働き方改革においては、職務レベル、部署、階層、各個人によって異なる状況・意義が交錯しており、そういった中で改革を進める難しさがあります。例えば、経営層にとって重要なのは、会社の業績や行政指導、会社の評判など。管理職にとって重要なのは、部下の管理監督責任や会社からの自分への評価など。従業員にとって重要なのは、働き甲斐や生き甲斐、待遇、余暇などです。またこうした階層による違いは、部署によっても違ってきます。これらを一つの方向にまとめ、全社共通の意義を作ることが働き方改革を進めるうえで最も重要だと認識してください。
次に働き方改革で陥りがちな問題点についてお話しします。第一に、表層的な取り組みにとどまり、実質を伴わないケースとしては、例えば残業制限(強制帰宅)が実施されたが、顧客対応のため結局自宅に持ち帰っている。早帰りが推進されても業務内容は従来のまま、かつ長時間労働を是とする文化が強く、実際には帰れない。在宅勤務の制度が導入されたがほとんど活用されていない…などが挙げられます。第二に、一時的・局所的に成功するが、その後停滞するケースとしては、部署内の小さな改革は進むが、次第に課題が大きくなり、部署間にまたがる課題になると行き詰まる。管理職の力量により、業務効率化に成功している部門もあるが、なかなか成果が出ず、「改革疲れ」の部門も多い…などが挙げられます。参加者に対し改革のビジョンを明確にするとともに、組織の現状を正確に把握し、優先課題を明確にすることが大切です。
いかに改革に対する正しい認識を持たせるか。いかに各自・各チームのモチベーションを引き出せるか。いかに一過性のものにせず陳腐化させないようにするか。これらの対応が非常に重要になります。ではそのために何をしたらいいのでしょうか。例えば、参加者個人のレベルまで細やかなコミュニケーションを行う。改革をすることで、自分にどんなメリットがあるのかを考えてもらう。改革の成果に対する正しい評価と報酬を与え、認識してもらう。継続したモニタリングとコーチングの環境の整備をする。各部署間の調整を行う――こうしたことが求められるのです。そしてこれらすべてがチェンジマネジメントというメソドロジーの中に含まれています。
■働き方改革の実行とチェンジマネジメント
変革が起こると、そこにはさまざまな反応が起こります。不安、喜び、恐れ、悪い予感、否定、罪悪感、失望、落ち込み、反感、テスト、受容、前進…など。そしてこうした変革への反応をマネジメントする必要があります。今回ご紹介するチェンジマネジメントとは、変化を管理するということ。影響を受ける関係者が変革を受け入れ、それに備えながら、望み通りの結果を達成できるように、構造化され、意識的に行われるプロセス、ツール、そしてメソッドの導入手法です。明確化フェーズ(現状を十分に分析し、要求されるカルチャーの変革を把握する)、周知フェーズ(変革を早期に周知して、メンバーが変革に貢献するよう働きかける)、具体化フェーズ(変革ビジョンを具現化して、組織内に伝達する)、実現フェーズ(改革を実行するための知識、スキル、能力を身につける)、定着化フェーズ(将来の状態に対してパフォーマンス評価、KPI、ビジネスプロセス、ロールと役割を定義する)という5つのフェーズに分けられます。