今回は、既に就労可能なVISAを持っていて日本国内の他の法人で勤務している方を正社員等フルタイムで中途採用する際の注意点についてご案内します。既に就労可能なVISAを持っている点で前回紹介した外国人留学生の新卒採用と異なります。
外国籍の方の中途採用編
 今回は、既に就労可能なVISAを持っていて日本国内の他の法人で勤務している方を正社員等フルタイムで中途採用する際の注意点についてご案内します。
 既に就労可能なVISAを持っている点で前回紹介した外国人留学生の新卒採用と異なります。
 但し、就労可能なVISAとはいっても就労できる範囲はVISAごとに異なるため、就労可能なVISA保有=貴社での雇用が可能というわけではなく、雇用を開始する前に注意が必要となります。
 就労可能なVISAは、大きく分けて「居住系VISA」と「就労VISA」の二つに分けられます。
 居住系VISA次のように日本と何らかのつながりのある方に対して発給されるVISAです。
 最大のポイントは、居住系VISAをお持ちの方は合法的な業務である限り、どのような業務に従事することも可能だということです。
 つまり、居住系VISAをお持ちであることを在留カードで確認出来れば貴社での業務を開始することが出来ます。

<主な身分系VISA>
1.永住者VISA(在留資格「永住者」)
 永住VISAと呼ばれることも多いです。
 日本に長年住んでいる方や日本人等と結婚している方が保有していることがあります。
 他の身分系VISAとの違いとして、VISAの期限が無期限で、VISA更新の必要がありません。

2.日本人の配偶者等VISA(在留資格「日本人の配偶者等」)
 日本人と結婚している外国籍の方及び日本人の実子である外国籍の方が取得可能なビザです。申請1回あたりのVISAの期限は最長5年でVISA更新が必要です。

3.永住者の配偶者等VISA(在留資格「永住者の配偶者等」)
 永住者VISAを持っている方と結婚している外国籍の方及び永住者VISAをお持ちの方の実子が取得可能なVISAです。申請1回あたりのVISAの期限は最長5年でVISA更新が必要です。

4.定住者VISA(在留資格「定住者」)
 このVISAの対象者は幅広いです。イメージしやすい例としては、日系2世や3世の方などが取得可能なVISAです。申請1回あたりのVISAの期限は最長5年でVISA更新が必要です。

 永住者VISA以外の身分系VISAをお持ちの方を雇用する場合は、入社後VISAの更新が行われているかを雇用主側で確認していくことが必要となります。
 残念ながら時折、「日本人(または永住者)の配偶者等VISAを持っている従業員が実は数カ月前に離婚していたことがわかった……」というご相談を頂くことがあります。
 家庭内のセンシティブなことですが、離婚してから6カ月が経過してしまうと、仮に配偶者VISAの有効期限が残っていたとしても、法律上VISA取消の対象となる可能性があります。
 貴社での勤務を継続するためには、就労VISA等への在留資格変更許可申請を迅速に行うことが必須です。
 外国籍従業員の方の雇用に関しては、VISA取得・入社の際のみならず、入社後の管理も大切です。
 弊所では、家族状況に変更が生じた場合に本人から会社に速やかに届け出てもらう体制の整備と合わせて、一人一人のVISAの種類と期限を管理するためのシート等を利用することをおすすめします。
 ちなみに幣所ではクライアント法人様で雇用・受入している外国籍従業員・エクスパットのVISAの書類・期限等をリストで管理しており、VISA更新期限が近くなると連絡をするリマインドサービスもご提供しています。
 VISAの専門家が一番直接的にお役に立てるのはVISA申請の場面となりますが、幣所では申請時のみならず、クライアント法人様の平時の相談窓口も開設しています。

 繰り返しとなりますが、居住系VISAを保有できている限り、貴社での業務内容には制限がありません。

 一方、就労VISAをお持ちの方を中途採用する場合、その就労ビザで貴社での業務に従事することが出来るかを事前に確認することが必要です。
 まず、就労VISA全般に言えることは、前回までにご紹介のとおり、いわゆる単純労働は認められないということです。
 弊所でも中途採用に関する相談を多く受けておりますが、ほとんどの場合、中途採用後の業務内容と前職の業務内容は同じか関連性の高いものです。
 前回も案内したとおり、就労VISAの代表的なものは技術・人文知識・国際業務VISAであり、単純労働を除くほとんどの業務はこのVISAで行うことができます。
 注意が必要ケースについて、ご紹介します。
【高度専門職VISA保有者の中途採用】
 高度専門職VISAの維持のためには、VISAを取得した際の雇用法人との雇用関係の継続が条件となります。
 つまり、転職をしてVISAを取得した前職を退職してしまうと、たとえ転職後に同様の業務に従事する場合でもVISAを維持することが出来ません。
 この場合、転職先での雇用条件をもとに再度「高度専門職ポイント計算表」を使い、高度専門職VISAの申請要件に該当するか確認の上、高度専門職VISAへの在留資格変更許可申請を行い、許可後に転職先での勤務を開始することになります。
 もし高度専門職VISAの要件を満たさない場合、他の就労VISAに在留資格変更許可申請を行い、許可後に転職先での勤務を開始することになります。
 *高度専門職VISAについては、ご参考までに【グローバル雇用…意外と知らないVISAのツボ】第3回 海外からの出向者編 Vol.3も合わせてご覧下さい。

【教授VISA保有者の中途採用】
 例えば、日本国内の大学で研究員をしていた方を企業が研究職として中途採用する場合、VISAの種類に注意が必要です。
 大学の研究者で概ね月額18~20万円以上の報酬を受けている方は、基本的に教授VISAを保有しています。
 教授VISAというと、大学教授専用のVISAというイメージを持ちがちですが、大学の研究員であれば教授の職位になくとも取得が可能なVISAです。
 例えば、職位が講師の方や学生に対して授業を行わない研究員の方も対象となります。
 大学を退職して企業で研究関連業務に従事する場合、教授VISAで勤務することはできず、研究内容に応じて技術・人文知識・国際業務VISAまたは研究VISAへの在留資格変更許可申請を行い許可後に勤務を開始する必要があります。
 少し細かい点となりますが、研究所で研究業務にあたる場合や研究所以外の機関で基礎研究を行うなどは研究VISA、その他の場合は、技術・人文知識・国際業務VISAに変更することになります。この区別は詳細の業務内容等に応じて判断する必要があります。

【教育VISA保有者の中途採用】
 中学校や高等学校等大学より下の教育機関で教員をなさっている方が保有しているVISAです。
例えば、教育VISAをお持ちの方を通訳・翻訳業務担当者などとして中途採用する場合、技術・人文知識・国際業務VISAへの在留資格変更許可申請が必要となります。
 また、例えば転職先で同じく英語教育にあたる場合でも 、業務先が学校ではない場合には、技術・人文知識・国際業務VISAへの在留資格変更許可申請が必要となります。

【企業内転勤VISA保有者の中途採用】
 あまりケースとしては多くないかと思いますが、海外の親子会社・関連会社等から日本法人に出向している方を中途採用する場合にも注意が必要です。
 企業内転勤VISAでは、あくまで出向元外国法人と資本関係等のある日本法人における出向者として活動することが前提となります。
 そのため、現職を退職して他社に中途採用される際には、技術・人文知識・国際業務VISA等適切なVISAに在留資格変更許可申請を行うことが必要となります。

 ご紹介した例に該当しない場合で、現在お持ちのVISAでの中途採用・雇用開始に不安を感じる場合、入国管理局やVISA申請専門家に一度ご相談頂くことをおすすめします。
 相談をしても確信が持てない場合、「就労資格証明書交付申請」という手続きを利用することが可能です。
 手続きのための書類はVISA申請とほぼ同様のものが必要となりますが、現在お持ちのVISAで中途採用後の業務に従事することが出来るか否かを入国管理局が審査し、問題ない場合は就労資格証明書という証明書が入国管理局から発行されます。
 入国管理局にお墨付きをもらうようなイメージです。

 さて、ここまで中途採用時に保有しているVISAについての注意点を紹介しました。
 VISA自体に関することではないのですが、中途採用の際に外国籍内定者の方にアドバイスしてあげると有益なことが一点あります。
 それは、「所属機関等に関する届出」を提出することです。
 勤務先が変わった際に、入国管理局に提出することが外国籍の方に義務付けられています。
 VISAの種類によって「活動機関に関する届出」・「契約期間に関する届出」と名称は異なりますが、法務省ウェブサイトから様式をダウンロード・印刷し、前職及び転職先の情報を本人が記入し、在留カードのコピーと一緒に入国管理局に郵送すれば手続きは終わりです。
 会社ではなく本人が行う必要のある手続きであるため、実務をしているとかなりの割合でこの手続きを失念しているケースが多いです。
 簡単な届出ですが、この届出義務も法律上の義務ですので、違反すると次回のVISA更新の時などに不利益な要素となりかねませんので、是非アドバイス頂ければと思います。
 転職先で就労が可能なVISAを既にお持ちの場合や、在留資格変更許可申請を通じて適切な就労VISAを取得した後は次のVISA更新(在留期間更新許可申請)までは、雇用状況等に変動がなければ特段のVISA関連の手続きは不要です。

 最後に、転職後最初のVISA更新申請(在留期間更新許可申請)についてご案内します。
 ※前職で取得した就労VISAで転職先の業務を続けた場合を想定しています。

 前回同様法務省ウェブサイトで一般的な必要書類をご確認頂けます。
 ただし、前回もご案内したとおり、こちらはあくまで最低限必要な書類のリストとなり、転職に伴うVISA更新申請においては、幣所経験上他にも必要となる書類が多々あります。
 ですから、法務省掲載の必要書類に加えて、前職の退職を証明する書類、転職先法人に関する書類を合わせてご用意頂くことをクライアント様にお願いしております。
 前回ご案内のとおり、留学生の方の新卒採用の場合など初めて就労VISAを取得する際の申請では、学歴など採用内定者側要件、業務内容・報酬額などの労働条件及び雇用する法人の財務状況等を証明する各種書類を入国管理局に提出し審査を受けます。
 しかし、転職の場合、転職先の法人における労働条件及び転職先の法人に関する情報について入国管理局の審査を受けておらず、これらに関する書類の提出を求められる可能性が高いからです。
 更新申請の準備は少し早めに余裕を持って開始することをおすすめしています。
 更新の際に審査が難航するケースとして以下のようなものがあります。

1. 住民税未納や社会保険料未納
 住民税については特別徴収、社会保険についても厚生年金保険・健康保険に加入していることが一般的と思いますが、何らかの理由でこれらに未納がありますと審査上 マイナス要因となります。
 事前に確認し、もし手違い等がありましたら納付を済ませる対応が必要です。

2. 無職期間が連続3ヶ月超
 法律上、就労VISAをお持ちの方が連続して3ヶ月を超えて無職でいる場合、VISAの取り消し対象となっており、VISA更新申請時に無職期間が長いことが判明するとマイナス要因となりえます。
 前職を会社都合退職した場合や就職活動に専念していた場合など合理的な理由がある場合、入国管理局側が事情を理解できるよう申請の際に書類で説明を行うことをおすすめしています。

 外国籍の方の間では、VISA更新は比較的簡単だと思われている方が多い印象を受けていますが、転職直後のVISA更新の場合、今回ご紹介したような注意点を念頭に対応する必要があります。

 次回「外国籍アルバイト雇用の留意点」では、アルバイトとして外国籍の方を雇用する際の留意点についてご案内します。
 弊所でも正社員や契約社員としての雇用と合わせて、アルバイト雇用についての多くご相談を頂いております。
 外食産業等人手不足が問題となっている中、外国籍の方のアルバイト雇用を検討なさっている法人様も多いかと存じます。
 是非次回もご覧下さい。
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