若年層の意識変化が浮き彫りに
日本生産性本部では毎年、新入社員に対して意識調査を実施しています。この記事執筆時点(4月上旬)で最新の調査結果である2019年のレポートを見ると、かつての日本におけるキャリアモデルである「出世志向」に大きな変化が起こっていることがわかります。「どのポストまで昇進したいか」という問いに対して、最も多かったのは専門職(スペシャリスト)であり、次に多かったのが「どうでもよい」でした。女性の回答を見てみると1位は専門職、次は「役職になりたくない」でした。また、社長などを目指す出世志向が過去最低水準にあることが報告されています。
加えて、別の設問を見てみると「若いうちに進んで苦労すべきか」という質問に対し「好んで苦労する必要はない」が過去最高の回答率となっています。7年前には「苦労すべきだ」と答えた新入社員が7割もいたのに対し、最新の2019年度の結果では4割ほどまで減っています。
こうした結果をみると、最近の若年層にはかつての日本のように「深夜までバリバリ働いて出世する」という考え方が少ないことがわかります。実際に人事の現場をみてみると、社員との面談や雑談でも「給料は多くほしいが、出世はしたくない」という声が聞こえます。さらに最近では「給料もほどほどでよいから、出世もしなくていい。共働きでそこそこ稼げればよい」という話を聞くようにもなりました。こうした声は20代だけでなく、30代から40代前半の社員からも聞こえてきます。日本の典型的なキャリアモデルであった「大企業で出世が成功」神話は、既に崩れかかっています。
制度疲労に直面する日本企業
こうした社員の価値観の変化が、人事にとって大きな問題に直面する原因となっています。基本的に多くの日本企業ではまだまだ年功序列型の人事制度をとっているケースも多く、ある程度の在籍年数や、年齢と役職が賃金と連動しているからです。役職や職位と賃金が連動しているなら、ポジションが上がらなければ給料も上がりません。出世したくない社員が増えると、無理に管理職に就かせることで社員のモチベーションが下がるだけでなく、昇進に伴って賃金アップしないことで離職が発生するリスクがあります。実際に離職理由の本音を退職者に聞いてみると、賃金が下がったことや賃金が上がらないことが離職のきっかけになっていることが少なくありません。
昇進しなければ給料が上がらない職場では、昇進が働くモチベーションとして作用します。しかし、そもそも昇進したいというモチベーションがないのならば、それ以外のやりがいを社員に持たせなければなりません。仕事にやりがいがなければ、社員はすぐ賃金水準の高い他の企業に転職していってしまいます。
これまではいわゆる「査定」と呼ばれるやり方で、評価と昇進、昇給で成果を管理することが、日本企業の人事のやり方でした。評価制度や賃金制度は、社員の行動をコントロールするために存在しています。会社にとってよい行動を行う社員は評価され、よい地位と報酬が得られます。昇進がモチベーションにならないのであれば、新たな方法で賃金を分配するか、何かしらの方法でやる気を引き出して成果管理を行う人事制度を作らなければなりません。日本の人事制度は確実に制度疲労に直面しています。
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