人口減少が進む日本で、労働生産性を上げるためには、高度人材の育成とリカレント教育の充実が急務である。しかし、日本では90年代以降、「キャリアの自己責任論」が強調され、企業を超えた教育訓練制度が確立されていない現状がある。本講演では、職業訓練が発達した欧州における、企業・政府・地域・教育機関などが幅広く連携する人材育成の仕組みを、国際教養大学 客員教授/中央職業能力開発協会 参与の山内 麻理氏が解説。講演の後半では、山内氏と学習院大学 名誉教授/学習院さくらアカデミー長の今野 浩一郎氏による、日本の人材育成の未来像を考えるディスカッションも行われた。
欧州から学ぶ「高度人材育成」のあり方――企業・政府・教育機関の連携による「人への投資」の仕組みとは
山内 麻理 氏
講師:

国際教養大学 客員教授/中央職業能力開発協会 参与 山内 麻理 氏

専門は雇用制度や教育訓練制度の国際比較、制度的補完性。カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所、フランス国立労働経済社会研究所(LEST-CNRS)、ドイツ日本研究所等で客員研究員、同志社大学技術企業国際競争力研究センター、国際教養大学で客員教授(現任)。『雇用システムの多様化と国際的収斂:グローバル化への変容プロセス』(2013)が、労働関係図書優秀賞、日本労務学会学術賞を受賞、『欧州の雇用・教育制度と若者のキャリア形成:国境を越えた人材流動化と国際化への指針』(2019)が大学教育学会選書入賞。日本労務学会・学術賞審査委員、国際ビジネス研究学会・学会賞委員会委員などを歴任。博士(商学)。
国際教養大学

今野 浩一郎 氏
講師:

学習院大学 名誉教授/学習院さくらアカデミー長 今野 浩一郎 氏

1971年3月東京工業大学理工学部工学科卒業、73年東京工業大学大学院理工学研究科(経営工学専攻)修士課程修了。73年神奈川大学工学部工業経営学科助手、80年東京学芸大学教育学部講師、82年同助教授。92年学習院大学経済学部経営学科教授。2017年学習院大学名誉教授、学習院さくらアカデミー長。主な著書に、『正社員消滅時代の人事改革』(日本経済新聞出版社)、『高齢社員の人事管理』(中央経済社)、『同一労働同一賃金を活かす人事管理』(日経BP・日本経済新聞出版)など多数。

欧州における企業・政府・教育機関が連携した「高度人材育成」の仕組みとは
国際教養大学 客員教授/中央職業能力開発協会 参与 山内 麻理氏

ドイツの職業訓練「デュアルシステム」とは

このセッションでは、「欧州における企業の枠を超えた高度人材育成の仕組み」というテーマで、労・使、政府、教育機関等、「ソーシャルパートナー」の人材育成における役割について議論したいと思います。講演の流れですが、まず「欧州の職業訓練制度」として、ドイツの「デュアルシステム」という若者向け職業訓練をご紹介し、同国のソーシャルパートナーがいかに連携して人材育成に貢献しているかをお話したいと思います。次に、「その他の欧州主要国の人材育成の特徴」について、企業の役割と政府の役割に注目しながら議論したいと思います。最後に「日本への示唆」として、日本の現状が海外の研究者からどのように評価されているかということに触れながら、結論をまとめていきたいと思います。

欧州における職業訓練制度で世界的に有名なのは、ドイツの「デュアルシステム」です。主に高校在校生や卒業生が参加する職業訓練で、企業内OJTと職業学校での座学、2つを組み合わせて実施されます。

デュアルシステムを支える「ソーシャルパートナー(ステークホルダー)の連携・役割明確化」が、この仕組みの大きな特徴です。企業OJTに参加する訓練生は、訓練先企業の近くにある職業学校に通い、訓練後の職業資格付与は各地の商工会議所の担当。全体のコーディネーションは、日本でいえば経産省と厚労省の両方に関連する組織である「BIBB(連邦職業教育訓練機構)」が担います。
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