講師
服部 泰宏氏
神戸大学大学院経営学研究科 准教授
神戸大学大学院経営学研究科准教授。神奈川県生まれ。 国立大学法人滋賀大学専任講師、同准教授、国立大学法人横浜国立大学准教授を経て、 2018年4月より現職。 日本企業における組織と個人の関わりあいや、ビジネスパーソンの学びと知識の普及に 関する研究、人材の採用や評価、育成に関する研究に従事。 2010年に第26回組織学会高宮賞、 2014年に人材育成学会論文賞などを受賞。
「突出した社員」「スター社員」は企業内でどのように分布しているか
私はこれまで主に採用のドメインで研究活動を行ってきましたが、数年前から、この問題を考えていくときに、そもそも人間の優秀さや会社に対する貢献とはどういうものか、掘り下げてみる必要があるのではないかと考えるようになりました。その背景として、いわゆる「突出した社員」、私はもう少しストレートに「スター社員」と呼んでいますが、近年、そういう人々が組織にとってますます重要な存在になってきていることがあります。例えば、ある大学では非常に優れた研究者がわずか2、3名移籍してきたことで、大学の業績指数が国内トップに躍り出ましたし、国内のある大手メーカーが、シンガポールに置くヘッドクォーターでアジアパシフィックを統括するHRダイレクターを、本社の人事部長の何倍もの給与で採用した例もあります。また、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が「偉大な旋盤作業員は平均的な旋盤作業員の賃金の数倍を要求するが、ソフトウェアコードの偉大な制作者であれば、平均的な制作者の1万倍の価値がある」と発言したことはよく知られています。きわめて優れた人材が業績に与える影響は大きく、そういう人材にはこれまでの枠組みを超えた高い評価や処遇を考える必要が出てきているように思います。では、「突出した人材」は企業の中でどのように分布しているのでしょうか。これまでは、縦軸に各社員の業績、横軸に人数を取ったグラフで表すと、中間レベルの社員が最も多い山型の正規分布になると想定されてきました。(下図参照)このため、業績向上のためにインパクトがあるのは、ボリュームゾーンである中間レベルの社員を底上げすることだと考えられてきたわけです。しかし、本当にそうだろうかという議論が出てきました。研究者やアスリート、エンジニアといった人たちの成果は、左端が最も高く、急カーブで下がって右にロングテールを描く「べき乗分布」になるという研究報告が行われています。投資会社などでも同様の分布が見られるようです。ごく一部の「突出した人材」が多くの売上を上げ、会社を支えているわけです。最近、HRの世界ではアロケーションということがよく言われます。これからは、業種や職種によっては「べき乗分布」を想定し、賃金や教育といったリソースを誰に対してどのように配分するべきなのかを考える必要が出てくるのではないでしょうか。
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