前回は、出向者の方が取得する主だった就労ビザとして、企業内転勤ビザ(在留資格「企業内転勤」)と技術・人文知識・国際業務ビザ(在留資格「技術・人文知識・国際業務」)について紹介しました。
海外からの出向者編 Vol.3
 前回は、出向者の方が取得する主だった就労ビザとして、企業内転勤ビザ(在留資格「企業内転勤」)と技術・人文知識・国際業務ビザ(在留資格「技術・人文知識・国際業務」)について紹介しました。
 今回は、同じ出向者の中でも、役員などの上級職位者や極めてハイスペックな人材の際に活用が考えられる就労ビザとして、経営・管理ビザ(在留資格「経営・管理」)と高度専門職ビザ(在留資格「高度専門職1号」)についてご紹介します。
 比較のため、適宜「【グローバル雇用…意外と知らないVISAのツボ】2.海外からの出向者編Vol.2」もご確認下さい。

経営・管理ビザ

【出向条件に関する要件】
1. 業務内容
日本法人の役員・部門長等として赴任して、事業の運営や管理業務を行うことが必要となります。実務上この要件が重要になります。

2. 出向中の報酬額
 日本人と同等以上の報酬額であることが必要となります。最低金額については法律上規定されておらず、入国管理局側も明確な基準を出していませんが、社内の他の役員の方の報酬と比較して遜色ないか否かが1つの目安となるかと思います。

3. 出向中の給与支払元
 企業内転勤ビザと同様になります。
 A. 出向先の日本法人が全額支払う
 B. 出向元の海外法人が全額支払う
 C. 出向先の日本法人と出向元の海外法人がそれぞれ支払う
 出向目的によっても、出向先・出向元の費用負担に対する考え方が異なると思いますが、いずれのケースでも対応できます。

 企業内転勤ビザとの違いとして、出向元の海外法人と出向先の日本法人との関係性や出向期間に関する制限も原則ありません。

【出向対象者に関する要件】
4. 学歴
 企業内転勤ビザと同様、学歴に関する要件はありません。

5. 職歴
 3年以上の事業運営・管理の職歴が必要となります。この要件は、企業内転勤ビザや技術・人文知識・国際業務ビザにはない要件です。日本法人での任務が重要なものであるため、それなりの実務経験を有することが必要とされるためです。
 ただし、大学院で経営や管理に関する科目を専攻した場合、その専攻期間もこの実務経験に含めることができます。
 例えば、MBA(経営学修士)を取得しており、2年間の経営・管理に関する専攻期間がある方の場合、事業経営・管理の実務経験が1年間あれば、合計3年間として計算されます。
なお、この実務経験は、出向元法人でのものである必要はありません。
企業内転勤ビザでは、要件の1つとして、日本法人への転勤前に出向元法人での在籍期間が1年以上必要となっていましたが、経営・管理ビザについては、出向元法人での在籍期間に関する要件はありません。
 この実務経験に関しては、これまでの職歴が事業経営・管理に関するものであると認められるか個別的な判断が必要となります。

 要件面は以上となりますが、以下の点に注意が必要となります。
【注意点】
■出向先日本法人の規模
 資本金または出資金の額が500万円以上であることが必要です。
 この金額は、経営・管理ビザを取得する方1名あたりの最低額となります。
 資本金額が500万円未満の場合、日本人等の常勤職員を2名以上雇用していることで、この基準を満たしているものと認められます。
 実務経験上、グローバル企業や外資系企業においては、規模に関する要件を満たせないケースは極めて少ないかと考えます。

 より注意が必要となるのは、次の点です。

■日本法人内でのポジション、他の経営・管理ビザ保有者の有無?
 出向条件に関する要件の「1. 業務内容」で記載したとおり、事業の運営や管理業務に従事することが大前提となります。
 そのため、例えば、役職上は取締役や部門長であっても、実質的には上位の役員の指示に従って業務を行っている場合、部門の独立性がなく権限が極めて制限されている場合などは、経営・管理ビザの要件を充たさないと判断される可能性があります。
 また、既に、同じ業務を担当している経営・管理ビザの保有者がいる場合には、それぞれの業務内容の違い等を入国管理局に説明しておくことが必要と考えます。

 「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ」と比較すると、経営・管理ビザの取得が認められる業務内容は限られています。
 そのため、経営・管理ビザで申請を行い、経営・管理ビザは認められなくとも、「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ」が認められる可能性は大いにあります。
 来日する出向者の意向や事前の入国管理局や専門家等への相談結果を踏まえ、申請するビザの種類を決め、申請後に入国管理局から申請するビザの種類を変更するよう求められた場合には、変更の手続きをすることとなります。


 さて、海外からの出向者編の最後に、高度専門職ビザ(在留資格「高度専門職1号」を紹介します。
 名前のとおり、ハイスペックな外国籍の方のために新設された就労ビザで、現在法務省も積極的にPR中です。
 弊所にも、このビザの申請に関するご質問・ご相談が最近増えてきています。
 ビザの内容としては、前回と今回紹介した「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ、経営・管理ビザ」の上級版といえます。
 このビザは、正確には在留資格「高度専門職1号」という名称で、日本での業務内容に応じて、イ・ロ・ハの3つに分かれています。
 イ・ロ・ハというネーミングが日本的ですね……。
 高度専門職1号ロが、「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ」の上級版となり、高度専門職1号ハが、経営・管理ビザの上級版となります。
(※高度専門職1号イは、研究員や大学の教員等を対象とするビザなので、今回は割愛します。)
 このビザのメリットを見てみましょう。
【主なメリット】
・家事使用人(家政婦)を雇用できる
 経営・管理ビザと同様に海外から家事使用人を呼び寄せることができます。
 ※経営・管理ビザと異なり、出向者の方の世帯収入が1,000万円以上必要です。

・一律5年の在留期限
 就労ビザ一般で一回の申請で認められるビザの期間(在留期間)の上限は5年です。
 ただし、出向期間5年で申請を行ったとしても、入国管理局の審査の結果、1年や3年など短いビザしか認められないことがあります。
 その場合、期限が迫る前に、ビザの更新申請(在留期間更新許可申請)を行う必要があります。
 高度専門職ビザ(在留資格「高度専門職1号」)では、申請が許可されれば、期間は一律5年となっています。
 ビザ更新の手間が省けるため、1つのメリットとなります。

・無期限のビザへの変更が可能
 高度専門職ビザ(在留資格「高度専門職1号」)を取得してから3年経過すると、高度専門職2号ビザへの変更申請を行うことが出来るようになります。
 高度専門職2号ビザの期間(在留期間)は無期限です。
そのため、出向期間中のビザ更新手続きが不要となります。
 ※出向終了後はビザを維持することはできません。
 出向勤務が短期の場合にはメリットとなりませんが、長期の赴任を予定している場合、一つのメリットとなります。

・審査のスピードが速い
 高度専門職ビザの申請については、入国管理局が優先的に審査を進めるため、他の就労ビザよりも審査期間は短く済む可能性があります。

 次に、申請要件についてですが、高度専門職ビザの申請に当たっては、二段階で要件を充たさなければいけません。
 1つ目の要件は、これまで紹介した、「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ」「経営・管理ビザ」のうち、該当するビザの要件を充たす必要があります。高度専門職ビザが、これらのビザの上級版であるため、まずは前提として、いずれかのビザの申請要件を充たす必要があるからです。
 そして、2つ目の要件は、「高度専門職ポイント計算表」に記載されている要件のうち該当するものにチェックをし、合計点数が70点以上となることです。70点になれば、申請可能です。
 ※「高度専門職ポイント計算表」は日本語版と英語版があり、どちらも法務省のウェブサイトからダウンロードできますので、是非ご確認下さい。
 高度専門職ビザの申請の際、他の就労ビザの申請と異なり、入国管理局での申請受付前に一度審査官の事前確認を受けます。
 この事前確認で問題がなければビザ申請が受け付けられますが、実務上、事前に審査官が内容を確認した上で申請を受け付けているため、許可を受けられる可能性が高いです。

 二段階の要件を充たしている場合、高度専門職ビザを申請することが可能ですが、場合によっては、あえて、「企業内転勤ビザ」「技術・人文知識・国際業務ビザ」「経営・管理ビザ」を選択した方が良い場合もあります。
 最後に、高度専門職ビザの申請に当たっての注意点を紹介します。
【注意点】
■申請に必要な書類数
 申請の二段階目の要件として、「高度専門職ポイント計算表」で70点以上必要であることを紹介しました。
 そして、該当するポイントを証明するための書類を原則全てビザ申請時に提出する必要があります。
 そのため、企業内転勤ビザ等他のビザを申請する場合と比べ、用意する書類数が増える可能性があります。また、提出した全ての書類が申請上有効と認められるわけでもありません。
 申請書類の準備に時間がかかりそうな場合、あえて高度専門職ビザを選ばないことも1つの選択肢です。

■家事使用人雇用のハードル
 家事使用人の雇用の際、高度専門職ビザでは、出向者の世帯収入が年収1,000万円以上必要となります。経営・管理ビザには、このような制限はないため、世帯収入が1,000万円を下回る場合で、経営・管理ビザの申請要件を充たしている場合、あえて経営・管理ビザを申請する選択もあります。
 ※経営・管理ビザの申請要件を充たす方の場合、年収1,000万円以上の方が殆どだと思いますが、念のためご紹介しました。

■日本語能力・日本国内の大学・大学院卒業歴
 「高度専門職ポイント計算表」を見るとわかりますが、日本語能力(日本語能力検定1級:N1程度)と日本の大学または大学院卒業の2つの項目で合計25点になります。
 他の項目の合計で70点に到達すれば、この2つの項目に該当する必要はないですが、この2つの項目を外して70点に到達するの若手の出向者の方には中々厳しいです。
【まとめ】
 今回は、出向者の方向けの就労ビザのうち、特殊なものとして、経営・管理ビザと高度専門職ビザについて紹介しました。
 前回のまとめでも書きましたが、あくまで基本は企業内転勤ビザです。企業内転勤ビザの枠内に収まらない場合、他のビザの検討に移ります。

 それでは、今回の締めくくりに、事例を見てみましょう。
 次の場合、どの就労ビザを申請するのが良いでしょう?

【事例】
 ITサービスを提供しているX国法人Y社は、従業員であるA(Y社技術部門の運営・管理の経験10年/入社12年目/X国内のC大学院で経営学修士号を取得済)を日本法人Bに出向させたいと考えている。
 日本法人Bは、X国法人Yの100%子会社で、Y社と同じITサービスを提供している。
 今回の出向期間は5年を予定しており、B社の取締役として、日本市場における新規サービス開発の責任者に就任することとなった。
 日本法人への出向期間中の年収は2,500万円で、出向先のB社が全額を支払う予定である。

<答>
 経営・管理ビザが認められる可能性が高いと考えます。また、高度専門職ビザの 申請も可能と考えます。


 「海外からの出向者編」を全3回にわたってご紹介しました。
 個別具体的なケースに沿ったご相談をご希望の場合等ご不明の点がございましたら、お気軽にお問合せ下さい。
 次回来月の掲載予定は、「留学生の採用編」となります。
 海外展開などを視野に、日本国内の専門学校・大学・大学院に在学中の留学生の雇用をご検討の企業の皆様に是非ご覧ください。
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