企業が成長するために必要なのは、力強くメンバーを率いてくれる「リーダー」の存在である。しかし、リーダーが一方的に指示を出すだけの組織では真の成功は望めない。リーダーを補助する力「フォロワーシップ」も加わることで、効果的なチームビルディングが可能になる。従業員のモチベーションアップにもつながり、組織も活性化するだろう。本記事では、「フォロワーシップ」の意味や5つのタイプ、必要な能力や要素を理解するための具体例なども解説していく。
「フォロワーシップ」とは? 意味や5つのタイプ、具体例を解説

「フォロワーシップ」とは

「フォロワーシップ」とは、組織の目標達成のために、リーダーを補佐し、自律的に他のメンバーを支援する能力や行動を意味する。単にリーダーの指示に従うだけでなく、建設的な意見を述べたり、リーダーの間違いを指摘したり、自律的に行動することが含まれる。

カーネギーメロン大学のロバート・ケリー教授によると、組織の成果に対してリーダーの影響は10~20%なのに対し、フォロワーシップを持つ構成員(フォロワー)の影響は80~90%にも及ぶとされている。フォロワーシップは部下だけでなく、リーダーを含む組織全体に求められる重要な資質であり、組織の成功には欠かせない要素と言える。

●メンバーシップとの違い

主に、リーダーを支援するのが「フォロワーシップ」であるのに対し、メンバーシップとは、与えられた役割を果たし、組織全体のために力を尽くすことだと言われている。つまり、フォロワーシップは「フォロワー」という役割を担ったメンバーシップの一部だとも言える。

●リーダーシップと「フォロワーシップ」の違いと関係性

リーダーシップと「フォロワーシップ」は組織運営において相互補完的な関係にある。リーダーが行動指針を示すことは重要だが、それだけではメンバーが具体的にどう行動すべきかを判断できず、すぐに動くことが難しい。そこで「フォロワーシップ」が必要になる。行動指針を確認したフォロワーが具体的な行動計画を立て、それを伝えることで、メンバーは目標に向かって行動することができる。

組織の活性化を図るには、リーダーシップだけでもいけないし、フォロワーシップだけでもいけない。組織運営には、ビジョンを示すリーダーシップと、それを実現可能な形に具体化するフォロワーシップの両方が不可欠と言える。

「フォロワーシップ」が注目される背景

近年、「フォロワーシップ」が注目されているのは、ビジネス環境が非常に速いペースで変化していることが理由だと考えられている。

変化の大きい現代社会において、強力なリーダーの力だけで組織を活性化させ、より良い方向にもっていくことはなかなか難しいと言える。さらには、リーダーの考えが必ずしも正しいとは限らない。そのような状況下で、リーダーに臆することなく意見を伝えることができ、リーダー以外の従業員をフォローできる存在は非常に重要になってくるはずだ。

また人手不足の企業、中間管理職を廃止し組織をフラット化する企業も増えてきており、部下を指導しながら、自らの実績も上げないといけないリーダーも多数いるだろう。そのようなリーダーを自発的に支えることができる、フォロワーシップの力がある従業員の存在は、今後ますます必要になることが予想される。

「フォロワーシップ」による3つの効果

「フォロワーシップ」を発揮することで期待できる3つの効果は以下のとおりだ。ここでは、フォロワーシップを持つ従業員を「フォロワー」と呼んで解説していく。

(1)組織活性化

フォロワーはリーダーの示す指針を具体化する存在である。その働きによって組織を今よりも活性化させることも可能だ。また、リーダーへの働きかけもフォロワーの重要な仕事だ。リーダーの成長はフォロワーシップによる部分も大きいと言える。

(2)信頼関係の構築

良いリーダーの側には、必ず優秀なフォロワーがいる。リーダーとフォロワーが互いに認め合っている場合、強い信頼関係が組織内に生まれているだろう。

(3)モチベーションアップ

リーダー一人が頑張るだけでは企業や組織を成功させるのは難しい。メンバー全体がやる気を持って働ける状態にしておくことも重要である。リーダーとメンバーを繋ぐフォロワーがいることで、組織の意思統一が可能になり、モチベーションアップも実現するだろう。

「フォロワーシップ」の5つのタイプ

「フォロワーシップ」には次の5つのタイプがある。これらについても理解しておこう。

(1)模範的フォロワーシップ

このタイプのフォロワーはリーダーの「腹心」や「側近」とも呼ばれる存在である。自分の意見を持ちリーダーに進言できるだけでなく、メンバーをまとめ上げることも可能だ。模範的フォロワーとなる人は組織を外れた立場でもリーダーと同格であることが多い。

(2)孤立型フォロワーシップ

すべての従業員が組織の方針に従うというわけではない。中には批判的な人間もいるだろう。このような従業員は「問題児」、「頑固」、「判断力が欠如している」と評されることも多い。しかし、チームでの仕事に向かないと思われている従業員でも、組織への貢献を意識しだすようになると理想的なフォロワーに変貌することもある。方針や業務に対して納得感を持たせるフィードバックが重要になる。

(3)順応型フォロワーシップ

リーダーの示す方針に従順に従うタイプのフォロワーを指す。批判等もなくまじめに仕事をこなすが、言われたことに素直に従うのみでリーダーへの進言までは期待できない。自分から提案するというより、指示された業務を積極的にこなしていくタイプのため、組織の中では重宝されると言っていい存在だ。考えを提案してもらうために、積極的に発言の機会を持たせるようにすると良いだろう。

(4)消極的フォロワーシップ

組織への批判もないが、積極的に関わることもないのが特徴だ。このタイプは業務や組織の改善に向けての提案も特に行わない。組織への貢献度も低くなりがちで、フォロワーとしての働きも期待できるとは言い難い。業務に対しどのような目標や希望を持っているかを確認し、やる気を高める努力が必要である。

(5)実務型フォロワーシップ

与えられた仕事はしっかり消化するものの、それ以上の働きまでは期待できないタイプである。バランスが良いと評されることも多いが、挑戦する意欲に欠けるため、組織への貢献は高くも低くもないといったところである。高めの目標を設定しておくと、確実に遂行してくれるため良いフォロワーになれる存在といえるかもしれない。
5つのフォロワーシップ,積極的関与と批判的思考のグラフ

「フォロワーシップ」を発揮するうえでのポイント

「フォロワーシップ」を発揮するうえで留意しておきたいポイントもある。ここでは以下の5点について解説する。

●リーダーの能力にも限界があることを理解する

一人の強力なリーダーがいるだけでは確実に組織の成功に導けるわけではない。また、刻一刻と変化するビジネス環境の中では、リーダーの出す方針が必ずしも正解とも限らない。リーダーを支えるチームはリーダー個人の能力には限界があることを知っておかなければならない。その上で、最適なサポートをすると良いだろう。

●クリティカルシンキングを意識する

「フォロワーシップ」とは、従順にリーダーの言うことに従う、ということではない。時には「その意見は正しいのか」と組織やリーダーの意見を批判的に考える力、つまり「クリティカルシンキング」の力も重要となる。

クリティカルシンキングは単なる否定や批判ではない。物事をあえて批判的に見ることで、客観性を保つことができ、正しい判断につながるのだ。

●自分のフォロワータイプを把握する

各従業員が「フォロワーシップ」を充分に発揮できるようにするためには、自分のフォロワータイプを把握することが必要だ。フォロワータイプを把握できたら、自分の強みや弱みも理解でき、それに応じたサポートが可能になる。

●研修を実施する

企業内で「フォロワーシップ」に関する研修を行うのも良いだろう。従業員それぞれが自分に合ったフォロワーシップを見つける機会となるはずだ。特にリーダーが求めているサポートは何かを理解するために、リーダーの仕事を経験させる研修はより有効であると言える。

●コミュニケーションの量を意識する

業務に関係ないことでも話し合い、従業員同士の距離を縮めておくことも大切である。良い人間関係ができていると、意見や問題点を伝えやすくなることが期待できる。

「フォロワーシップ」の具体的な行動や意識例

「フォロワーシップ」とは具体的にどんな行動なのか、また何を意識して業務に当たれば良いかについて例を紹介していく。

●自分以外の仕事も積極的に引き受ける

組織のフラット化が進んでいる現代では、自分の業務を遂行しながらマネジメントを行うリーダーも多い。そのような状況にある場合は、フォロワーも自分の業務に加え、他の仕事を引き受けていく姿勢が重要になってくる。

リーダーに従業員・組織を率いる業務に集中してもらうことで、組織はより良い方向に進んでいけるだろう。

●リーダーへの提言を日常的に行う

フォロワーに求められているのは、リーダーの意見に異を唱えることなく、従順に従うことではない。

リーダーの示す方針が間違えている場合は意見し、考え直してもらうことも必要だ。日頃からリーダーへの提言を積極的に行い、互いに良い緊張感のある関係を築いておくことが重要である。

●リーダーによる指示の背景を全体に伝え浸透させる

リーダーの指示や考えが組織のメンバー全体にきちんと伝わるとは限らない。フォロワーにはリーダーの意図や目的を把握し、メンバーに伝えるという役割もある。

メンバー全体に指示が伝わり、理解してもらうことで、組織運営が円滑に進むようになるだろう。また、フォロワーとしてリーダー、メンバー双方からの信用も得ることができる。

●報連相を着実に行う

着実な報連相もフォロワーに求められる。特にメンバー一人ひとりの考えや状況はリーダーには伝わりにくいものだ。報連相を欠かさないことで、リーダーはメンバーの状況を把握することもでき、チームの結束に繋がるだろう。

●最初から完璧なものを求めない

良いフォロワーはリーダーが完璧な人物ではないことを理解している。そのため、適切な補佐とは何かを常に意識することができるはずだ。意見すべき時には意見し、リーダーと共に組織を成長させていくことが大切である。

●上司の最終決定を受け入れる

リーダーは組織の運営について責任を持つ立場である。フォロワーとしては、上司の最終決定を受け入れる姿勢を持つことも大事だ。最終決定に至るまでに活発な意見交換をするように心がけよう。

●ポジティブな思考で、チームの未来を考える

組織を運営する場合、失敗が生じる可能性もあるだろう。しかし、良いフォロワーはその失敗をポジティブにとらえるものである。チーム全体が沈んでいる時でも、留まることなく前向きにリーダーをサポートし、メンバーを鼓舞するのが良いフォロワーである。

まとめ

企業や組織の運営は強力なリーダーだけでは成り立たない。良いフォロワーシップも加わることで組織の運営を成功に導ける。特に人手不足の企業や組織のフラット化を図る企業では、リーダーであってもメンバー同様に実績を求められるだろう。そこで、重要になってくるのが「フォロワーシップ」である。フォロワーシップを発揮することはリーダーの助けにもなり、組織の成長にも繋がるからだ。ただ、フォロワーシップのタイプは人によって異なる。まずは、どのようなフォロワーになれるか、もしくはなりたいかを従業員に意識してもらうことが大切になってくるだろう。



よくある質問

●「フォロワーシップ」の身近な例は?

フォロワーシップの身近な例としては、まず業務を積極的に引き受ける姿勢がある。忙しい上司をサポートするため、自分の役割を判断し自発的に行動することだ。また、上司への提言も積極的に行い、上司の判断が誤っていると思われる場合は臆せず意見を述べることも重要だ。さらに、上司の指示をメンバーに伝え、組織の業務を円滑にさせる行動もフォロワーシップと言える。

●「フォロワーシップ」に必要な能力は?

「フォロワーシップ」に必要な能力は、状況把握力(現状を理解し、自分がすべきことを判断する力)、質問力(疑問点の解消や建設的な提言をする力)、柔軟性(変化に素早く対応する力)、主体性(自ら判断し、行動する力)、協調性(メンバーと協力関係を築く力)などが挙げられる。
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