障がい者を採用するときには、「入社後のミスマッチ」を防ぐためにも、採用面接の段階でしっかりと「応募者の情報」を把握することが必要です。第2回目の今回は、「障がい者採用のときにおさえておきたい考え方やポイント」についてお伝えします。
採用の秘訣その1:業務を決めて、どのような人材を求めているのかを明確にする
障がい者雇用に取り組んでいる企業が「法定雇用率」を満たせていない場合、採用することだけに注目してしまいがちです。不足している人数に合わせて人数ありきで採用してしまうことがありますが、準備をしないままで採用を進めてしまうのでは、うまくいきません。例えば、業務を創出できていない状態で障がい者を雇用してしまうと、障がい者と一緒に働く社員が、「障がい者に任せるための仕事を必死に作り出す」という状況になってしまうことがあります。雇用率は達成できるかもしれませんが、これでは「本来の雇用の目的」とはかけ離れたものになってしまいますし、一緒に働く社員への負担も大きくなります。
そうならないためには、採用を検討する時点で、どのような仕事を任せるかということを具体的に検討していくことが大切です。障がい者に任せる業務が明確になっていると、どのようなスキルや能力をもった人材を採用すればよいか、イメージしやすくなります。
最近では、人に合わせて仕事を切り出すということを想定していると思われる「オープン採用」の求人を見かけることがあります。新卒(大卒)の総合職や、中途で職業経験があるキャリア採用に有効かもしれませんが、一般的には担当する業務を決めて、それに合わせた人材を採用する方がよいでしょう。
採用の秘訣その2:採用の進め方と、どのような支援機関を活用するかを検討する
企業が、障がい者に担当してもらう業務内容と採用人数を決めたあとは、実際に「採用するための準備」を進めていきます。一般の採用では、求人票を出して、面接をおこない、採用を決めますが、障がい者雇用の場合、採用決定までに「企業実習」というステップを入れることがよくあります。雇用する前に実習をおこなうメリットは、企業側も実習生も、お互いを知ることができるという点です。実習をすることによって、実際の業務体験や、社内の雰囲気を知ることができるので、お互いに、雇用後に「イメージしていたのと違う……」と感じるような事態に陥ることを避けやすくなります。
また、特に精神障がいの方に多いのですが、本人は働けるつもりで、医療機関からも大丈夫だと言われていても、実際働いてみると体力的に厳しかった、といった事態は珍しくありません。就労支援機関に毎日通っている障がい者でも、実際に企業で働くとなれば、まったく同じようにはいきません。新しい環境で仕事をするということは、本人が思っている以上に緊張したり、ストレスがかかったりすることが多いものです。
一方、企業としては、採用対象を「障がい種別」から決めるところもありますが、今は多様な人材がいます。採用担当者が、それまでに接してきた障がい者のイメージで決めてしまうよりも、実習をおこなうことで、仕事内容をこなせる能力や経験があるかどうかを判断することもできます。
●具体的な採用募集方法
採用募集をかける方法として一般的なものは、「ハローワーク」活用した採用です。求人票を通して、通年おこなわれています。また、多くの地域では、年に数回、ハローワーク主催の障がい者雇用のための「合同面接会」が開催されています。参加を検討しているのであれば、早めに、ハロ-ワークへ出席したい旨を伝えておきましょう。【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【2】ハローワークを活用する」
その他の活用できる機関としては、就労訓練をしている機関や学校からの採用です。「就労移行支援事業所」や「障害者職業能力開発校」などがあります。また、「特別支援学校」の高等部でも職業訓練に力を入れていますので、こちらも活用することができます。これらの機関では、事前に実習することができます。
ただし、障害者職業能力開発校や特別支援学校では、卒業する時期が「3月」と、基本的に決まっています。春採用であれば問題ありませんが、企業が、それ以外の時期に採用を考えているならば難しい場合もあります。障がい者を採用したい時期が決まっている企業は、事前に、支援機関や学校の担当スタッフ・教員と相談しておくとよいでしょう。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【3】就労移行支援事業所を活用する」
HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【5】障害者職業能力開発校、特別支援学校を活用する」
その他の方法としては、障がい者の就労をサポートする機関である「障害者職業センター」や「障害者就業・生活支援センター」などから紹介してもらう方法があります。
【さらに詳しく】HRプロ:障がい者雇用の悩みと解決のヒント「企業が障がい者雇用で活用できるサポート機関とは【4】『障害者職業センター』、『障害者就業・生活支援センター』を活用する」
上記に挙げた組織は、無料で活用できる機関です。費用をかけてもよいということであれば、人材紹介会社を活用することもできます。現在は、障がい種別ごとにフォローができる人材紹介会社も増えていますし、新卒中心の面接会を開催するところもあります。自社の状況に応じて、相談しやすい紹介機関を探してみるとよいでしょう。
採用の秘訣その3:障がい者採用で確認しておきたい点を把握しておく
冒頭にも述べましたが、障がい者を採用するときには、「入社後のミスマッチ」を防ぐために、「応募者の情報」をできるだけ把握したいものです。どのような点を面接で確認するとよいのでしょうか。まず、採用面接をするときには、障がいの有無に関係なく、次の2点を基本的な考え方としてもっておくことが必要です。
・応募者の「基本的人権」を尊重すること
・応募者の「適性・能力のみ」を基準として選考をおこなうこと
これを理解した上で、障がい者採用で確認したい点を見ていきます。
(1)「本人」が働きたいという意欲を持っているかどうか
まずは、「障がい者本人が、本当に就職したい意欲をもっているか」ということです。採用担当者としては、「就職する気持ちがあるからこそ採用面接に来ているのだろう」と思われるかもしれません。
しかし、一般の採用と違って、障がい者雇用の場合は就職できる選択肢よりも少ないことや、学校や訓練機関を卒業するなどの時期的な兼ね合いから、障がい者当事者がまだ就職する意欲や気持ちが整っていない段階でも就職活動をしているケースが少なくありません。
就職したいというのは、本当に本人の気持ちなのか。それとも、保護者や就労支援機関のスタッフ、学校の教員などの周囲の人の意向・影響が大きいのかを見極めることは、とても大切です。自発的に「働きたい」という意欲をもっていないと、職場が思っていたイメージと違う、何か課題が出てきたといった際に、すぐに退職に至ってしまうことがあります。
(2)「働くための準備」ができているか
障がい当事者に、就職したい気持ちはあったとしても、働くための基本的な自己管理ができていないと、働き続けることは難しくなります。生活のリズムが整っているか、健康管理や通院、服薬の管理できているかなどについて確認することは大切です。
このような「働くための準備」として求められるスキルについて、障がい者雇用の中では、職種・障がいの有無を問わず、働く上で必要とされる「職業準備性」として表されています。この職業準備性には、
・健康管理
・日常生活管理
・対人スキル
・基本的労働習慣
・職業適性
という「5つの能力」に分類され、「職業準備性ピラミッド」として示されています。
【出典】障害者職業センター
(3)障がい状況や、職場で示してほしい「合理的配慮」があるかどうか
「合理的配慮」とは、障がい者本人から仕事をしやすくするための配慮を求められたときに、その配慮が合理的であれば、事業主は応じる必要があります。平成28年4月に改正された「障害者雇用促進法」の施行から、事業主の「義務」となりました。
事業主の義務を果たす上で、障がい者本人がどのような配慮を求めているのか、それに対して企業側にはどのような対応が必要なのかについて、採用面接の段階で、障がいの状況や合理的配慮の観点から把握しておくことは大事です。
採用面接で確認しておきたい障がいの状況のポイントは、次の2点です。
・障がいの状況、通院の頻度、服薬、緊急時の対応など
・職場で求められる合理的配慮の内容
ただし、企業に合理的配慮を示す義務があるとはいえ、障がい当事者からの申し出のすべてに対して、そのまま対応しなければならないという意味ではありません。「合理的配慮」とされる措置が、事業主にとって過重な負担を及ぼす場合は除かれます。
「合理的」とは、「道理や論理にかなっている」ことを意味します。つまり、合理的配慮をおこなうことで、事業活動に多大な影響が出る、社員に過度の負担がかかる、費用負担が非常に高くなるなどの場合、そして、明らかに対応することが困難な場合には、「義務」には該当しません。この判断は、それぞれの企業によって異なるでしょう。
障がい者本人から申し出があった合理的配慮について、企業内で検討した結果、対応が難しいと判断されるケースもあります。そのような場合でも、「障がい者が希望したことが難しいと判断されたこと」と「その理由」を、障がい者にきちんと説明することが大切です。説明することによって組織として真摯に対応する姿勢を示すことになります。これによって、障がい者本人も、企業の判断を受け入れやすくなるのです。
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