2018年の秋ごろ、経団連が「採用選考に関する指針(以下、就活ルール)」を廃止する旨を発表しました。結局、即時の廃止はなされませんでしたが、その後は就活ルールが政府預かりとなったり、一方で2019年春ごろには経団連と大学側が通年採用をおこなっていくことについて合意したりと、紆余曲折を経ながらも日本は「一律横並びの型押し型就職」から脱却すべく着実にその歩みを進めています。

「年功制」や「終身雇用」とともに日本企業を形作ってきた「一括採用」が名実ともに崩れ去り、いわば「ゲームのルール」が変わることのインパクトは計り知れません。今回は就職のメインプレーヤーである学生と企業が、就活ルールの廃止によってどのような影響を受け、どのような方向に進むのかについて、EYがこれまでにおこなった2回の意識調査(2019:就活ルール変更に関する意識調査と将来の採用トレンド/2020:新卒採用に関する調査2020と今後の採用・就職活動に関する提言〈以下、意識調査〉)の結果をもとに解説します。
第16回:採用ルール変更のインパクト

企業の動向:「通年採用=青田買い」というイメージは根強い?

まず就活ルール変更の影響を受けるのは、これまで経団連に加盟していた企業群です。通年採用が施行された後、多くの企業は「人材マーケットから優秀人材が枯渇してしまう」という懸念のもと、早期の人材獲得、いわゆる「青田買い」に乗り出すのではないかと考えられます。

実際、2019年の意識調査結果(図1)を見てみると、実に7割以上もの経団連企業が就活ルールの変更にともなって「採用方針や手法を変える」と回答しました。また、これら企業の4割以上が、採用時期の早期化について「導入する予定である(または導入したいと考えている)」と回答しています(なお、上記の傾向は2020年の調査でも変わっていないことが確認されています)。

図1:就活ルール変更による採用手法・方針の転換予定 調査結果(2019年)
第16回:採用ルール変更のインパクト
更に経団連に加盟していなかった企業への影響を考察してみると、これまで差別化を目的として内定時期の早期化やインターンからの囲い込みをおこなっていたこれら企業にとっては、通年採用の実施によって母集団が一定程度、経団連加盟企業に流出することになります。その結果として下記のような選択を迫られることになります。

(1)新卒はあきらめて中途採用に舵を切る
(2)更なる青田買いをおこなう


(1)の影響に関しては大半の企業が既に認識しているため詳細説明は割愛しますが、中途採用市場での人材獲得競争が厳しさを増し、企業の特色や特性への訴求(ブランディングやキャリア開発機会提供など)がより求められることとなります。

(2)の影響に関しては、(経団連への加盟・非加盟に関わらず)企業の青田買いが更なる青田買いを呼ぶことになるでしょう。大学1、2年生から果ては高校生まで、企業の食指は伸び続け、採用にかかる労力とコストが上昇し続けることが予見されます。更にこの傾向は、たとえそのような学生が本当にその企業に来てくれるのか不確かであろうとも(ペイするかしないか判断がつかない間も)しばらく続くものと想定されます。

求められる企業からの具体的な情報発信。「青田買い」は一体いつ終わるのか

2020年の意識調査では3割以上の学生がいまだに終身雇用を求めており、長期勤続と安定を求める傾向にあることが判明しました。また、現在熾烈な獲得競争が繰り広げられているIT人材を例に取っても、2016年におこなわれた「IT人材の最新動向と将来推計(※)」によれば、約5割の人材が「転職経験なし」と回答していることから、「人材マーケットから優秀人材が枯渇してしまう」という企業の懸念は現実のものとなっています。青田買いの傾向はこのような懸念が払拭されるまで(少なくとも10年スパンで)続くもの想定されます。

このような「高コスト・低リターン」の青田買いを早期に終わらせるためには、求める人材像をなるべく具体的に発信すること、それもスキルや職務だけではなくて、生き方や価値観、キャリア形成について訴求することがなにより肝要であると考えます。

例えば、企業が「Pythonを使用したデータ解析の実績がある」、「最終的には独立志向」、「成果主義」、「年齢問わず」……など、具体的な訴求基準を出せば出すほど、学生が新卒以外の選択肢や働き方、キャリア形成について考えるきっかけができます。更に、そのような人材がミドルキャリアでも活躍していることを知れば、採用マーケットはより流動化し、前述のような企業の懸念も早期に払拭されることになる、というのが筆者の見解です。

また、上記を実行に移す前には、各企業が日本の高齢化社会を踏まえた「人生100年時代のキャリア」について一定の解を出しておくことが重要である旨、付言したいと思います。今回の趣旨とはずれるため詳細は割愛しますが、60歳以後の雇用機会をとらえた制度の再検証や、派生する影響の特定と打ち手、キャリア形成に対する企業の考え方を発信することで、ファンを作り、ひいては人材獲得競争を優位に進めることにもつながるのではないかと筆者は考えています。

※出典:経済産業省「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」(2016年6月10日)

学生の動向:受け身の学生はただ多くを求められる!?

ここからは、もう一方のメインプレーヤーである「学生」への影響について解説します。これまでの彼らは、学生生活を通じて、学業・サークル活動・アルバイトに力を入れていました。しかし、これからは社会貢献・ビジネススキルの習得・海外留学などを通じて、より社会に対する理解を深めることが必要である、と2019・2020年双方の調査結果で判明しています。

図2:「学生が力を入れていることと企業が学生に求めるもの」調査結果(2019年)
第16回:採用ルール変更のインパクト
更に、2020年の意識調査では学生は就職活動に対して総じて受け身であり、就活の進め方やおこなっている取り組みについても大学ランク間で大きな差はないことも特徴として判明しています。これまでは企業や政府の意向が反映された就活ルールが広く周知され、学生はそのルールを遵守することが企業に入るために最低限必要だと考えていたため、この特徴は当然の結果と言えるでしょう。一方で、今後、通年採用が施行されて企業が青田買いを志向した際には、大学1、2年生といった若年層でも社会やビジネスについて理解を深めること、自身で就職への助走を取るようにすることなど、大きな変革を求められることになるでしょう。

次回予告:採用の未来と企業が取るべき戦略とは?

上記のような学生に対して、具体的なキャリア形成や求める価値観・人材像を伝え、目線の引き上げ、社会・企業へのオンボードを支援していく活動が近い将来企業にも求められることになります。このような企業の活動は学生を囲い込むことにもつながり、青田買いの中での競争力を保つための大きな訴求ポイントとなるでしょう。次回は、その具体的な手法をご紹介します。
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