前回は、女性の活躍度を測る指標である女性管理職比率が日本は1割程度であり、過半数の企業においては女性管理職が全くいないこと、一方で女性の就業意欲は出産後に高まっていること、を説明してきました。
ところで、そもそもなぜ女性が活躍する企業や社会を創る必要があるのでしょうか。性差別なく機会を享受できる社会を実現するという点は疑問の余地がありませんが、ここではあえて経営の視点から女性が活躍するべき理由を検討してみます。
そもそも、なぜ女性が活躍する必要があるのか?
 前回は、女性の活躍度を測る指標である女性管理職比率が日本は1割程度であり、過半数の企業においては女性管理職が全くいないこと、一方で女性の就業意欲は出産後に高まっていること、を説明してきました。
ところで、そもそもなぜ女性が活躍する企業や社会を創る必要があるのでしょうか。性差別なく機会を享受できる社会を実現するという点は疑問の余地がありませんが、ここではあえて経営の視点から女性が活躍するべき理由を検討してみます。

 まず企業にとって、女性を活躍させるべき理由は次の3つです。
 ①人材不足社会の到来に向けて、質のいい人材を多く確保するために
 ②多様化した顧客ニーズを満たすイノベーションのために
 ③成果と部下の満足度をもたらすリーダーを確保するために

 また、女性当人にとって、子どもを持っても仕事で活躍するべき理由は次の3つです。
 ①出産離職で失う生涯年収は2億円以上
 ②保育園激戦区ではいちど離職すると保育園に入れなくなる
 ③長く働くためには管理職を視野にいれたほうがよい

 では、それぞれ見ていきましょう。

企業にとっての女性を活躍させるべき理由

①人材不足社会の到来に向けて、質のいい人材を多く確保するために

 日本社会は、戦後は一貫して人口が増加傾向でしたが、2008年に1億2,808万人というピークに達した以降、減少傾向にあり、2050年には人口が1億人を切り、2060年には生産年齢人口(15~64歳。いわゆる労働力となる年齢層)がピーク時の半分になると予測されています 。つまり、これまでの企業活動を、現在の1/2の人数でまわさなくてはならない時代が来るのです。さらに少子高齢化が進むことで、この頃は2.5人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上となると予測されています。企業の現場では現在でも「人がいない」「若い人が入ってこない」という実感があろうかと思いますが、この傾向がますます強まるということですね。
 経済が右肩上がりの時代は「均質で、長時間働く労働力を、大量に使う」という企業活動が成果につながりますが、こうした人材不足かつ超高齢化社会では、「多様で、短時間しか働けない労働力でも、必要最低限で使う」という企業活動にシフトする必要があります。つまり育児中の従業員、介護中の従業員、持病を抱えた従業員など、働く時間や場所に制約を抱える人材(私は制約人材と呼んでいます)をうまく活用できなければ、そもそも企業活動が立ち行かなくなるということです。なかでも育児中の女性は前回も述べた通り就労意欲は高いにも関わらず、育児との両立が課題となって約6割が退職に至っています。つまりこの点に対する施策を講じるだけで、企業は知識や経験がある人材の流出を防ぎ、人材を確保できるのです。


②多様化した顧客ニーズを満たすイノベーションのために

 また、大量生産・大量消費の時代では均質なモノを大量に作っていればよかったのですが、現在のように消費者の嗜好が多様化し、技術進歩のスピードも速い時代となると、次々と新しい商品やサービスを生み出す力が必要となります。このような経営環境の中ではイノベーションを生み出せる組織であることが重要ですが、複雑多様な経営環境に対応するには、組織の中に同じ程度の多様性を確保する(最小有効多様性の原理)ことで知識創造が行われやすいと言われています 。つまり消費者に女性が多いのであれば、その市場に対峙する企業組織も女性の割合を高めておくことが、イノベーションの可能性を高めるのです。


③成果と部下の満足度をもたらすリーダーを確保するために

 実は、組織を率いるリーダーとしても女性は適しています。ある研究では、リーダーシップの資質のうち組織の成果と部下の満足度をあげる資質については、女性が男性を上回ることが分かっています 。つまり女性は、組織の成果だけでなく、部下の満足度を同時にもたらすリーダーになる可能性が高いのです。ただこれは女性という性別の問題ではなく、男性リーダーが男性的な力強いリーダーシップのみを周囲に期待されるのに対し、女性リーダーは男性的な力強さに加えて優しく協調的な側面も同時に期待されるため、その期待に応えるための努力を通じてこれらの資質を 後天的に身に着けることが多いからです。ですので、ただ女性をリーダーに据えればいいという話ではなく、リーダー育成対象に女性を含んでおくことで、結果的にいいリーダーを手に入れやすいということです。

■女性にとっての活躍するべき理由

①出産離職で失う生涯年収は2億円以上

 女性当人にとっての活躍するべき理由の筆頭は、生涯年収です。残念ながら現在の日本社会では、結婚や出産でいったん離職してしまうと、正社員として再就職することは極めて難しくなっています。ある調査では、結婚等で一度仕事を辞めた場合、再就職で年収300万円以上になる女性はわずか12.0%、400万以上となるとたったの5.6%であることが分かっており、半数以上の女性の再就職は年収100万円前後のパートタイムとなります。大卒女子総合職が育児休業を取得することで離職せずに定年まで38年間働き続けた場合の平均生涯賃金が約2.6億円であるのに対し、出産を機に退職してパートとして再就職した場合の生涯賃金は5千万円となっています。つまり、いったん退職することで正社員という道が閉ざされると、結果的に2億円以上の生涯賃金の差が生まれるのです。もし正社員として働きたいならば、ライフイベントでも「辞めない」ほうが合理的です。


②保育園激戦区ではいちど離職すると保育園に入れることが難しくなる

 子どもを持ちながら働くためには、保育園という子どもの預かり場所の確保が重要です。しかし都内をはじめとする保育園では常に定員満杯です。待機児童問題が解決しない限り、出産を機にいったん離職してしまうと保育園に預けられる可能性をほぼ永久に失うことになります。というのは保育園にこどもを入れるためには親が就業状態であることが必須だからです。離職すると、こどもを保育園に預けられないために、働きたくても働けないという状況に陥ります。本来は親が入園のタイミングを選べる社会であってほしいとは思いますが、現状は程遠いため、もし働き続けたいならば、出産・育児で離職しないほうがよい、と言えます。そして前回に説明した通り、出産前に予想している以上に、出産後に仕事への意欲が高まる人は多いのです。


③長く働くためには管理職を視野にいれたほうがよい

 もしも長く仕事を続けるつもりであれば、管理職に昇進したほうが合理的です。プレイヤーは労働時間やチームメンバーの選択権を持てませんが、管理職であれば自分で決定できる範囲が大きくなります。また、自分が昇進しなければ、同期や後輩が先に昇進して上司になったりします。より多くの責任を負う管理職は非管理職より給与が多くなるのは当然で、大卒30-50代の平均給与を管理職(課長以上)と非管理職で比較すると、月給にして11万円~25万円、ボーナスにして32~82万円の差があることが分かります。昇進しないということは、責任への対価であるこの報酬を手放すということです。管理職になるということは、意思決定側になるということでもあり、自分や後輩が働きやすい職場づくりに貢献できるのも非金銭的な報酬だと思います。
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