転職時の給料は○○で決まる
最近は多くの方が転職する時代になってきました。総務省統計局の調査(※1)によれば、2019年の転職者は過去最多の351万人だったそうです。特に、コロナ禍前の好景気が続いていた2019年は「より良い条件の仕事を探すため」に転職した人が増加しています。また、転職者に大企業の正社員が増加していることも大きな特徴です。私自身も「より良い条件の仕事」を求めて3回ほど転職を経験してきました。転職の度に「給料アップ」や「働きやすい環境」など、自分自身が求める条件を手にしてきました。
転職時に最も気になるのが、転職後の年収です。転職すると年収は上がるのか、下がるのか。どのように年収が決まるのか、転職を一度でも考えたことがある方であれば、知りたいと思うのではないでしょうか。
やや古い調査になりますが、厚労省が2015年に実施した「平成27年転職者実態調査の概況(※2)」によると、転職者のうち転職後に年収が上がった人は全体の40.4%、反対に年収が下がった人は36.1%、年収が変わらない人は22.1%でした。多くの方が「より良い条件の仕事」を求めて転職しますが、6割の人は「年収が下がったか変わらない」というのは、少し意外な結果かもしれません。年収が上がる転職というのは、そこまで多くないようです。
では、転職後の年収はどのように決まるのでしょうか。同じく厚労省の調査では、年収が決まる要素についても、事業主にヒアリングを行っています。それによると、給料が決まる要素の1位は「これまでの経験・能力・知識」の71.4%でした。ただし、この調査は複数回答であるため、2位以降の要素も影響を及ぼします。2位は「年齢」で46.3%、3位は「免許・資格」で35.9%、4位は「前職の賃金」で26.2%、5位が「学歴」で12.7%と続きます。これらの結果をまとめてみると、転職時の年収は、基本的にはこれまでの経験や能力、知識で決まるものの、年齢や資格、前職の賃金も総合して反映されるということのようです。
つまり、年収を上げるには、年齢に対して企業が求めるよりも多くの知識やスキルを持っている必要があります。そして、業界によっても給料水準は大きく変わります。例えば、金融業界は一般的に給料水準の高い業界です。このような「給与水準が高い業界」で働くと、スキルを高めながら、年収が上がる確率も高くなるということでしょう。
年功序列では良い人材を採用できない
そもそも、なぜ企業は転職者を受け入れるのでしょうか。最近では転職者の受け入れ理由がかなり変化してきています。かつて総合職が中心だった大企業では、職種を限定せずに採用して、入社後に他の社員と同じく「ジョブローテーション」を経験させることが普通でした。しかし最近は、職種別の中途採用が当たり前になりつつあります。単に「人が足りない」だけでなく、新しい企画や事業を始めるために知見を持った人材を、外から採用するようになっているのです。また、最近、大企業でよく見かける中途採用の理由に「組織に多様性をもたらしたい」というものがあります。銀行業界や総合商社などの「新卒一括採用」で生え抜きを育成してきた企業でも、デジタル化や時代の変化によって、ベンチャー企業などから「自社にはない経験や知識を持つ人材」を中途採用するようになっています。このように、企業側も転職者の経験やスキルを正当に評価するようになってきているのです。一方で、伝統的な大企業では「年齢」をもとに転職者の年収を決めることをいまだにやっています。徐々に20代、30代にも高年収を提示する機会は増えてきましたが、それでも年功序列で賃金が決まるということは続いています。こうした傾向は、特に社員の平均年齢が高い企業で起きます。社員の平均年齢が高い企業では、若い人材が高年収を得るのはベテラン社員から反感を買うということもありますが、年功序列型の報酬制度を運用してきたため、高年齢者の人件費が企業の収益を圧迫しているという事情があるのです。そのため、なかなか転職者が高年収を得るのは難しいという背景があります。
ただし、今後こうした年功序列の企業は、転職者から選ばれなくなるでしょう。多くの企業が転職者の経験や能力を評価して年収を設定しつつある中、年功序列の制度に則っていては、転職者の正当な市場価値評価はできません。そして転職者側も、年収面からも「伝統的で年功序列の会社には入りたくない」と考えるはずです。
先ほどご紹介した厚労省の調査にもあるように、年齢で転職時の年収が決まる仕組みを維持していては、これからの時代、企業は良い人材を確保できなくなるのではないでしょうか。
ジョブ型雇用時代に、転職時の給料はどう変わるのか
昨年から大企業を中心に始まった、「ジョブ型雇用」の導入。日本企業全体に浸透するのはまだまだこれからですが、導入済の企業では、さっそくその仕組みをもとにした採用を始めています。日本の従来の「メンバーシップ型雇用」は、どんなに高スキルであっても、役職や等級によって給与水準が決まっていました。しかし、ジョブ型雇用では「スキルや能力に合わせて給料がアップ」します。今後、転職時の年収も「知識や経験、スキルによって同じ職種でも給料に違いが出る」と考えられます。
2021年以降も、ジョブ型雇用を導入する企業は徐々に増えてきています。特に大企業では、ジョブ型雇用制度はこれまで管理職への導入が中心でしたが、2021年以降は一般社員にも進んでいくことが想定されています。
これからジョブ型雇用が本格化する前に、私たちは企業から求められる経験や知識、スキルを高めていく必要があるのです。十分な経験や知識、スキルを持っていれば、給料が上がる可能性が高くなります。一方で、企業に求められるものを持っていなければ、転職しても給料は変わらないのが当たり前になってしまうかもしれません。
ジョブ型雇用制度の浸透とともに、「私たちの年収が本格的に能力で評価される時代」がまもなくやってきます。
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