「面接官」の役割
「面接官」とは、採用面接で候補者と面接し、質疑応答する立場の人のこと。面接は、書類審査だけでは分からない候補者の人物像をチェックする場になるため、採用活動の中でも非常に重要な意味を持つ。なお、主に面接官となるのは人事採用業務に携わることが多い人事部の社員だが、面接が複数回設けられている場合は、採用する人物と一緒に働くこととなる現場の責任者が担当することもある。また、最終面接は、経営者や役員が行う場合も多い。「面接官」の役割は、主に以下の2つである。
●候補者の見極め
「面接官」は、候補者の見極めを行う必要がある。具体的には「会社が求めるレベルのスキルを持っているか」、「長く働いてくれそうな人材か」、「会社の考えに合った人材か」などを判断する。候補者が会社の求める人材かどうかを知るためには、候補者とじっくり話し、書類以外の情報も得て適性を見極めることが非常に重要である。ここで見極めを誤ってしまうと、自社にマッチする人材を採用できず、候補者と会社双方が不満を抱える事態となる。採用ミスマッチが起きると、期待したパフォーマンスを発揮してもらえない恐れや、早期退職につながる可能性もあるため、注意が必要だ。
●候補者の入社意欲を高める動機付け
面接には、候補者の適性を見極めるだけではなく、「候補者の自社への入社意欲を高める」という目的もある。候補者側も「自分にとって魅力のある会社か」、「本当にこの会社で働いていけるか」を面接の場でチェックしているのだ。特に、候補者が複数の会社の面接を受けている場合、自社に魅力を感じてもらえなければ他社を選んでしまう恐れもある。候補者に自社を選んでもらうためにも、「面接官」は候補者の見極めを行うと同時に、自社の良さを伝えることも忘れてはならない。
「面接官」の心得と事前準備
面接をより有意義なものにして、「面接官」の役割を果たすためには、どのようなことに気を付けるべきだろうか。「面接官」として候補者と向き合う上での心得と、面接の事前準備について解説する。◆「面接官」の心得
・会社の代表としての振る舞いを意識する「面接官」は候補者にとって、入社前に対話する唯一の“志望する会社の社員”であることも多く、この先共に働く可能性のある相手でもある。「面接官」の行動がそのまま会社の印象につながると考え、信頼感・安心感を抱けるような“会社の代表”としての振る舞いを忘れないようにしたい。
・候補者が話しやすい雰囲気を心がけ、人柄や本音を引き出す
候補者が自社にマッチする人物なのか見極めるためには、人柄や本音を引き出すことが重要である。一問一答形式で聞いたことに答えてもらうだけではなく、会話を通じて候補者の人物像をより深く知ることが望ましい。そのためにも、「面接官」は候補者が話しやすい雰囲気になるよう、候補者の長所を引き出す会話や明るい表情を意識するとよい。また、座りやすい椅子や景色が見える部屋を選ぶなど、面接会場を整えるのも有効だろう。
・「互いに評価する・される場」であることを忘れない
面接は、「面接官」が一方的に候補者を選ぶ場ではなく、候補者が「この会社で働きたいか」を判断する機会でもある。つまり、「面接官」と候補者は互いに評価し合う関係であることを忘れてはならない。“選ぶ立場”として高圧的な態度を取ったりすることのないよう、「面接官」は候補者と対等の立場であるということを自覚しておく必要がある。
・客観的な評価指標・基準をもつ
人事部だけではなく、その他の部署の社員も「面接官」を担当する場合、それぞれの業務、ポジションによってチェックするポイントも異なるため、候補者の評価が分かれる可能性が高い。そのため、それぞれの「面接官」が自らの評価基準(定量・定性)を定め、候補者を客観的に評価する仕組みを作っておく必要がある。採用担当者は、各「面接官」に必ずチェックしてもらいたい部分や評価基準を記載した「面接評価シート」を作成・配布するなど、事前に認識を合わせておくとよいだろう。
◆「面接官」に必要な事前準備
・求める人材要件を明確にする自社に合った人材を見極めるためには、「客観的な採用基準を満たしているか」という観点で判断することが肝要だ。候補者のスキルや人間性ではなく、印象だけで判断するということがないよう、現行の採用活動で求めているのはどのような人材なのかを定め、「面接官」全員の認識を合わせておく必要がある。
・自社について正しく説明できるようにする
候補者が自社について正しく理解できるよう、自社の主要な情報は説明できるよう確認しておこう。特に下記の項目については、わかりやすく的確に伝えられるようにしておきたい。
・事業内容
・会社のミッション・ビジョン・バリュー
・各部署の仕事内容や機能
・自社の魅力、強み
・タブーとなる質問を把握する
面接では、候補者について詳細を知るため、さまざまなことを尋ねたくなるかもしれない。ただし、候補者の適正や能力と無関係な質問は、就職差別につながりかねない。公正な採用選考を行うために、厚生労働省は、「面接で尋ねるべきではない質問」の事例を各企業向けに明示しており、「面接官」はこの内容を把握しておく必要がある。タブーとなる質問についての詳細は後述する。
・候補者からの想定質問の回答を用意する
面接は候補者が企業のことを知る機会でもあるため、候補者から「面接官」に質問する時間を設けることが一般的である。候補者の疑問や懸念に対して適切に回答し、納得感や安心感を与えられるよう、過去の面接内容や新入社員へのヒアリングなどを参考に、想定される質問とその回答を準備しておきたい。
・トレーニングを行う
本番の面接をスムーズに運ぶため、「面接官」となる社員には、候補者役を立てた模擬面接などの事前トレーニングを行うとよい。練習を重ねることで、自社の魅力を適切に伝えることや、より冷静に、また客観的に候補者を評価することができるようになるだろう。
面接の進め方と質問例
次に、実際の面接の進め方を紹介する。会社によって違いはあるが、面接は以下のような流れで行われることが多い。・アイスブレイク
・面接官の自己紹介、会社、求人概要についての説明
・候補者への質問
・候補者からの質問
・面接後の流れの確認
それぞれのポイントを押さえておこう。
(1)アイスブレイク
候補者の緊張を解き、コミュニケーションしやすい雰囲気を作るためにも、回答しやすい質問から始める「アイスブレイク」から始めるとよい。●アイスブレイクの例
・「会場まではどのくらい時間がかかりましたか?」
・「最近暖かくなってきましたが、お住まいの地域ではどうですか?」
・「この部屋は寒く(暑く)ないですか?」
・「筆記試験の出来はどうでしたか?」
(2)「面接官」の自己紹介、会社・求人概要についての説明
「面接官」の自己紹介、会社や求人概要の説明に進む。候補者は、いくつかの会社の面接を同時並行で受けているケースが多いだろう。その中から自社を選んでもらうためにはアピールが必要だ。自社の魅力を、わかりやすく正確に伝えるよう準備しておこう。(3)候補者への質問
候補者に自己紹介をしてもらい、気になる点やもっと知りたい点について質問していくことで理解を深める。経歴やスキルはもちろん、書類だけではわからない人柄も含め、自社とマッチする人材かどうかを見極めるための質問をする。また、志望理由や退職理由は、仕事への考え方や価値観を聞き出す上で非常に重要な情報であるとともに、就職活動の状況を尋ねるのも忘れないようにしたい。●履歴書や経歴書からの質問の例
・「前職や学生生活を通じて得た成果と、その成果を得るために努力したことについて教えてください」
・「求人業務に関し、どのような知識やスキルをお持ちですか?」
・「仕事をする上で大事にしたい/していることは何ですか?」
・「業界の企業の中で、当社を志望される理由を教えてください」
・「5年後、10年後のキャリアビジョンを教えてください」
・「どのような業務を担当したいですか?」
●人柄を知る質問の例
・「ご自身の強みと弱みは何ですか?」
・「継続して努力された経験はありますか?」
・「ストレスにはどのように対処していますか?」
(4)候補者からの質問
面接は、候補者の疑問や不安を解消する場でもある。採用後のことを考慮すれば、面接で時間を設けて、候補者に気になることを正直に質問してもらうのがよいだろう。候補者が疑問を残したまま面接が終了すると、不安があるため入社を辞退するということにもなりかねない。(5)面接後の流れの説明
面接の最後には、面接結果が出る日や通知方法、次回の選考についてなど、面接後の流れの説明を行う。合否を通知する日程の目安を伝えておくことで、候補者の不安を軽減でき、候補者が他社の採用選考に進んでいる場合でも、「いつ結果が出るかわからないから、先に内定が出た他社へ入社しよう」という事態を防ぐことができる。「面接官」が注意すべき行動や質問におけるタブー
公正な採用選考を行い、候補者の志望度を上げるためにも、「面接官」が避けるべき行動や注意点を確認しておこう。◆「面接官」が避けるべき行動
・不誠実、不遜な態度面接の時間に遅刻する、候補者の話を聞きながら欠伸をする、質問に明確に回答しないなど、不誠実、不遜な態度は候補者の不信感を招く原因となる。
・候補者に興味を示さない
候補者の話にあいづちを打たない、書類をきちんと読まずに短時間で面接を終了させるなど、候補者に興味を示さないような態度は避けるべきだ。候補者の情報に興味を持って話を聞くことは、面接を受けに来てくれた相手への最低限のマナーと心がけよう。
・候補者の話を遮る、否定する
「面接官」が候補者の話を遮る、発言を即座に否定する……ということがあると、「受けて入れてもらえない」と感じさせることになり、候補者の入社意欲は下がるだろう。話は否定せずに最後までしっかり聞くことが大切だ。
・資料ばかり見ていて候補者に視線を向けない
資料ばかりに目を向け、候補者の方を見ないという態度も、候補者に不安感を与える原因となる。候補者の目を見て会話し、表情の反応やあいづちなど、言葉以外のコミュニケーションも意識するとよいだろう。
◆面接でタブーとなる質問
候補者のことを詳しく知りたいとはいえ、面接の場で何でも聞いて良いというわけではない。先述のとおり、厚生労働省は公正な採用選考のために「候補者の適正・能力とは関係ない事柄で採否を決定しない」というガイドラインを示しており、面接で尋ねるべきではない質問について明示している。これらの内容については質問しないよう全ての面接官に周知することが必須だ。具体的には以下の事項である。(1)本人に責任のない事項
・本籍・出生地に関すること
・家族に関すること(職業、続柄、健康、病歴、地位、学歴、収入、資産など)
・住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
・生活環境・家庭環境などに関すること
(2)本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)
・宗教に関すること
・支持政党に関すること
・人生観、生活信条に関すること
・尊敬する人物に関すること
・思想に関すること
・労働組合に関する情報(加入状況や活動歴など)
・学生運動など社会運動に関すること
・購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
また、ガイドラインに定められた内容以外にも、下記のような事項はハラスメントにつながる恐れがあるため、注意する必要がある。
・恋愛/結婚、交際相手/配偶者に関すること
・出産・育児に関すること
・年齢・容姿に関すること
・性別に関すること
「面接官」は、候補者が自社にマッチするか、入社後に定着・活躍してくれそうかを見極める重要な立場である。さらに、候補者に入社の動機付けを行うべく、自社の強みをアピールする役割もある。「面接官」と候補者が互いに適切な評価をし合うという目的のもと、面接にはしっかり事前準備をして臨むことが重要だ。
また、候補者にとって自社の印象を決める「会社の顔」としての振る舞いを忘れてはならない。候補者は「面接官」の言動や態度をよく見ている。「面接官」の態度次第で、候補者の入社意欲の低下や内定辞退を招き、さらには就職差別につながってしまう場合もあるため、特に注意しておきたい。最低限、避けるべき行動、態度についてはよく確認しておこう。
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