日本の理系人材の現状とは
日本では理系の学生数が減少しており、理系人材を確保することが難しい状況が続いています。日本の大学生は、少子高齢化に伴う全入時代が到来し、学生数が増えています。1990年に49.2万人だった学生は、2017年には62.9万人に増えました。しかし、工学系学生は2000年の10.7万人をピークに2017年には8.9万人に、理学系学生は2万人から1.8万人に減少しています(※1)。日本ではそもそも理系人材が少ないにも関わらず、減少傾向にあるのです。実際の採用の場面でも、特に工学系の学生は少ないと感じます。情報工学系は比較的多い感覚ですが、機械、電気、電子系の学生は特に少なく、各メーカーが取り合っている状況です。
理系人材がなかなか採用できない、すぐに転職してしまう、といったことで悩んでいる企業は少なくないのではないでしょうか。特にITやメーカーなどの技術力が重要な企業では、エンジニアが1人辞めることが競争力低下につながることもあります。日本でもタレントマネジメントの概念が普及するにつれて、少しずつ人材確保の考え方が普及してきています。しかし、技術力のある優秀な人材を確保するという点では、外資系企業と比べるとまだまだ改善点があるように思えます。
※1 文部科学省 科学技術・学術政策研究所:科学技術指標2018
海外から追い抜かれる日本
以前、ある大手自動車メーカーのチーフエンジニアの方とお話する機会がありました。その方がおっしゃっていたのが、日本は確実に技術力が落ちているということ。日本では作れない製品が出てきていると、しみじみとお話されていました。その背景には、日本の理系学生の技術力不足があるそうです。「日本の学生は大学4年間を遊んで過ごすが、ドイツの学生は大学で技術を学ぶ。この4年間が大きな差になる」と、そのチーフエンジニアの方は危機感を感じていらっしゃいました。日本は現在、少子高齢化により一般的に大学入学も卒業も難しくない状況にあります。そのため、学生は遊んでいても卒業できてしまうのです。
片や日本に並ぶものづくり大国であるドイツでは、大学入学後からインターンシップや企業での実習を通じて、4年間みっちりと早期に技術力を磨くそうです。BMWやフォルクスワーゲンなどの企業も大学の授業に積極的に協力しているらしく、企業と大学が一体となって技術力向上に努めています。
別の視点から見てみると、日本企業の研究開発費は、2015年時点で1,700億ドルとなっており、世界第3位です。しかし米国は5,000億ドル、中国は4,000億ドルと、大きく水をあけられています。しかも日本は横ばい状態が続いている一方で、米国と中国の研究開発費は右肩上がりの傾向にあります(※2)。
現場レベルでも理系人材の不足と技術力の低下が起きており、企業としても研究開発費では米国と中国には到底及びません。ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われていた時代は、もう過去のものになっているのです。
※2 経済産業省:我が国の産業技術に関する研究開発活動の動向(PDF/「1.1.1.1 日本の研究開発費総額の推移」から「1.5.3 政府公募型研究資金の使いやすさ」まで)
日本の技術力を高めるには?
日本の最大手メーカーであるトヨタでも、若いエンジニアがベンチャー企業へ転職していくことに危機感を感じているといいます。若手の理系人材は、一人前になるまでに何年もかかるメーカーよりも、裁量権が大きく自由に仕事ができる環境を求めているのです(※3)。また、日本の理系の年収は、文系と大差ありません。ですが外資系企業では、理系で技術力のある人材であれば高額な報酬がもらえます。そのため日本の理系人材は、外資系企業へ転職していく人も少なくありません。日本でも最近、理系人材を優遇する動きが出てきていますが、まだまだ不十分なのではないでしょうか。
かつての日本には、優れた製品を開発する優秀な技術者が多くいました。みなさんも、面白い製品が次々と生まれていた時代を覚えているでしょう。しかし、いつの間にか精密機器は海外製品を使うようになり、スマートフォンから音楽プレーヤーまで日本製は少なくなりました。このような状況になってしまったのも、日本企業が理系人材に対してやりがいのある仕事を与えてこなかったからではないでしょうか。少なくとも技術者が「面白い!」、「こんなに楽しい仕事をしている!」ということを世の中に示していかなければ、理系人材は増えていかないでしょう。
次回は、理系人材が日本企業でもっとやりがいをもって活躍するためにはどうすればいいか、リアルな声をもとに考えてみたいと思います。
※3 トヨタイムズ:ボスになるな リーダーになれ トヨタ春交渉2020 第2回
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