日本人材マネジメント協会(JSHRM)が提唱する「ザ・HRMナレッジ大系」は、人事分野の知識や哲学、関連理論を体系化した“人事分野の世界地図”である。幅広い知識が必要とされる人事実務において、「現在地(知)」の把握と「目的地(知)」へのルートを示し、HRプロフェッショナルに求められる知識の全体像を表している。本講演では、HRプロフェッショナルが成長するための羅針盤といえる「ザ・HRMナレッジ大系」が策定された経緯やその活用例を、日本板硝子株式会社 執行役 人事統括部長/JSHRM会長の中島 豊氏、立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授/JSHRM副理事長の山﨑 京子氏、事業創造大学院大学 教授/JSHRM執行役員の浅野 浩美氏が語った。
人事に必要な知識を体系化した 「ザ・HRMナレッジ大系」から紐解く、人的資本経営時代におけるHRのプロフェッショナルとは
中島 豊 氏
著者:

日本板硝子株式会社 執行役 人事統括部長/JSHRM会長 中島 豊 氏

大学卒業後、富士通にて人事・労務管理業務に従事。米国ミシガン大学のビジネススクールに留学し、欧米企業の人的資源管理の理論を学ぶ。その後、外資系企業で勤務し人事管理の実務を経験した。傍ら、中央大学大学院博士後期課程に入学し、グローバル経営に必要な人事管理について研究し、博士(総合政策)を取得。また非正規人材を活用する米国型のビジネスモデルの日本での展開に取り組んだことから、日本における働き方や雇用の在り方についての意見発信を行なった。また、何社ものグローバルM&Aに携わったことで、日本企業の人事をグローバル化に転向させる知見も有する。現在はグローバルな競争環境において人材の育成や管理の在り方について実践と研究を行っている。2021年1月より、人材マネジメント協会会長に就任。

山﨑 京子 氏
著者:

立教大学大学院 ビジネスデザイン研究科 特任教授/JSHRM副理事長 山﨑 京子 氏

ロイタージャパン、日本ゼネラルモーターズ、エルメスジャポンでの人事実務を経て、 アテナHROD設立。 現在では社会人大学院MBAで人的資源管理とキャリアデザインの教鞭を執る傍ら、 日本企業や外資企業日本法人での人事コンサルティングや研修講師、 さらにJICA日本人材開発センタープロジェクトの教科主任としてアジア7か国の 現地経営者に対して人的資源管理の実務指導を行う。 2009年筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了、 2019年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(経営学)。

浅野 浩美 氏
著者:

事業創造大学院大学 事業創造研究科 教授/JSHRM執行役員 浅野 浩美 氏

筑波大学大学院ビジネス科学研究科修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。専門は人的資源管理論、キャリア論。厚生労働省で、人材育成、キャリア支援、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案に従事したほか、労働局長として働き方改革を推進。社会保険労務士。ライト工業株式会社社外取締役、日本キャリアデザイン学会理事、経営情報学会理事、人材育成学会理事等。著書に、『キャリアコンサルタント・人事パーソンのための キャリアコンサルティング―組織で働く人のキャリア形成を支援する』(労務行政、2022年)がある)。

JSHRMが提唱する「ザ・HRMナレッジ大系」が示す、人的資本経営時代におけるHRプロフェッショナルの必須条件

「ザ・HRMナレッジ大系」を構成する3つのファミリー

山﨑氏 JSHRMが、人事プロフェッショナルに必要な知識を体系化し、実務知識だけではなく人事哲学や関連理論の知識も含めてまとめた「ザ・HRMナレッジ大系」は、3つのファミリーで構成されています。大系の全体構造を示す「HRMナレッジ大系(神殿図)」、その構造を輪切りで説明する「HRMナレッジ・マップ(輪切り図)」、そして各項目を一覧で示す「HRMナレッジ・ディクショナリー(学習項目一覧)」です(図)。
人事に必要な知識を体系化した 「ザ・HRMナレッジ大系」から紐解く、人的資本経営時代におけるHRのプロフェッショナルとは
「HRMナレッジ大系(神殿図)」は、神殿というメタファーを用いて人事の内部・外部における諸概念を示しています。屋根の部分に「経営理念」と「経営戦略」が位置づけられ、それを支える梁の部分に「人事戦略」と「人事哲学」、さらにその下を支える柱として内柱の「人事機能」と外柱の「人事施策」があります。人事と言いますと、とかく人事機能や人事施策に目が向かいがちですが、これらを経営と繋ぐものとして人事戦略や人事哲学があるわけです。そして、神殿を支える基底にあたるのが「基礎理論」となります。実務家は理論から縁遠くなりがちですが、人事ほど数多くの理論に基づいて構築されている分野はありません。この部分をしっかり固めることで、「HOW」だけでなく「WHAT」や「WHY」への理解が深まり、人事の実務全体に幅や奥行きが生まれるのです。

この神殿を輪切りにした「HRMナレッジ・マップ(輪切り図)」では、中心にあるのが先述の「人事戦略」と「人事哲学」となります。その周囲を衛星のように回っているのが人事にとって重要な「等級制度」・「業績管理」・「総報酬管理」・「雇用・就業区分」です。これらの基本制度を囲む内周に「職場管理」・「職務設計・開発」・「組織開発」といった組織マネジメントが、外周に「採用」・「配置」・「人材開発」・「人事評価」・「処遇」・「退出」といった個人に対するタレントマネジメントが位置づけられます。先述した神殿の内柱となる「人事機能」は、この内周と外周にあたるものです。さらに外柱の「人事施策」として、今日的な「デジタル推進関連」・「M&A」・「CSR」・「労働政策対応関連」といった施策が並びます。さらにその外側に「基礎理論」としてマクロからミクロに至るまで様々な学術領域があり、それらがそのように人事の実務といかに関連しているかを知ることが不可欠です。

以上の神殿構造に含まれる学習項目の詳細を示すのが「HRMナレッジ・ディクショナリー(学習項目一覧)」です。「ザ・HRMナレッジ大系」を1冊の本に例えるなら、先ほどの「HRMナレッジ・マップ(輪切り図)」は目次であり、各章・各節の詳細を説明するのがこの「ディクショナリー」となります。
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