働き方改革とチェンジマネジメント~働かせ方改革ではない自主性を持った改革とは~
KPMGコンサルティング株式会社 People & Change Director 坂東治忠氏
働き方改革の波が加速度的に広がる中、「改革がなかなか進まない」、「うまくいかない」といった声も多く聞かれます。いかに成功させるか――そのポイントになるのが、変化をマネジメントする=チェンジマネジメントという概念です。今回は、RPAを活用した業務改革支援を行うKPMGコンサルティング株式会社の坂東治忠氏をお招きし、働き方改革の成功のポイントや、チェンジマネジメントの意義について解説いただきました。
■働き方改革とは何か
現在企業を取り巻く環境は大きく変化しています。ビジネスのグローバル化による競争、国内市場の成熟化と需要の多様化、テクノロジーの進化(AI導入の拡大)、法規制の強化(長時間労働・非正規雇用)など、また労働人口の減少、仕事に対する価値観の多様化など。そしてこうした変化に対応すべく、生産性向上や人財活用といったニーズが生まれました。さらにそのための施策としては、ルーチン業務の効率化、人財の見える化による高付加価値業務への注力、時間の制約がある社員も能力を発揮できる環境整備などが図られました。
次に、働き方改革を実行するうえで不可欠な3つのポイントをご紹介します。1つ目は、現状分析です。既存業務の無駄を多角的に分析し、見える化します。2つ目は、改革の到達点を設定するためのTo-Be策定です。企業戦略に基づき、業務のあるべき姿を見直します。そして3つ目は、改革の実行です。Gap分析を実施し、あるべき姿に到達するための対応施策を実行します。
働き方改革=変革の難しさもあります。変革は個人に対し大きなインパクトをもたらすものです。人はそれぞれ変革に対し、理性的、感情的、反抗的、歓迎など異なった反能を示します。「70%の大規模な変革の取り組みは失敗する」――これは、ハーバードビジネススクールの、ジョン・コッター氏がチェンジマネジメントの研究に取り組み始めた1996年の言葉ですが、これは今日においても当てはまります。人員への変革の影響を効果的に管理しなかった場合、トランスフォーメーションの便益事例の最大60%がリスクにさらされる可能性があることをKPMGは経験から学習しました。変革が相当な割合で失敗するのは、プログラム内のそれぞれの取り組みが個別の活動とみなされ、概して一般的な変革の方法論を適用されるからです。変革の実行を達成するにあたり、大きな成功を収めるプログラムで重要なのは変革の方法だけではありません。変革は組織固有の背景に合わせた機敏でカスタマイズ可能なアプローチが必要なのです。
まずは、営業部門の例を見てみましょう。会社がいきなり「働き方改革」といって残業時間の制限を開始したケースです。このときの若手の反応は、「人事部が説明会を開催して『時短は時代の流れ』とか言っていたけど、そうなの?腹落ちしないけど、まあアフター5も楽しみたいし、仕事終わってないけど帰りますよ、課長!」というものでした。次に課長の反応は、「部下が過剰残業をすることを許したら、自分の管理能力が無いと判断される?でも早く帰らせたら仕事が終わらないはずだし…売上に響く。どっちを優先させればいいんだよ!?」と判断に迷っています。最後に部長の反応は、「人事部は勝手なことを言っている。彼らは社長の言うとおりに残業が減れば評価されるのかもしれないが、私は売上で判断されるのだ。『働き方改革』なんて知ったことか!」と納得がいかない様子です。
次に顧客サポート部門の例を見てみましょう。同様に会社がいきなり「働き方改革」といって残業時間の制限を開始したケースです。このとき若手の反応は、「人事部が説明会を開催して『時短は時代の流れ』とか言っていたけど、そうなの?全然クレーム対応の仕事が終わらないのですが、どうしたら良いですか? 課長!」というものでした。続いて課長の反応は、「部下に過剰残業をさせたら、自分の管理能力が無いと判断されるの?でも、早く帰らせたら仕事が終わらないし、、、顧客満足度調査に響くよ。どっちを優先させればいいんだ!?」と、やはり判断に迷っています。そして最後に部長の反応は、「人事部は勝手なことを言っている。彼らは社長の言うとおりに残業が減れば評価されるのかもしれないが、私は顧客満足度で判断されるのだ。『働き方改革』なんて知ったことか!」と、こちらも納得がいかない様子です。