組織を分析し、最適な経営戦略を策定するために有用なのが、世界的コンサルティングファーム、マッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱する「7S」だ。「7S」とは、経営戦略や構造など3つの「ハード面」と、組織風土や価値観といった4つの「ソフト面」、合わせて7つの構成要素から組織を分析するフレームワークのことである。ハード面のみではなく、ソフト面も合わせてバランスよく変化していくことで、組織改革を実質的に進めることが可能になる。本稿では、企業の改善点の洗い出しや課題の分析に役立つ「7S」について、導入方法や活用のメリット、実施の注意点などを解説する。
組織改革を導くマッキンゼーの「7S」のフレームワークとは? 経営戦略に活かす手順と注意点を解説

マッキンゼーの「7S」とは

マッキンゼー・アンド・カンパニー社が提唱する「7S」とは、組織構造を「ハード面」と「ソフト面」で分解し、それぞれの問題点を総合的に考えるためのフレームワークである。

●「7S」の考え方

「7S」では、組織には3つのハード面と4つのソフト面の構成要素があるとしている。「7S」の理論においては、これら7つのどれか1つの要素を解決しただけでは、組織改革など、企業内の重要な問題解決を実現することはできない。7つの要素の相互関係を見ながら、整合性を取ることが必要である。

「7S」の要素

先述したとおり、「7S」には3つのハード面、4つのソフト面がある。それぞれどのような要素があるのかを確認しておこう。

●ハード面:組織構造に関する要素

ハードの3Sは、組織構造に関する要素となる。具体的には次のとおりだ。

(1)戦略(Strategy)
(2)組織構造(Structure)
(3)システム(System)

(1)戦略(Strategy)
企業が目標達成するために必要な取り組みのことである。目標達成のためには、自社の強みや弱みを分析し、何から手を付けるか、何を優先させるかを決めることが重要となる。そして、人材や資金をどう配分するかについても考えなければならない。他社との競争に勝つためにも「戦略」は優先すべき要素といえる。

(2)組織構造(Structure)
企業組織の仕組みのことである。組織構造によって、職務による権限や指揮命令系統および、メンバー同士の関係性やチーム内のコミュニケーションも異なる。企業の組織構造には主に、仕事の種類で組織を作る「機能別組織」、それぞれの部署に決定権を持たせ、一つの会社のように扱う「事業部制組織」、プロジェクトごとのチームに分ける「チーム組織」などがある。

(3)システム(System)
人材の力を活かすために企業内で定めたルールや、それを機能させるシステムのことである。具体的には、業務フローや人事考課制度、目標管理システムなどを指す。会社の規則や社内ルールも「システム」の一種である。

●ソフト面:人に関する要素

ソフト面は、人材に関する下記4つの要素となる。

(4)共通の価値観(Shared Value)
(5)スキル(Skill)
(6)人材(Staff)
(7)組織風土(Style)

(4)共通の価値観(Shared Value)
企業理念、MVVともいわれる。事業活動の根本であり、「7S」の中で最も重要であるとされる。経営陣から従業員まで、同じ方向を向いて事業活動を行うためには、共通の価値観の浸透・実行が必須といえる。

(5)スキル(Skill)
社内にある技術、知識やノウハウのことである。技術力や商品開発力だけでなく、販売力やマーケティング力も含まれる。企業全体が持つスキルと、各従業員が持つスキルの両面がある。目標達成のためには、現時点で自社がどのようなスキルを持ち、どのスキルが足りないかを冷静に分析し、足りない部分を補うために行動することが重要となる。

(6)人材(Staff)
組織のメンバー(従業員)のことである。分析の際は、経歴や実績を見て分かる部分だけではなく、各メンバーの保有スキル、仕事への意欲や適性、企業理念の理解度など、本質的な部分まで確認する必要がある。

(7)組織風土(Style)
「社風」「企業風土」と呼ばれるもののことである。社内規則等に明記されていることはもちろん、「暗黙の了解」「会社の雰囲気」のように、正式な規則にはなっておらずとも、企業を形作っているものは組織風土に含まれる。

分析の際は、規則が現在の状況に合っているかだけでなく、企業内のリーダーシップのあり方や意思決定の方法といった内容まで確認する必要がある。

「7S」を活用するメリット

企業が「7S」を活用することで得られるメリットには次のようなものがある。

・課題とその優先順位を明確化できる
・経営資源の「選択と集中」を実現できる
・個々の性質に合ったマネジメントができる
・従業員のモチベーション向上

一つずつ詳しく解説する。

●課題とその優先順位を明確化できる
「7S」を用いて現状を分析することで、課題を明確にすることができる。そして、どの部分から改善すればいいのか、といった優先順位の明確化も可能となる。

分析する際は、企業全体だけでなく部署単位、チーム単位でも分析すると、さらに課題が明確になる。

●経営資源の「選択と集中」を実現できる
何から改善すればいいか、優先順位が明確になることで、「ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産」の経営資源を最適に配分できる。改善がそれほど必要でない部分や、現状で不要と思われる部分に流入していたリソースを削減し、優先順位が高いところ、力を入れたいところに経営資源を集めるということが可能となる。

●個々の性質に合ったマネジメントができる
分析に「7S」を活用することで、組織の問題点だけでなく、各従業員の現状課題も見えてくる。課題が明確化すれば、各従業員の状態に合った個別のマネジメントが可能となるため、個々のパフォーマンス向上およびチームや企業全体の目標達成につながる。

●従業員のモチベーション向上
「7S」によって各従業員の課題を明確にすれば、各自に合った育成・指導が可能となる。適切なキャリア教育を行うことで、従業員の会社への信頼構築につながるため、仕事に対するモチベーションの向上も期待できる。

また、従業員のモチベーションおよびパフォーマンスの向上も実現すると、上司・管理職側の負担軽減や企業全体の生産性アップにもつながる。

「7S」の導入手順とポイント

「7S」を導入する際の手順とポイントについて解説する。

●「7S」を導入して組織改革を進める手順

「7S」を導入して経営戦略を策定・実現し、組織変革を進める手順について、具体例を挙げながら紹介する。

(1)現状分析
(2)課題の明確化
(3)改革案の策定と実施
(4)効果検証に基づく改善

(1)現状分析
何を改善するか、そして何を優先して行うかをはっきりさせるためにも、まずは現状を分析することが重要となる。また、なぜ今改革が必要なのかをあらかじめ明らかにしておく必要がある。

(2)課題の明確化
現状分析を行ったら、それを掘り下げ、原因を探り、課題を明確化することが必要だ。

例えば、「売上目標が達成できない」という問題点に対し掘り下げていくと、「無駄な会議が多く、取引先と接触する機会が少なくなっている」「他社より優れた商品が少ない」「育成体系が現状に適応しておらず、メンバーのパフォーマンスを最大化できていない」などの原因が出てくるかもしれない。これらを一つ一つ明確にし、どの部分から改善するかを考えていく。

(3)改革案の策定と実施
問題点とその原因を分析した後は、改革案を策定する。例えば、先述の「売上目標が達成できない」という問題の場合、課題の一つとして「他社より優れた商品が少ない」という原因が分析されている。これを改善するためには、「開発部門に資金や優秀な人材などのリソースを優先して配分する」といった改革案が考えられるだろう。

なお、改革案を策定するだけでは改善とはいえない。確実に実施につなげることも重要である。

(4)効果検証に基づく改善
改革案を実施した後は、効果検証に基づき、さらなる改善を行う必要がある。検証の際も「7S」を活用し、「開発部門に配属された人材はどのような結果を残しているか」「企業理念に合っており、売れそうな商品を開発しているか」「資金は適切に使われているか」などを分析したい。

もし、この時点で問題点や改善点が出てきたら、さらに「7S」を活用し、優先順位を付け、改善に向けて行動する。

●「7S」の導入における注意点

「7S」を導入することで、企業分析を効率的に行い、改善につなげることができる。ただし、注意点についても把握しておきたい。

●ハード面の変革だけにとどまらない
「7S」で問題点を明確にした後は、改善に向けて動くことになる。その際、明確な施策が打ち出しやすく、比較的短期で改善を行うことができるハード面の変革だけを進めることになりがちである。反対に、ソフト面の改善は個々の価値観や能力に及ぶため、外部の働きかけで短期的に変化をもたらすことは難しい。しかし各要素は互いに作用しあっており、全体で整合性を取っていくことが組織改革の本質であるため、ハード面のみではなくソフト面の変革も必須となる。

●ソフト面の変革は時間がかかることを考慮する
組織風土や価値観の共有に関わるソフト面の変革は、経営層から従業員まで方向性を合わせ、納得を伴って実行する必要があり、結果が出るまでに時間がかかる場合が多い。全ての従業員に企業理念を浸透させるのは簡単ではなく、会社全体で取り組む必要があるため、どう着手すればよいか迷うことも多いだろう。だが、ソフト面を変革しなければハード面の変革も活きてこない。ソフト面の変革も含めて、組織改革にはある程度の時間がかかることを念頭に置いて計画したい。


組織構造に関する3つのハード面、人に関する要素である4つのソフト面から組織を分析する「7S」。このフレームワークを活用することで、自社の現状や問題点を分析することができ、改善すべき点を具体化できる。さらに、優先的に取り組むべき課題が明確になるため、経営資源の選択と集中も可能になる。変化の激しいVUCAの時代において、何らかの組織改革が必要となる企業は多いだろう。制度設計や運用方法によって改善が可能なハード面だけでなく、全従業員が共感をもって取り組む必要があるソフト面の変革も含め、実質的な組織改革に「7S」を役立てたい。
  • 1

この記事にリアクションをお願いします!