よくよく考えてみれば、猛烈な成長ぶりだ。設立当初に携帯電話を使っていた人はほとんど存在しなかった。ところが現在は、契約数が国内人口よりも多い。そのナンバー1キャリアがNTTドコモだ。携帯電話業界は競争が激しいが、常にトップの座に輝き続けてきた。その人材戦略について吉澤和弘人事部長に聞いた。
――携帯電話は2000年代に爆発的に普及して社会を変えました。現在のモバイル市場はどの段階なのでしょうか?
携帯電話市場の転機になったのは1999年のiモードだが、登場した当初の1999年はまだ市場は静かだった。しかし翌年の2000年から猛烈な勢いで普及し始めた。この頃のNTTドコモグループの新卒採用数は約800名。現在の社員の年齢別分布図では、48歳と38歳の2つのピークがあるが、48歳はNTTからの転籍者の年齢だが、38歳のピークはこの頃の大量採用組によってできている。
ただ市場の成長期は過ぎており、モバイル市場は成熟期にある。契約数の大幅増は考えにくい。成熟期の経営戦略で最も重要なのは、お客さま満足度の向上だ。個人部門では2年連続ナンバー1、法人向け顧客満足では3年連続ナンバー1を獲得している。
――2008年発表の中期ビジョンでは「変革とチャレンジ」を掲げています。この「変革とチャレンジ」を人材要件として定義するとどうなりますか? また新卒採用数についても教えてください。
変革とチャレンジを実行する人材の前提は志が高いことだ。志をベースにした上で、3つの能力が必要だと考える。まず「柔軟な思考力」が重要だ。そして周囲を巻き込んで仕事をする「巻き込み力」が必要だ。3つ目の能力は、「最後までやり遂げる力」だ。この3つの能力を持つ学生を採用したい。
2013年卒採用は、5月の連休明けの週に内々定出しがほぼ終わった。ドコモの採用数は約260名で、文理が半々の割合だ。
――新入社員からスタートする社員教育、キャリア形成について教えてください。
事務系の新人教育としては、まず2週間の導入研修を行った後に、全国のドコモショップに行き、半年間のOJT研修を受ける。ご存じのように携帯電話のサービスは多様であり、料金体系も複雑だ。店頭に並ぶ機種も多い。これらの知識を一気に学習するのはむずかしい。最初はお客さまからの質問に戸惑っていた新入社員も、半年のOJTで知識を深める。半年のOJTが終了すると、ドコモショップを管轄する支店に移る。支店で営業としての経験を積む。ドコモショップの支援、販売促進もあるし、法人営業もある。
NTTドコモのサービスは携帯電話だけだと思っているかもしれないが、それは間違いであり、多彩な法人向けサービスがある。通信モジュールを取り付けることで、さまざまな機器のリモート管理が可能になる。
たとえば自販機の在庫・売上管理もあるし、在宅医療機器にもネットワーク機能がついている。タクシーの清算をクレジットカードでするサービスを利用した人もいると思うが、このサービスはドコモの回線によって認証する仕組みだ。
支店での3年間が終了すると、本社勤務になる。本社で業務遂行のスキルを磨く。そして本社勤務を3年間経験してようやく一人前になる。
入社からのキャリアを整理すると、半年間のドコモショップ研修、3年間の支店勤務、3年間の本社勤務ということになる。この人材育成プログラムが終わってから、再度支店に勤務し、支店の戦略策定、実行を担う。
――女性の活用についてはどうですか?
現在の既存社員の女性比率は20%弱だ。採用では女性比率を30%にする目標を立てている。実際の女性比率は2011年採用で28%、2012年採用で25%だった。 産休、育休などの女性支援制度は充実していると自負している。しっかりと産休、育休を取ることが定着している。3年間の育休後の復職率も95%程度と高い。復職してからも4~6時間の短時間勤務を選ぶことができる。長期の育休を取得すると、昇給・昇格が遅れるとためらう女性がいるだろうが、その点にも配慮している。3年間のブランクがあっても、その女性のパフォーマンスが評価に値する高さなら、同期入社の社員とそれほど違わない時期に昇給、昇格させる制度になっている。
――グローバル展開とグローバル採用についてはどうですか?
NTTドコモが他国で事業を行うことは外資規制等もあり難しい。しかし、通信はグローバルな要素を持っており、国際ローミングが必要だ。すなわち海外キャリアとの良好な関係が必要であり、韓国、フィリピン、インドの海外キャリアには出資をしている。グローバル採用については、5年前から日本の大学に来ている留学生を採用してきた。
外国人採用の累積数は90名ほどであり、最も多いのは中国籍の社員だ。年1回開かれる「中国交流会」は社内の中国人社員が参加するもので、本社の会議室に集まった本社勤務の社員と、中国の拠点にいる社員がテレビ会議で参加し、最新情報を持ち寄って盛り上がっている。
日本人留学生も採用しており、毎年ボストンで開かれる企業説明会に参加し、6名程度を採用している。
――東日本大震災では携帯電話が活躍し、NTTドコモの底力が示されましたが、社内はどのような状態でしたか?
NTTドコモには日本電信電話公社時代からのDNAがあり、通信インフラの安定的なオペレーションへのこだわりが定着している。東日本大震災では東北支社が即座に臨戦体制に入り、本社も緊急体制になった。基地局が倒壊したので、通信インフラの早期復旧には衛星移動基地局車、移動無線基地局車、移動電源車などの支援機器が必要だが、東北支社は必要量をまかなえない。そこで全国の支社から集めて東北に送った。
東日本大震災の前にも自然災害に備えていたが、東日本大震災によってさらにNTTドコモの危機対応力は鍛えられた。
首都直下型地震などが起これば、広範囲で通信が途絶する恐れがあるが、すでにそのような事態を想定し対策をしている。高層ビルの上に基地局を設置し、広いエリアをカバーできる大ゾーン基地局もそのひとつだ。
この夏の関西圏での電力不足にも対応が必要だ。通信インフラの維持のために、NTTドコモは発電装置を持っている。しかしこれまでの発電用重油の備蓄量は1週間足らずだった。関西圏での夏の電力不足は長期にわたるから、備蓄量を増やさなければならない。
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