人事が学習すべきは経営数字

稲垣: 近頃、日本の大学ではリベラルアーツが重要視されてきていますね。

中島: それについては、私は賛否両方の意見を持っています。どういうことかと言うと、リベラルアーツは哲学や価値観を作る上では大事なんですが、西洋の哲学や芸術を中心にした勉強ばかりしていると、「新プラトン主義」というか、“実学”を軽視する考え方に陥ってしまいがちなんです。企業経営には、「どう実践するんだ?」、「数字はついてきているのか?」という視点が必要です。日本が決定的に弱いのは、この部分だと感じています。

欧米のマネジメントを見て思うのは、数字を見ながらPDCAサイクルを回していくシステムがちゃんと確立していて、それをどう動かすかも、みんながきちっと理解している。それがグローバルルールなんですよね。

稲垣: なるほど。人事もそれに協力するべきだ、ということですよね。

中島: そうです。人事もPDCAサイクルを回さなければいけません。人件費とかそういう話だけではなくて、PDCAサイクルのシステムを動かすために複式簿記を理解して、お金と資産の管理を把握しないといけない。人事であれば、資産である“人”に、必要なコストをバランスさせていくためのPDCAを回すシステムが重要です。経営のパートナーとしての人事は、この役割ができなければいけません。そうでないと、経営というゲームのボードの上に上がれないんです。日本の企業が弱いのは、ボードの上にすら上がれない人材が非常に多いからだと思います。

稲垣: 実は僕自身も、インドネシアに行って反省させられたことがあります。現地で人事の課題をお聞きすると「在庫の管理意識」や「一人当たりの売上高」など、経営数字に絡んだ相談や質問をされるんです。

日本で人事の方々と仕事をしていた時は、こんな質問はほとんどされませんでした。日本では「採用のブランディングが上がる」とか、「採用予算を抑えられる」とか、「離職率が下がる」とかそういう説明が求められますが、インドネシアの現地の社長に納得してもらうには、会社のP/L(Profit and Loss Statement:損益計算書)・B/S(Balance Sheet:貸借対照表)のどこに影響するのかを説明する準備がないとダメなんだということが分かりました。

中島: そうなんですよ。会社の経営というのは、「お金の流れ」と「資産」で成り立っているんです。世界経済は、会計学が根付いた国が必ず制覇します。これまでイギリスやアメリカが経済において世界を制覇していたのは、両国の中に会計システムが根付いて、企業会計がしっかりできていたからです。会計というのは、複式簿記を使わないと実際に利益が上がっているのかが分からない。経営は、利益が上がって、その利益を蓄積して、それを基にビジネスを拡大する、というのが基本モデルなんです。
第5回:「グローバルで通用する人事」になるための課題とは?

バリューを伝え、相手の共感を生む語学力

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