「従業員エンゲージメント」とは、従業員の企業への信頼や企業に対する貢献意欲を指す言葉だ。従業員エンゲージメントは従業員の離職率の低下やモチベーションの向上、ひいては業績向上にもかかわる重要な指標である。近年、従業員エンゲージメントの向上に取り組む企業が増え、国内でも広く認知されるようになった。ここでは、従業員エンゲージメントとは何か、その意味や効果について解説する。
「従業員エンゲージメント」の意味や向上による効果とは? 従業員満足度やモチベーションと何が違う?

そもそも「従業員エンゲージメント」とは何か?

「従業員エンゲージメント」とは、従業員の企業への理解や信頼を意味する言葉で、会社への貢献の意欲を持っている状態を指す。従業員エンゲージメントは愛社精神と言い換えることもできるだろう。従業員エンゲージメントが高い従業員が多い企業は、企業への愛着と貢献意欲の高さから離職率が低く、業務へのモチベーションも高いといわれている。

従業員エンゲージメントが国内企業で注目されるようになった背景には、人材不足や個人の価値観の多様化、日本型雇用の変化に加え働き方の多様化があるとみられる。少子高齢化が進み労働人口が今後も減少していく中で、企業は「優秀な人材を流出させない」工夫を行う必要がある。長い就職氷河期を終えて就活生の売り手市場が続いている今、人材側は「ミッションに共感できるやりがいのある」企業を求めている。

また、コロナ禍の影響でリモートワーク化が進んだ結果、企業側と従業員の直接的なコミュニケーションの機会が減少し、従業員エンゲージメントの保持が難しくなっていることも要因として挙げられる。

●従業員満足度と「従業員エンゲージメント」の違い

「従業員エンゲージメント」と似た意味を持つ言葉に、従業員満足度がある。従業員満足度は、従業員にとっての“居心地の良さ”に着目しており、信頼度を指標とする従業員エンゲージメントとは異なる。またそれ自体が企業の業績向上に寄与するものではない。

これは「居心地の良い会社=貢献したい会社」ではないためだ。従業員満足度は定着率の観点から重要であることには間違いないが、居心地の良さだけを追求しても生産性の向上や従業員の貢献意欲にはつながらない。

●モチベーションと「従業員エンゲージメント」の違い

モチベーションは「動機」を意味する言葉だ。日本では、意欲ややる気といった意味合いで用いられることが多い。ビジネスにおいては、業務への意欲を指す。モチベーションが高い従業員は、やる気には満ち溢れているが必ずしも企業に愛着を持っているわけではない。

「従業員エンゲージメント」を構成する3つの要素

「従業員エンゲージメント」は、主に次の3つの要素で構成されている。

(1)理解度

「従業員エンゲージメント」を測るうえで、企業の理念やビジョンへの理解は欠かせない。企業への愛着は、理念やビジョンを理解し、支持することからはじまる。自分が持つ理想と企業がかなえたい理想がマッチしていれば、「ビジョンの実現のために自分は何ができるのか」を考え、行動するようになるだろう。

従業員エンゲージメントを高めたいのなら、従業員に対して企業側の思考を開示し理解してもらう必要がある。

(2)共感度

企業の理念やビジョンへの理解に加え、従業員がそれらにどれだけ共感しているのかも重要なポイントだ。企業が持つ目標に共感できれば、自分が会社にいる意義を見出して誇りを持って業務に取り組めるだろう。

従業員に自社の目標に共感してもらうためには、従業員と直接的なコミュニケーションを積極的に行い、話し合いや意見交換を重ねる必要がある。

(3)行動意欲

「従業員エンゲージメント」が高い従業員は、企業が成功するために自発的に行動しようとする意欲も高い。企業の理念やビジョンを理解し、共感しているからこそ、従業員は「会社が成功するために積極的に動こう」という意思を持てるのだ。

自身の行動が会社に貢献できていると感じられれば、従業員エンゲージメントはさらに高まり、企業への愛着や信頼も増すだろう。

「従業員エンゲージメント」を高めることで、企業にどのようなメリットがある?

「従業員エンゲージメント」を高めることで、具体的にどのようなメリットを得られるのだろうか。従業員エンゲージメントの向上で得られる5つの利点について見ていこう。

●企業の業績が向上する

「従業員エンゲージメント」の向上によって、企業は「業績の向上」という大きなメリットを得られる。従業員エンゲージメントが高い従業員が増えれば、それにともなって業績も上向くだろう。

従業員エンゲージメントと企業業績には相関関係があり、従業員エンゲージメントの向上によって営業利益率や労働生産性が向上するとの研究結果もある。

●従業員のモチベーションが高まる

「従業員エンゲージメント」の向上は、従業員本人のモチベーションアップにもつながる。在籍する企業に対しての愛着や目標への共感から、自分の業務に価値を見出し、業務にも積極的に取り組めるようになるのだ。

与えられた業務を淡々と行うのではなく、会社のために何をすべきかを考え、従業員自身が自発的に業務に取り組むようになる。

●職場の雰囲気が良くなる

「従業員エンゲージメント」の高い従業員が多い職場は、自然と雰囲気も良くなる。各々が自分の仕事に誇りを持ち、自発的に業務に取り組むようになると、意見交換も活発に行われるようになるからだ。

会社の目標を達成するためにどうすればよいのか、社員同士で生産的な意見が飛び交い、優秀な人材にとって満足度の高い職場になるだろう。

●顧客満足度が向上する

従業員が積極的に業務に参加するようになれば、顧客満足度も向上する。顧客が求める質の高い製品やサービスを提供できる企業に対して、顧客側は良い感情を持つようになり、売上の向上にもつながるだろう。

●離職率が低下する

エンゲージメントの高い従業員は、離職率が低い傾向にある。自分が会社に貢献できる喜びを感じられる職場から離れたい従業員は少ないだろう。どの業界でも人材不足の今、せっかく採用した人材が離職する事態は避けたい。それが優秀な人材であればなおのことだ。

また、エンゲージメントの高い従業員が多く在籍することで、「社内一丸となって目標に向かっている」一体感が強まる。会社全体が活気あふれる状態であれば、会社に貢献してくれる優秀な人材も職場を離れることは考えないはずだ。離職率の低下は、採用コストの削減にもつながる。

「従業員エンゲージメント」の代表的な企業事例を紹介

「従業員エンゲージメント」の向上に取り組んでいる企業は、いったいどのような施策を行っているのだろうか。ここからは、従業委エンゲージメントの向上に取り組む企業の事例を紹介する。

●スターバックス

アメリカ発のコーヒーチェーンスターバックスは、商品の質に加え従業員の接客の質も高いことで有名だ。店舗に訪れる顧客に対して笑顔ではきはきと接客するさまに、心地よさを覚える人も多いだろう。

スターバックスの特長は、明確化されたビジョンを全社で共有している点にある。「お客様のサード・プレイスを作る」を合言葉に、すべての社員が店舗に訪れるお客様にとって心地良い場所を作れるよう取り組んでいるのだ。

このような姿勢は、社員だけでなくパートやアルバイトにもおよぶ。パートタイマーやアルバイトは、スターバックスの従業員の8割を超えており、同社に欠かせない戦力だ。社員以外の従業員をパートナーと呼び、理念やビジョンに共感してもらうよう取り組んでいる。

チェーン店には珍しく、マニュアルが用意されていないのもスターバックスならではだろう。マニュアルがない店舗では、どのように行動し接客するのかは従業員にゆだねられる。では、従業員は何を指標にして業務に取り組んでいるのだろうか。その指標こそがスターバックスの理念やビジョンなのだ。

「お互いに心から認め合い、誰もが自分の居場所と感じられるような文化をつくる」

お客様が自分の居場所だと思ってもらえるように、従業員が自分の居場所だと感じられるように、相手を心から認めようとする姿勢があの心地よい空間を作り上げているのだろう。

●小松製作所

建設機械の大手、小松製作所もイノベーションの創出を促進するために2012年から「従業員エンゲージメント」の向上に積極的に取り組んでいる。現場の従業員エンゲージメントに深く関わる、マネージャー層を対象としているのが特徴だ。

マネージャー層が気を配るべきポイントを明確化し、説明会を実施するとともに教育・研修体制を整備した。それに加え、育児や介護など家庭の事情に配慮する支援策、休暇制度を整えたという。

また、全従業員に「コマツウェイ」と名付けた小冊子を配布し、経営層を含め価値観の共有を図った。小松製作所が定めた「マネージャー層が気を配るべきポイント」は信頼、モチベーション、変化、チームワーク、権限移譲の5つ。従業員は信頼感を持つことでリスクへの抵抗がなくなり、周囲との情報共有もスムーズになる。

モチベーションにおいては、従業員が新たな挑戦に取り組めているのか、やりがいを感じているのかを把握する必要がある。また、従業員エンゲージメントの向上に取り組み、イノベーションが起これば企業は大きく変化する。従業員同士が連携を取りながら事業環境の変化に柔軟に対応できるよう、マネージャー層に研修やワークショップを実施していという。

これらの施策によって、小松製作所は従業員エンゲージメントの向上に成功し、さらには売上向上も果たしている。
「従業員エンゲージメント」の向上は、離職率を低下させるだけでなく企業の売上向上にも寄与する。従業員と企業がお互いを理解し、信頼できる状況を構築するために、企業側は自社の理念やミッションをさまざまな形で伝え、従業員と直接意見交換を行う場を設けるなどの努力が必要だ。

従業員は、賃金や労働環境の良さだけを目的として自社にいるわけではない。従業員エンゲージメントの向上に取り組み、従業員の企業への愛着が深まれば、従業員と企業のつながりもより深まるだろう。
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