「人材版伊藤レポート」のこれまでの流れと世間の反響
寺澤 はじめに「人的資本経営」のこれまでの流れと現状について見ていきたいと思います。まず2020年9月に、持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書ということで「人材版伊藤レポート」の第1弾が世に出ました。そして2021年6月には、「コーポレートガバナンス・コード」の改訂に反映され、「人的資本への投資と開示」の強調。さらに2022年5月には、人的資本経営の実現に向けた検討会報告書と、実践事例集、人的資本経営に関する調査集計結果を併せた「人材版伊藤レポート2.0」が公開されました。この中で提示されたのが、人材版伊藤レポートのエッセンスを集約したものとも言える、「3P5Fモデル(人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素)」です。また実践事例集には、実践的な取り組みの参考になる情報として、先進的な19社の具体的な取り組み事例が掲載されています。ここまで簡単に振り返ってみましたが、これらに対する世の中の反響はいかがでしょうか。伊藤氏 想定を超える反響をいただきました。そういう意味では本当に嬉しい限りですが、そもそもなぜこれほど大きな反響があったのかを考えると、いくつかの要因背景があるのではないかと思っております。一つは最近、人事や人材が経営課題に変わってきているということです。多くの経営者の皆さんが、人事・人材に関する自社の取り組みに問題意識や、場合によってはフラストレーションを感じ始めています。そういった経営者の皆さんが、「良いレポートが出たな」と関心を持っていただき、積極的に読んでいただいている印象です。加えて、これまで人事・人材戦略を語る研究会に投資家の皆さんがメンバーとして参加するということはなかったのですが、今回は参加していただいたこともあり、多くの投資家の皆さんからも非常に強い関心を寄せていただきました。これも流れを後押ししてくれている要因ではないかと思います。
島津氏 私も政策を担当する立場として、大変多くの事業会社の方々にご関心をいただき、これほどありがたいことはないと感じております。特に、これまで経済産業省の人材政策の担当部署にお問い合わせいただくのは、事業会社の人事担当の方ばかりでした。最近は人事担当の方のみならず、CFOや経営者の方からも直接お問い合わせをいただく機会が増えており、反響の広がりを実感しているところです。
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