近年、管理職の役割が一段と高まっている。管理職の成長が会社の成長に大きく影響しているだけに、管理職の育成に力を入れようと「管理職研修」の在り方を見直す企業が増えている。本稿では、「管理職研修」が必要な理由やその目的、管理職としての知見を身に付けるための具体的なカリキュラムなどを解説したい。
育成に有効な「管理職研修」の内容とは? ポジション別の目的や具体的なカリキュラムを解説

「管理職研修」とは?

「管理職研修」とは、管理職に求められる役割や指針を認識し、「組織」「業務」「カネ」「ヒト」を円滑に、かつバランス良くマネジメントするため、マインドの醸成やスキルの理解・習得を図る研修である。これらを身に付けることで、組織の成果を最大化していくことができる。

◆管理職に求められる役割

「管理職研修」が必要となる背景として、管理職としての下記の役割を理解しておくことが重要である。

●チームの方針設定
管理職は、リーダーシップを発揮しながら組織を作り上げていく必要がある。そのためには、経営戦略に沿ってチームの方針や課題を明確に打ち出し、メンバーと共有していかなければいけない。だが、中にはそれをスムーズにできない管理職もいる。メンバー間の統制が取れないと、チームとしての一体感を醸成しにくい。研修を通じ、目指すべきゴールに向けて組織を取りまとめていくノウハウを習得する必要がある。

●部下の適切な育成・評価
管理職の役割の一つに部下の育成・指導がある。それを怠ってしまうと、部下により高度な仕事をアサインできなくなる。それだけに、部下を適切に成長させるための育成ノウハウやスキルを身に付けなければいけない。

また、部下を正当に評価し、面談を行うことも管理職にとって重要な役割となる。部下のモチベーションに大きな影響を与えるからだ。だからこそ、管理職としての評価能力を身に付ける必要がある。会社として、どのような行動・成果を評価すべきか。その基準を理解しておく必要がある。

●関係者間の連携・調整
管理職は業務を進める上で、一般社員以上に他部署や組織の上層部などとコミュニケーションを図る機会が多くなる。それぞれ立場が違えば問題意識も視点も違う。時には、関係者間での調整が上手くいかない、部下と上層部との板挟みになるといったケースもあり得る。いかに関係者の意見・意図を汲み、より良い落としどころを見つけ、協力を得るかという連携や調整のスキルが必要になるため、研修を通して身に付けておきたい。

●現場の業務とマネジメント業務のバランスをとる
管理職に昇進したとしても、プレイヤーであった時の感覚がなかなか抜けきらず、十分に機能していないといったケースが少なくない。しかも、管理職とはいえプレイングマネージャーである割合が増えて来ている。それだけに、現場の業務とマネジメント業務のバランスを図りながら、管理職としての役割を果たすことが求められる。こうした背景も「管理職研修」を行う理由の一つといえる。

「管理職研修」の目的

次に、「管理職研修」の目的について考察してみよう。「管理職研修」の対象者は3つに大別できる。それぞれによって、特徴や目的が変わってくることを理解しておきたい。

●新任管理職の場合

新任管理職とは、新たに課長代理や係長などの役職に昇進した人を言う。主に現場での運営責任者として上司を補佐する他、部下を指導するプレイングマネージャーとしての役割を務める。それだけに、管理職が担うべき役割とは何かを理解すると共に、プレイヤーの視点とマネージャーの視点の両方をバランスよく持ち合わせた上で、業務を進めていく必要がある。ただ、マインドや行動をシフトするのは容易ではない。それを促すための研修を行うことが重要だ。

●中間管理職の場合

中間管理職は、まさに新任管理職と上級管理職の中間の役割を担う。現場の運営責任者である新任管理職をサポートする一方、経営陣に近い上級管理職のパートナーとして活躍することが求められる。一般的には、課長職がこれに該当する。リーダーシップだけでなく、マネジメントのためのスキルを向上させるのが、研修の主な目的となる。

●上級管理職の場合

上級管理職は担当部門における経営者的なポジションであると言って良い。一般的には部長が該当する。経営陣に近い立場となるだけに、一緒に経営を推進していくことが求められる。そのため、上級管理職には経営の視点や思考を意識してもらい、経営情報や経営データを捉えて戦略を立てることや、組織全体をどうマネジメントするかを学ぶことが研修の目的となる。

「管理職研修」の内容

続いて、「管理職研修」で実施すべき内容を説明したい。以下の9つを紹介する。

●管理職としての役割理解

まずは、管理職としての役割を適切に理解してもらう必要がある。その認識が甘いと、管理職の業務に適応していくことが困難になる。一般的に、管理職に任命される従業員はプレイヤーとして現場で実績を積み上げており、そのノウハウに精通している。そのために、管理職としても仕事の成果ありきのマネジメントをしがちな傾向がある。

だが、結果ばかりを求めてしまい、部下を育成する、キャリアを支援するなどの意識が低かったりすると、長期的に見るとチームの業績が低下してしまう可能性がある。それだけに、管理職としての役割行動フレームに基づいてマネジメントを図ることが重要となる。

●マネジメントの基礎力

業務プロセスは当然だが、マネジメントを機能させる基本的なプロセスの理解も欠かせない。具体的には、組織の運営方針や計画を策定した上で、個々のメンバーの仕事を設計し、アサインしてその進捗を管理するというマネジメントサイクル、それぞれのフェーズで何に留意し、いかに実行していくかの勘所を抑えておく必要がある。

●コンプライアンス

役職や立場が変わると、自ずと権限の幅は広がってくる。しっかりとした判断軸を持っていないと、気付かないうちにコンプライアンスに反する行動をしかねない。それが、企業経営に大きな損失をもたらす可能性もあり得る。そうならないためにも、管理職にどのような行動がコンプライアンス違反となるのかを意識付けることが大切である。

●業務管理・効率化

管理職の役割の一つに業務管理がある。業務管理は、上司として部下の適性に合わせて最適な業務を割り振り、いつまでに行うかを指示するとともに、進捗や結果を管理すること。さらには、必要なフォローを行い、業務の遂行を支援することを言う。そのためにも、俯瞰的な視点からPDCAサイクルを回していける能力を身に付けなければいけない。

また、より良い成果を導くためには、業務効率化を図ることが重要である。管理職として、ルーティンワークに甘んじるのではなく、業務を改善するための思考を持ってもらう必要がある。

●部下の育成・指導能力

部下の育成・指導方法は、時代と共に変わりつつある。働き方や価値観が多様化している現代において、「上司の背中を見ろ」「根性を入れろ」というスタイルは機能しなくなっている。部下一人ひとりの個性や置かれている状況、課題感を把握した上で、それぞれに合った目標を設定し、行動プロセスや結果を本人と一緒に振り返っていくことが求められる。そのためにもさまざまなコミュニケーションの手法を学ぶことが重要となる。

●チームマネジメント

これは、特に中間管理職向けの内容となる。中間管理職は、上級管理職を補佐しながら、チームとしての成果を導く役割が求められるからだ。それだけに、自分よりも下の階層のメンバーがどんな強みや能力を持っているのかを把握し、力量を発揮できるよう適切に配置していく能力を身に付けなければならない。それを実践することによって、チームとしての生産性を向上できるし、業務プロセスの改善も期待できる。組織全体のパフォーマンスも高まるはずだ。

●リスクマネジメント

リスクマネジメントとは、企業経営において何らかの損失が発生しうるコンプライアンスやハラスメントをはじめとする経営リスクを的確に把握し、それを事前に回避ないしは軽減するための対策を図る管理プロセスを言う。特に、中間管理職以上には必須となってくる。担当する事業においてどのようなリスクがあり得るかを考察し、管理する仕組みを作るための手法を身に付けるようにしたい。

●組織改革・調整力

管理職に経営層と現場をつなぐ役割を自覚させ、自社の組織改革を現場へとスムーズに落とし込んでいくのも、重要な研修メニューとなる。例えば、管理職に自社のビジョンや中期経営計画などをより深く理解してもらった上で、部下のマインドを変えるノウハウを提示するというのも一つの手法だ。

また、調整力はコミュニケーション能力の一つであり、事業を円滑に進めるためにも不可欠となってくる。関係者間の意見の対立や差異を調整し、協力を得ながら目標をいかに達成していくか。そのためにも、関係構築力や交渉力を磨くことが重要だ。

●戦略立案

戦略立案とは、会社や担当する事業を成長させていくために、目指すべき姿と現在の姿とのギャップを把握し、それを埋めるためのロードマップや具体的な施策を取りまとめていくことである。特に上級管理職は経営陣との距離感が近いため、自社の外部環境や内部環境を踏まえた上で将来像を思い描き、そこに向かっていく戦略を立案する能力が求められる。

「管理職研修」のポイント

最後に、効果的な「管理職研修」を行うためには、どのような点に配慮したら良いのかを説明したい。

●研修の目的を明確に説明する

まずは、研修の目的や習得すべきスキルを受講者に明確に伝えることだ。研修の目的を設定するには、管理職に対する事前の丁寧なヒアリングが欠かせない。その中から組織としての課題や管理職自身の悩み、理想の管理職像とのギャップを把握しておくことで、研修を課題解決の場として位置づけられる。

●スキルとマインドの両面を教育する

「管理職研修」の成果を高めるにはスキルだけでなく、マインドも身に付く内容とすることが重要だ。例えば、コーチングをテーマとした研修であるならば、講義形式でコーチングの重要性や意味合いを伝えた上でワークショップを行い、それぞれの組織の課題感を共有することでマインドセットが可能となる。加えて、ロールプレイングによって傾聴・昇任・質問といった部下の主体性を引き出す方法を実践することで、コーチングに有益なスキルを習得できる。

ただ、管理職は日々多忙なだけに、研修に参加する時間も惜しいと思う人がいる。学んだことを現場で活かせるカリキュラムにすれば、研修への管理職の参加意欲は高まると思われる。

●自社の状態に応じた研修プログラムを組む

管理職から「研修の内容が長年変わっていない」という声を聞くことがある。企業をとりまく社会の変化が激しくなっている中、自社の状態や時代の動向に合わせて研修カリキュラムを柔軟にアレンジすることが重要だ。チームマネジメント研修を例に取っても、経営戦略や事業方針に合わせて任せるべき管理職の役割も変わってくる。また、組織の男女比や年齢構成、働き方などによっても、採るべきマネジメント手法は異なってくる。それらを踏まえて、研修の内容を常に改善していきたい。


研修カリキュラムは一度設計したら終わりではない。特に、現代のように人材獲得競争が激しく、働き方が多様化していてマネジメントのスタイルが大きく変わりゆく時代にあっては、ますます管理職の役割が重要になっているため、「管理職研修」にもブラッシュアップが不可欠である。企業の実状しだいで、管理職が身に付けるべきスキルやマインドは変わってくるため、企業によって最適な研修のプログラムは異なる。人事・育成担当者は、経営陣だけでなく現場の声も拾い上げ、自社に合った実践的なカリキュラムを設計していただきたい。
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