「本当に自社にマッチした人財を採用できているのだろうか」「優秀な人財を取りこぼしていないだろうか」これは、採用に対して常に付きまとう不安だろう。こうした不安や課題の解決のために、近年注目を集めているのがHRテクノロジーであり、データ活用だ。しかし、実際に何から始めるべきか、迷いを抱えている企業は多いのではないだろうか。そこで、データ分析技術を活用した新卒採用活動の高度化に取り組み、第3回HRテクノロジー大賞『採用部門優秀賞』を獲得したコニカミノルタ株式会社 人事部長の工藤司氏に、施策の詳しい内容やその成果などを伺った。

第3回HRテクノロジー大賞『採用部門優秀賞』

コニカミノルタ株式会社

データ分析技術を活用した新卒採用活動の高度化

人事部内にPeople Analyticsの専任組織を設置して、データサイエンティストを配置。適性検査やパフォーマンスデータの分析から人財タイプを見える化し、選考判断のスピード化や、辞退・取りこぼしの低下を短期間で実現させたことが評価されました。

ゲスト

  • 工藤司 氏

    工藤司 氏

    コニカミノルタ株式会社
    人事部長

    大学卒業後、富士通株式会社に入社し、日本・欧州にて12年間人事業務を経験。その後、2007年にGE(ゼネラル・エレクトリック)のヘルスケア事業部門に入社し、日本の人事マネージャー、東南アジア人事部長、アジア・パシフィック人事本部長を歴任。2017年にコニカミノルタ株式会社に入社し、人事部長として戦略的な人事部への変革を推進中。
データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。

3つの課題意識から、新卒採用におけるデータ活用に着手

データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。
── 新卒採用にデータを活用するに至った背景を教えてください。

工藤司 氏(以下、工藤) 当社では、会社の将来を担う優秀人財の獲得を進めています。しかし、昨今の売り手市場の中、従来の採用手法では求める人財の採用が困難になってきていました。具体的な課題意識としては3つ。1つ目は、求める人財を定量的に定義できていないということです。2つ目は、候補者である学生と面接で顔を合わせるまで、本人の適社性を把握しにくいこと。そして3つ目は、面接に至らなかった学生の中に、当社の求める優秀人財がいたかもしれないという不安です。

そこで、(1)社内で活躍できる優秀人財を定量的に定義し、(2)求める人財の取りこぼしを防ぐことを目標に、データを活用した新卒採用活動がスタートしました。

── 取り組みはいつ頃からスタートしたのですか。

工藤 まずは2017年の春ごろ、当時の新卒採用グループリーダーのアイデアからスタートしました。彼はまず外部ベンダーに依頼し、過去の新卒採用データが活用できそうか検証しました。そこで、有効性が認められたため、次に社内のIoTプラットフォーム開発チームにアイデアを持ち込み、プロジェクト化を打診。そのチームのデータサイエンティスト2名をアサインし、プロジェクトを組成しました。本格的にスタートしたのは2017年秋で、ターゲットは2019年新卒からです。

人事が苦労していた、人財タイプの把握や優秀人財の発掘を効率化

データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。
── 具体的には、どのような施策を実施したのでしょうか。まず目標の1つ目である社内で活躍できる優秀人財の定量化な定義について聞かせてください。

工藤 まず、優秀人財の定量化のために、人財タイプの分類を行いました。活用したのは、適性検査(SPI)データです。当社の採用フローでは、エントリー後の段階で適性検査を実施します。そこで、過去の選考参加学生と在籍社員の適性検査データをクラスタ―分析し、6つの人財タイプを定義しました。

6つの人財タイプとは、次の通りです。

「課題解決タイプ」与えられた問題に対して主体的に考え課題解決ができる
「変革実行タイプ」周囲を巻き込み結果にこだわりながらスピード感を持って行動できる
「企画立案タイプ」新しいことに挑戦しながらスピード感を持って企画を出す
「協調タイプ」周囲と助け合いながら物事の課題解決に取り組むことができる
「着実遂行タイプ」周囲と助け合いながら粘り強くとことん考え課題解決ができる
「消極タイプ」他のタイプと比較すると全体的にマイナス面が目立つ

次に、在籍社員の人財タイプ内訳と、人財タイプ別のハイパフォーマー発生確率を確認。その上で、会社の経営戦略を鑑みて、「変革実行タイプ」を求める人財タイプの1つに定義しました。そこで、書類選考で合否のボーダーライン上にいる学生が「変革実行タイプ」だった場合は迷わず面接に進めてみるなど、母集団形成や専攻初期段階の効率化を図りました。

── 目標の2つ目である「求める人財の取りこぼし防止」についてはいかがでしょうか?

工藤 これはトライアル段階なのですが、マッチング度や志望度などの定量化を行い、母集団スクリーニングを効率化に取り組んでいます。学生の基本情報、セミナー参加履歴、エントリーシート、採用管理システム上の行動履歴から、志望度とマッチング度を可視化。従来は書類選考で不合格だった学生であっても、マッチング度が高い場合は面接を実施してみるなど、面接招致段階での取りこぼしを抑制するものです。しかし、志望度とマッチング度だけ見ていれば正解かというと、そうとも限りません。他にも定量化できる指標はあるはずです。今後もトライアンドエラーで探っていく必要があると考えています。

定量面・定性面で大きな成果。専任組織を設け、人事全般にデータ活用を広げる

データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。
── プロジェクトを実施したことにより、どのような成果が見られましたか。

工藤 定量的成果については大きく分けて、(1)「合否判断の短縮化」、(2)「選考辞退人数低減」という、2つの成果がありました。

18年採用と19年採用を比較した具体的な数字を挙げると、(1)については「合否判断の期間を13%短縮化」できました。データを活用することで、選考待機学生の滞留を抑制できたと考えています。(2)については、「1次選考辞退数が24%減少」しました。これは、採用活動の初期段階から志望度やマッチング度などを考慮することで、取りこぼしを防止できたと想定できます。

── 定性的な成果についても教えてください。

工藤 人財データ活用を加速させるために、2018年度から人事部内にPeople Analyticsの専任組織を設けました。当初、プロジェクト組成時にアサインされたデータサイエンティストが兼務しています。

実はこの組織の設置を発案したのは、データサイエンティストたちです。彼らはもともとIoTプラットフォーム開発部隊に所属しており、人財データを扱っていたわけではありません。しかし、このプロジェクトに参画したことで、人財データ活用の可能性を見出し、魅力を感じたそうです。2人のデータサイエンティストの熱意が組織を動かしたという点でも、革新的なことだとだと思います。

── People Analyticsグループ設置により、さらにデータ活用にドライブがかかっていくのだと思います。今後は、どのような展開を考えていらっしゃいますか。

工藤 新卒採用領域では、予測分析のさらなる高度化に取り組んでいきます。1つは、選考申し込みの事前予測や、面接合否の事前予測です。これに関連して選考フローのさらなる高度化も行っており、例えば、人財タイプ別に面接で確認すべき事項のガイドライン化を進めています。

もう1つ、育成や配属の領域でもデータ活用も推進していきます。ハイパフォーマーを早期に見極めた選抜教育の実施や、配属部門や上司とのマッチングも検討中です。さらには、社員の離職防止にもデータを活用できると考えています。

HRテクノロジー大賞受賞により、社内外から注目を集める

データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。
── 今回、第3回HRテクノロジー大賞で採用部門優秀賞を獲得したことで、社内・社外からの反響はいかがでしたか。

工藤 社内では、やはり人事部内がポジティブになりました。従来、人事は人間を扱う仕事のため、感覚や経験が重要だという意識がありました。曖昧な部分があっても「仕方ない」と考え、世の中でデータ活用の重要性が叫ばれ、その事例を聞いているにもかかわらず、どこか自分ごととして捉えていなかったように思います。しかし、今回データ活用の成果が出たことで、直接本件に携わっていない人事部の他のメンバーから「刺激を受けた」という声が多く上がりました。

また、面接を担当したメンバーからは、6つの人財タイプに分けたことで、「面接で聞くポイントが事前に絞り込めた」と聞いています。先ほども今後の取り組みで触れた、人財タイプ別の確認ポイントを整理することで、今後、面接の効率はより向上するでしょう。

社外の反響が非常に大きかったのも驚きでした。様々な企業の人事責任者の方々から本プロジェクトについて尋ねられ、「People Analyticsの専門組織を設置したことが先進的だ」と評価いただくこともあります。世の中には当社よりも先進的な企業の事例がたくさんあります。しかし、まだ多くの企業にとっては、「何から手を付ければ良いのか分からない」という状態なのだと、改めて実感しました。

始めるポイントは完璧を求めず、常識にとらわれず、オープンに

データ活用により、新卒採用活動にイノベーションを創出。
── 採用におけるデータ活用に興味を持ちながらも、「何から始めれば良いのか分からない」という企業に、ぜひアドバイスをお願いします。

工藤 1つは、完璧を求めないことです。以前は私も、完璧なデータと完璧なシステムが揃っていなければデータ分析は不可能だと考えていました。しかし実際は完璧でなくとも、できることはたくさんあるのです。既に蓄積されているデータ同士を掛け合わせることで、見えてくるものもあります。すべての領域であらゆるデータを取得、整理してから始めようとすると、いつまでたっても着手できません。それよりも「今あるデータで何ができるのか」と発想を転換してみるのはポイントです。

次に、自分の常識に捉われないこと。私たちは新しいことを始める時に、どうしても「こういうデータを解析したら、こういう結果が出るのではないか。それはこんな用途に使えるのではないか」と仮説を立て、先の見通しまで固めてしまいがちです。データ活用においては、この仮説があだとなり可能性を狭めてしまいます。それよりも、「ハイポテンシャル人財は、どう見極めればいいのだろう?」など、素朴な疑問をデータの専門家にぶつけてみることから始めてみてください。

最後に、社内外のリソースをオープンに活用すること。ピープルアナリティクスは、日本ではまだ新しい領域です。すべて自前で行うのは難しいでしょう。そこで、先進的な技術を持つスタートアップ企業など外部リソースにも目を向けていくことをお勧めします。そして、始める時は一度に全部やろうとせず、小さく早く始めるようにしてください。成功も失敗も、最初は小さく早く積み重ねていった方が、後につながります。

採用活動は営業活動と同じです。しかし、営業領域はどんどん科学的なアプローチが進んでいるのに対して、人事領域は後れをとっています。手付かずのデータが多いからこそ、面白いことができるはずです。当社もまだ入り口に立ったばかり。今後もデータを活用して人事をより科学的なプロセスでアプローチしたいと考えています。

取材を終えて

「合否判断13%短縮」「1次選考辞退数24%減少」この成果から見えるのは、求める人財をより効果的に、とりわけ募集から面接における採用工数の大幅な削減を達成していることだ。採用活動の初期段階では特に、多くの学生が合否のボーダーライン上に並ぶ。そこで検討するために割かれる工数は無視できるものではない。そこで、データにより人財タイプが分類され、かつ企業として求めるタイプが決まっていれば、検討の時間を大幅に削減できる。データ活用には膨大な時間とコストがかかると考えがちだが、結果的には人事の生産性向上にもつながっているのだ。

コニカミノルタ株式会社
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