とはいえ、男性の育児休業取得は、まだまだハードルが高いようだ。しかしそのハードルを高くしているのは、男性自身なのではないか、と感じずにはいられない面もある。これまで男性は、育児に気をとられることがなく、仕事に“だけ”集中していればよかった。もしかしたら、男性の育児参加に関する意識改革は、うとうとと居心地のよかった蒲団の中、まだ眠いのに蒲団をはがされるようなものかもしれない。
育児休業取得者の現状
厚労省が7月30日に公表した「平成29年度雇用均等基本調査」によれば、育児休業取得者の割合は、女性は83.2%、男性は5.14%。それぞれ前年より1.4ポイント、1.98ポイントずつ上昇している。育児・介護休業法が制定された翌年、平成8年(1996)当初は、女性は49.1%、男性は0.12%だった。同時にこの年は、生産年齢人口がピークを迎え、以降下り坂となっている。
男性の育児休業取得率は、これまで前年比で1ポイント以上増加した年はなかったことを考えると、制度導入による成果がみられると言っていいだろう。
会社や職場で気遣いをしながら生きる男性にとって、育児休業を取りにくいことは理解する。しかし、女性としては、やはり育児においても、男性を何かと頼りにしたいのが本音だ。
「実家で総抱えだから…」とか、「夫が家にいても誰が夫のためのご飯つくるの?」などと、男性の育児休業にさほど期待を抱かない話も聞くが、妻不在中のマイホームの掃除、子供の面倒など、男性のわずかな手伝いであっても、女性にとってはうれしいものだ。
育児休業を取りたがらない男性。…では、どうする?
企業がすぐにできることは、育児や介護の休業制度、休業による給付金など国の制度があり、男性も育児休業制度を利用できることを、まず社員にきちんと教えてあげること。そして、誰かに率先して育児休業を取らせ、周囲へ見本を示すことだ。休業する本人は、周囲への気兼ねするということもあるだろうが、ビジネスパーソンたる者、自己管理ができなくてはいけない。
兼業・副業、労働力の流動化、グローバル化、ワークライフバランスなどなど、現代において自己管理の重要さは増すばかり。それぞれができるりの自己管理をしてこそ、よりよいパフォーマンスを発揮できるし、お互いを尊重することもできる。困った時はお互いさまである。お互い助け合って、制度を利用することで、信頼関係をさらに強固にすることもできるだろう。
もう少し長期をにらんでみる。リンダ・グラットン氏の『ライフシフト~100年時代の人生戦略~』では、何ステージもの人生が展開した場合も、パートナーと役割交替できる、相互補完の必要性を説いている。
また、氏は著書の中で、100年時代の企業の課題として6項目あげている。
①無形の資産に目を向ける(賃金や手当を有形の資産、お金に換算できない見えない資産(生産性、活力、変身)
②移行を支援する
③マルチステージの人生を前提にする
④仕事と家庭の関係の変化を理解する
⑤年齢を基準にするのをやめる
⑥実験を容認・評価する
それぞれの提案の詳細については読んでいただくしかないが、今後到来する人生100年時代においては、人事の一大改革、そして男女の役割分担の柔軟性を必要とする、という点は確かだ。
育児に関わる期間ばかりではない、人生が長くなれば、当然、介護や病気に関わる期間もあるし、次のステージへ進むために勉強をしたり、充電する期間もあるだろう。“育メンの当たり前化”は、人生100年時代に向かい、企業が変わっていくための準備体操のようなものかもしれない。
前述した「企業がすぐにできること」に戻ろう。男性の育児休業を応援する助成金は、正式には「両立支援等助成金(出生時両立支援コース)」という。これは、男性社員が育児休業を取得しやすい職場風土づくりへ取り組んだ企業に対して支給されるものだ。
流れとしてはこうなる。男性社員向けのリーフレットを作成するなどの取り組みを行い、その後、男性社員が子の出生後8週間以内に開始する育児休業を取得する。中小企業の場合連続5日以上の育児休業期間をとった場合、1人目で57万円支給される。2人目以降は休業日数により、14.25万円から33.25万円まで支給される。その他にも要件があるが、取り組んでみると比較的利用しやすいことがわかるはずだ。企業のイメージアップにもなる。
――男性の皆さん、もう時間ですよ。女性達はそろそろ夫の蒲団をはがしましょうか。それとも、自分で起きると言っていますか?
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