全社レベルでのデジタルトランスフォーメーションのため、人事部が果たすべき役割
日本において、生産性の向上は急務です。日本の一人当たりの労働生産性は、2018年ではOECD加盟国中20位、先進7か国中最下位で、ホワイトカラーの生産性向上が叫ばれています。そのよう中で、少子高齢化、労働力不足が既に始まっています。官民あげての「働き方改革」や、経営・CEOの課題である「デジタルトランスフォーメーション」の実現のためには、ホワイトカラーの業務の自動化が待ったなしの状況です。注目すべきは労働人口の減少だけではなく、人材のミスマッチが起き始めていることです。事務員が過剰になり、専門職が足りなくなってきています。業務に精通した人財がデジタルトランスフォーメーションの旗手になることで、このミスマッチを解消することができると考えます。事務職から専門職へのトランスフォーメーションです(下記の図を参照)。
ロボットを活用するということは、ロボットが仲間として入社してくることに例えられます。入社してきたばかりのロボットは新人のようなものです。ロボットは忖度せず指示通りに動き、指示をしっかり与えて育てればミスなく正確に動作を繰り返し、24時間365日働きます。方法に気をつけてしっかりと作ることが重要ですが、愛情を持ってこの新人を育てれば、会社に信頼できる仲間が増えてきます。人事部の方は、この過程を経営層やユーザーと一緒に作っていく必要があります。
具体的には、まずデジタルトランスフォーメーションを実現するためにどのような人財が必要となるのか、人事部は「人財育成」という観点で対応しなければなりません。
例として、「伝道師人財」が挙げられます。ロボットを導入・活用するにあたり、ロボットの長所や特徴を社員に納得させる必要がありますが、伝道師人財はその役目を担います。前述の大手生命保険会社では、社長自ら先頭をきってRPAの導入を進め、伝道師人財の役割を担っています。また、ある大手信託銀行では、課長クラスが実際にロボットを作ってみて理解した上で、自分の部署に広めていくという活動が行われています。
また、「ロボット教育人財」も必要となります。毎日、事務業務やルーティン業務を行っている実際の担当者は、それを行うことが仕事なので、その業務が本当に必要なのか否か判断できないケースがよくあります。経営層が業務を変えるようメッセージを発信しても、実際の担当者は業務の本質を教えられてないため、どのように変えるべきなのかがわからないのです。そのため、ロボットを作る際に、業務を俯瞰的に見られる人財がBPR(Business Process Re-engineering)や業務の見直しを行う必要があります。業務をやめる・変える、自動化する・しないを判断し、実際にロボットの開発をリードします。そして、業務に関係する一人ひとりが、ロボット開発を通じてビジネス・業務の考え方・見方を変え、デジタル化を推進する人財へトランスフォーメーションすることが大事です。
そして、デジタルトランスフォーメーションを定着させるために、どのような人財マネジメントを実現すべきなのかを考えなければいけません。RPA推進部署(Center of Excellence:CoE)と連携してレーニングを定常的に行う、評価等の人事制度を見直す、さらには従業員の意識・行動を変える、ということが必要になるでしょう。
ロボットを利用することが当たり前のようになると、新しいダイバシティーが始まるかもしれません。現在のダイバシティーは性別、国籍等という観点ですが、今後は人間・ロボットという観点も加わるかもしれません。ある人は人間のみをマネジメントし、ある人はロボットのみをマネジメントし、またある人は人間とロボット両方をマネジメントする、という状況が生まれるはずです。そのような状況下では、“業務は非常に詳しいけれど、人のマネジメントが苦手な管理職候補者”については、最初はロボットのみを管理してもらいます。ロボットに業務をしっかりと教えられたら、次に人間を管理することにチャレンジする、という育て方も考えられるのではないでしょうか。今まで行ってきた人財マネジメント方法を変えることも、考える必要があるかもしれません。
「トップマネジメントのコミットメント」、「CoEによるRPAの展開」、「人事の人・組織の変革」のリードが三位一体になって、一つ一つ課題を克服している企業は、デジタルトランスフォーメーションに成功しています。繰り返しますが、RPAを活用した会社全体のデジタルトランスフォーメーションの成功は、人事部が鍵です。生産性の向上が求められている中、労働人口が減少し、さらに人材のミスマッチが起こっている状況下で、デジタルトランスフォーメーションを成功させるために、いかに経営の意思をしっかり受け止めて行動に移していくか、そのリードを人事部が行ってはいかがでしょうか。