じ切って」とは行動基準と、それを大切にするTDRという会社の姿勢そのものを信じ切っているということです。わたしが自らの判断で行動してもかならず会社はわたしを支持してくれる。この信頼感があってはじめて「まさにTDR!」が産み出されました。
「根底の意識」と「意識改革」を超える改革
これまで見たことに共通するもっとも根底の「意識」があります。それは「前向きにとらえること」です。
正確に言えば、前向きにとらえるとまず「決める」ことです。
社会環境が激変するときの意識として「変わって成長していける!」もあれば、「決して変わらないものを見つけよう!」もありますね。
一見真逆ですが、共通点があります。
それは「どんな困難や問題にも、つねに前向きにとらえている」ということ。
外部からの困難や問題がなくなることはありません。たとえば社会環境の変化ならば、日本に起こるものは同じように全日本人が体験します。
しかし向き合い方に、違いがあるのです。
不幸ととらえ、自らの可能性を狭め、あきらめることもできます。
一方、前向きにとらえ、かえって自らの可能性を広げ深めることもできます。
「決める」のは自分なのです。
社員は、なによりも「前向き」なのか「後ろ向き」なのか、まずそこで「やる気の出しどころ」の向きを決めます。
どんな困難や問題も前向きにとらえ成長に変えていく風土では、経営者や上司と社員同士が「ひと」としての信頼を持ち続け、目指す未来と行動基準を共有し、実際にみずからの判断で行動している姿があります。
その時々に必要な意識はありますが、意識はしなやかに柔軟に変えても、創るべきはそんな会社の「姿」なのです。
このような「姿」を「在り方」と言います。
意識改革は大切。しかし、より大切なのは「在り方改革」です。
あなたが目指す「在り方」はどんな姿ですか?
「在り方」が動じないからこそ、社員はいつまでも安心して勇気をもって変わり続けられます。
メンタリングとは「在り方」である
メンタリングでは、最初に「ひと」の究極の姿を決めました。それは「自立創造型相互支援型人材」。
「どんな困難な状況や環境に左右されずそれを乗り越え、自分自身の最大限の力を発揮して、ビジョンに向かい、社会や会社に貢献する人材」
かれらは外部からのアメとムチでは動きません。
メンタリングとは、外部からコントロールするための一手法ではありません。
「ひと」はみずからの「真のやる気=一生続く成長への欲求」で動いていきます。
この「ひと」たちが集まった組織を「自立創造型相互支援型組織」と言います。
「ひと」の可能性を信じ、そのひとがみずから可能性を引き出すきっかけを与え続ける、つまり「真のやる気」にアクセスし続ける在り方こそが、メンタリングそのものなのです。
10年後、わたしたちはどんな自分であり、どんな会社にいるのでしょう。
わたしは、わたしの背中を、次世代の子供たちが見ていると思って仕事をしています。もちろん反省を繰り返しながらもがくことも多い。しかしそんな姿も見せていくことが、未来を作っていくと信じています。
5歳の子どもも、高校生も、ベテランも同じ「ひと」。
どんな年代でも、未来をつくる「ひと」の「在り方」は響き合うと信じています。
あなたとわたしの「在り方」が、今を生きるひとたちに眠る「真のやる気」のきっかけとなり、生活・社会を良くしたいという願いとともに今を創り、次世代への歴史を創っていくとしたら、こんなに幸せなことはありません。
メンタリング、いまこそはじめませんか?
*1 日経ビジネス ON LINE「3.11もブレなかった東京ディズニーランドの優先順位
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110512/219929/?rt=nocnt
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