テクノロジー導入・活用に目を向けた従業員サポートが重要
説明会の前半は、岩本氏が登壇。「AI@Work」の日本での調査結果とその考察を紹介。以下のような4つのポイントに分けて説明した。(1)従業員が感じる孤独感と疎外感
岩本氏はまず、「コロナ禍を経て、従業員が孤独感と疎外感を抱いている」と指摘した。その根拠として岩本氏が挙げたのが、行動や就業におけるネガティブな回答の多さである。
●67%が『昨年の1年間でマイナスな影響を受けた』と回答
●50%が『2021年は職業人生で最もストレスの多い年である』と回答
●45%が『2020年より2021年の方が、就業中にメンタルヘルスの問題で苦しむ機会が多い』と回答
コロナ禍で行動制限がされる中、他者との接触の機会が大幅に減っている。業務でもテレワークが浸透し、孤立感を抱いたり、ストレスを感じたりした人が多いであろうことは容易に想像が付く。それが、数値に如実に表れていた格好だ。
(2)キャリアチェンジへの意欲とともに、大きな課題に直面
岩本氏によると、ワークスタイルの変化にともなって、「働く人々が人生を考え直す機会も増え、キャリアチェンジへの意欲が高まっている傾向にある」そうだ。調査から、それを示す結果として次のデータが示された。
●86%が『この1年で自分の人生について振り返ることがあった』と回答
●78%が『コロナ禍以降、自分にとっての成功の意味が変わった』と回答
これら意識を受けてか、「実際に『変化を起こす準備ができている』との回答も64%あった」そうだ。一方で、次の結果を挙げて変化を起こせない現状についても触れている。
●72%が「変化を起こすうえで、大きな障害に直面している」と回答
●77%が「雇用主による支援に満足していない」と回答
これら結果を踏まえ、岩本氏は「企業としては、従業員に対するサポートをより強化しなくては、離職につながってしまうことも危惧される」と見解を述べた。
(3)「職場でのAI活用」は、日本が世界で最下位
職場でAIを活用している日本企業は31%であり、岩本氏によると「調査開始以来、3年連続で最下位」だという。さらに、47%の企業は、職場でのAI活用について、『議論すらできていない』と回答したそうだ。この、“職場でのAI活用の議論ができていない”とする企業の割合も、「世界で最も大きな数字となっている」(岩本氏)とのことである。
(4)従業員は「新しいスキル」や「テクノロジーによる支援」を求めている
岩本氏はポジティブな傾向についても紹介した。「日本企業の従業員は、実はテクノロジーに対してポジティブな反応を見せる」というのだ。その根拠として
●75%が、『自身の将来設計をするために、テクノロジーを活用したい』と回答
●68%が、『AIによるレコメンドに基づいて、仕事に変化を起こしたい』と回答
という結果が示された。また、『AIは人間の担当者よりもキャリアアップを効率的に支援できる』と答えた人も72%いたそうだ。こうした意識の中で、日本企業の現状に対してはシビアな見方をしている人も多いことが分かる調査結果にも、岩本氏は触れていく。90%の人が、自身の所属する会社について、『従業員のニーズにもっと耳を傾ける必要がある』と考えており、42%の人は、『AIなどの高度なテクノロジーを利用してキャリアアップをサポートしてくれる会社には、とどまる可能性が高い』としたとのことだ。
岩本氏は、最後に本調査を総括し「コロナ禍によるワークスタイルの変化は、日本企業の従業員の生活にも影響を与え、自身の人生やキャリアをより深く考え始める人が増えている」と考察した。実際に岩本氏の周りにも、「会社には不満はないものの、独立をする」といった人がおり、働く人自身の意識の変化を肌で感じているそうだ。そのような傾向がある中で、岩本氏は「日本企業が優秀な人材を維持するためには、これまで以上に従業員エンゲージメントを高めることに加え、キャリア充足度を高めるためのサポートを強化することが重要になる」と話す。続けて、「日本の従業員は、キャリアを考える上で、『人』よりも『テクノロジー』に期待する傾向が高い」ということにも言及。「キャリア開発の領域でも、海外企業に比べて大きく遅れている日本企業にとっては、テクノロジーの導入・活用を強化することが重要になる」と提言し、本講演を締めた。
「企業価値主導」から「社員視点」へ。エンゲージメントの変化への対応が必須
オンライン説明会の後半には、日本オラクルより茂原氏が登壇し、同社のAI・HCM領域における取組みについて説明した。冒頭で茂原氏は、「ポストコロナにおける従業員エンゲージメントの変化」について言及した。まず、人事領域の旧来からの課題として、「トップタレントの採用」、「中途退職の抑止」、「次世代リーダー育成」、「トレーニングへの投資」、「インクルージョンへの対応」などを指摘。これらが「『価値ある人材の獲得・確保』において必要な要素であり、企業にとっての揺るがない優先課題とされてきた」という背景を示した。
しかし、コロナ禍により、「従業員エンゲージメントの在り方が、『企業価値主導』から、『社員視点の価値主導』にシフトしてきている」と、茂原氏は言う。このシフトによって、いま企業に求められることは、「変化するキャリアゴールへの対応」、「既存スキルの可視化」、「将来のスキル要件の予測」、「成長意欲の最大化」、「次世代のスキル開発」などといった課題への取組みであるとのことだ。このような、「企業価値主導」から、「社員視点の価値主導」へのシフトによって、より従業員のエンゲージメントに対応していかなければ、人材の獲得・確保が困難になってしまうそうで、「課題への先んじた取組みが企業の命題になってきている」(茂原氏)との見解を示した。
そうした環境の中で、日本オラクルによる、テクノロジーを活用した支援では、「大きく3つの領域で従業員をサポートできる」と、茂原氏は述べた。一つは、「環境の変化に応じた新たなキャリアゴールの再設定」で、従業員のエンゲージメントを高めていく上で、まず取り組むべき部分。そして二つ目が、再設定した新たなキャリアゴール実現のための、「社内でのキャリア機会の発見」。また、従業員それぞれのキャリアゴールの変化に応じて取り組むべき、「新たなスキル開発の支援」が、3つ目に挙げられた。企業がテクノロジーを活用することで、大きくこの3つの領域で、「従業員エンゲージメントの向上に寄与することができる」と、日本オラクルは考えているようだ。
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