「カッツモデル」とは、役職に応じて求められる能力を「テクニカルスキル(業務遂行能力)」「ヒューマンスキル(対人関係能力)」「コンセプチュアルスキル(概念化能力)」という3つの枠組みに分類したものである。管理職になれば、これら3つの能力を身に付けておく必要があるが、役職によって求められるバランスは異なる。カッツモデルは管理職の能力向上のためだけでなく、人材育成計画の策定や組織のマネジメントを行う上で役立つといわれる。3つの能力、そして役職ごとに重視したいスキルについて詳しく解説していく。
「カッツモデル」とは? 人材育成に活用する上での具体例やマネジメントに役立つヒューマンスキルなど3つの能力を解説

マネジメントに役立つ「カッツモデル」を構成する3つの階層や能力とは

「カッツモデル」とは、組織の管理者に必要な能力を3つに分け、管理者の役職ごとに、どの能力をどの程度身に付けておきたいかを階層化したものである。

人材育成や組織のマネジメントを行う際に、カッツモデルを考慮する企業も多い。その階層と能力について解説する。

●「カッツモデル」を構成する3つの階層

カッツモデルを構成するのは、「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3つの階層である。それぞれの階層にどのような管理者が当てはまるのかを紹介する。

・トップマネジメント
最高経営責任者(CEO)や最高執行責任者(COO)、会長、社長、副社長など、いわゆる経営者がこの階層に属する。トップマネジメント層は、経営方針や戦略の決定に関わる立場になるため、現場で具体的な指示を与えることはまずない。また、企業全体の業績に対し責任を持つ立場といえる。

・ミドルマネジメント
部長や課長、そして工場長、支店長、エリアマネージャーといった管理職がこの階層に属する。CEOや社長などトップマネジメント層が決定した経営方針や戦略を理解し、下の階層に伝え、業務が円滑に進むように促す立場だ。

・ロワーマネジメント
係長、主任、チーフ、プロジェクトリーダーなど、業務の現場で監督を行うのがこの階層である。ミドルマネジメント層からの指示を受け、現場で活動を行う。指示された業務を確実に実行できるかが求められる立場である。

●「カッツモデル」を構成する3つの能力

「カッツモデル」を構成する階層について把握したところで、必要な3つの能力「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」についても確認しよう。

・コンセプチュアルスキル
「概念化能力」とも称されるスキルである。物事の本質を見極め、判断することが求められる能力である。具体的には目の前の出来事を公平に分析し、正解を見つけ出す能力ともいえる。コンセプチュアルスキルは、研修等で一から学ぶというより、元からの才能に依るところが大きいスキルである。

コンセプチュアルスキルには以下の要素が含まれる。

【論理的思考(ロジカルシンキング)】
出来事の結果と原因を分析し、それらのつながりをとらえ、物事を理解する思考法

【批判的思考(クリティカルシンキング)】
日常で無意識に取っている行動や思考を意識化し、客観的に見直すという思考法

【水平思考(ラテラルシンキング)】
常識にとらわれず、自由な考え・アイデアを生み出す思考法

その他にも、以下のような要素があるので押さえておきたい。
・柔軟性
・受容性
・探求心
・応用力
・洞察力
・先見性
・俯瞰力
・知的好奇心 など


コンセプチュアルスキルは、経営全体に関わるトップマネジメント層が特に持っておきたいスキルといえる。

・ヒューマンスキル
良好な人間関係を築き、それを保つことができる能力である。社内の上司・部下の関係だけでなく、取引先、顧客との関係作りでもこのスキルが求められる。

ヒューマンスキルには次の要素が含まれる。

【リーダーシップ力】
組織をまとめる力。目的に向かって部署のメンバーを引っ張っていく力も求められる。

【コミュニケーション力】
周囲と良い関係を結ぶ力。対面、メール、電話等で情報を正確にやり取りする上でも、この能力が求められる。

【ヒアリング力】
他人の意見をきちんと聞く力。ただ話を聞くだけでなく、相手の仕草なども観察し、本当に伝えたいことを読み取る力も求められる。

【プレゼンテーション力】
他人に自分のアイデアや考えを伝える力。話し方といった感情面だけでなく、資料の作成など論理的に伝える力も求められる。

その他の要素には「交渉力」「コーチング力」などもある。

ヒューマンスキルは、階層にかかわらず誰もが持っておきたいスキルといえる。

・テクニカルスキル
毎日の業務を確実に遂行するために必要な能力である。業務別に、以下のようなスキル・知識が求められる。

・小売り系業務:接遇スキル、トラブル対応スキル
・事務・内勤系業務:パソコンスキル、経理スキル、電話応対スキル
・営業系業務:プレゼンテーションスキル、商品知識、業界に関しての知識
・技術系業務:業務に適した資格の保有、機械操作スキル


テクニカルスキルは、現場で業務に関わることも多いロワーマネジメント層が身に付けたいスキルといえる。

「カッツモデル」は人事や組織にとってどのような効果があるか

人材育成・活用を考える上で、「カッツモデル」を意識すると良いということを紹介した。では、人事や組織にはどのような効果があるのかも解説する。

●組織への効果

「カッツモデル」を活用することで、どのような人材が必要か、どうやって育てていくか、が明確になり、体系的に人材育成を行える。

単に「できる人を育てたい」ということだけでは、どんなことができる人材を育てるべきなのかが分かりにくい。また、現場が欲しい人材と人事側が育てたい人材の「能力の不一致」が起こる可能性もある。カッツモデルがあると、新入社員、中堅社員、管理職など、役職・立場ごとに求める能力が体系化されているため、人事側と現場の「認識の不一致」の発生も防げる。

●人事への効果

人事査定の際、「カッツモデル」があると、各従業員が階層ごとに求められるレベルに達しているかが分かりやすい。達している部分だけでなく、未達の部分もすぐに確認できるため、足りないところを他の従業員で補うという対策も可能となる。これからの指導に生かすこともできる。

また、人材育成を担う部署でも、カッツモデルを利用することで、多くの従業員が未達となっている部分を確認できる。育成内容の見直しやフォローアップ研修への活用も可能だ。

●従業員への効果

カッツモデルで、達してほしいレベルを提示することで、各従業員は「自分の立場には何が期待されているか」が明確になる。達している部分だけでなく、足りない部分を知ることは、自己啓発を促す効果もある。

人材育成における「カッツモデル」の活用法

人材育成において、カッツモデルをどう活用すればよいのかを解説する。

●3つのスキルに応じた研修の実施

3つのスキルに応じて、集合研修やOJTで研修を行う。それぞれのスキルごとに効果的な研修方法を解説していこう。

・コンセプチュアルスキルの研修
抽象的な能力や思考法を身に付けることが求められるコンセプチュアルスキルの場合は、ディスカッションやグループワークができる「集合研修」が効果的だ。他の研修メンバーと話し合う中で、自分の現在の能力を把握できるだけでなく、自身の足りない点や伸ばしたい点を認識することができるだろう。

・ヒューマンスキルの研修
ヒューマンスキルの習得には、集合研修とOJT研修はどちらも効果的といえる。集合研修では基礎知識を学んだ後、グループディスカッションやロールプレイングでコミュニケーションや交渉について学ぶことができる。

例えば、営業のOJT研修では、ヒアリング能力や交渉力の高い従業員と共に取引先に赴くことで、生きた知識を学べる。なお、効果的にOJT研修を行いたいのならば、事前に「何を学ぶか」をはっきりさせておきたい。

・テクニカルスキルの研修
業務に必要な知識を身に付けるテクニカルスキルの習得には、OJT研修が効果的といえる。先輩の業務を観察し、自身も実践することで、必要な知識や技術を習得できるだろう。

●3つの階層に応じた研修

「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」、それぞれの階層に応じた研修も必要となるが、まずは、企業側が各階層に求めたいスキルを明確にするのが先である。例えば、人事査定の項目の中に各階層に必要なスキルを入れるといった方法がある。

このような準備を行った上で、階層ごとの研修を行うと、「自分の階層では何を身に付けなければならないか」がはっきりするため、高い効果が得られる。

●日々の業務を活用する

さまざまなスキルを習得させるには、集合研修やOJT研修も重要だが、日々の業務を活用することも考えたい。例えば、次のような方法がある。

・ヒューマンスキルを身に付けるため、他部署との共同作業の担当を任せる
・自社商品に詳しくなるため、窓口で接客を経験させる など

●eラーニングを活用する

「集合研修を行う時間がない」という企業も少なくないだろう。そのような状況の場合は、eラーニングが効果的だ。eラーニングは、業務の空き時間で受講することができるため、研修場所に赴く時間がない従業員やOJTに適した先輩・上司がいない従業員でも平等に受けられる。開催する側としても、研修場所の準備、日程調整などの手間を省けるというメリットがある。
「カッツモデル」とは、組織の管理者や従業員に必要なスキルを3つに分け、役職ごとに、どの能力をどの程度身に付けておきたいかを「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3段階に階層化したものである。

身に付けたいスキルは「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」の3つであるが、階層によって重視されるスキルは異なってくる。

習得してほしいスキルを階層化したカッツモデルは、組織の管理者育成のためだけではなく、人材育成や組織マネジメントの面からも活用が進んでいる。効果的な人材育成、公平で分かりやすい査定の方法を考えるのであれば、カッツモデルの考え方を導入したい。
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