戦略人事の第一人者 八木洋介氏のマインドセット・チェンジ論

基調講演に続き、戦略人事の第一人者としてダイバーシティの重要性を訴えている株式会社people first代表取締役の八木洋介氏と、地方自治体首長として初めて育児休暇を取得した文京区長の成澤廣修氏が登壇。

「Mindset Change – Gender & Age」と題してジェンダー平等やダイバーシティ推進に立ちはだかる「日本のおじさん」をテーマに対談が行われた。モデレーターは、PwCコンサルティング合同会社パートナーの佐々木亮輔氏が務めた。
対談は「今、何が大きく変わろうとしているのか」という質問から始まり、そこから八木氏は、「思いもつかないような変化が起こっているのではなく、本当に正しいことに戻ってきている」という持論を展開した。

「世の中は今、科学の発達に伴い見失ってしまった本質に着目しつつあります。あらゆるものがデジタル化され、簡単にコピーできる今だからこそ、男女・年齢・国籍を問わず多様な価値を体現できる人々が、一緒になって、コピーできない新たな価値を生み出す時代になってきているのです」(八木氏)

続いて、「どのようなマインドセット・チェンジが求められているか」を問われると、企業においては過去にとらわれないことが重要だと強調した。八木氏は、多くの日本企業は継続性を重視して過去の延長線上を歩もうとしているが、世の中は完全にパラダイムシフトしており、昔のままのやり方では勝てないと指摘。もはや国内だけでビジネスが完結したり、何も言わなくても分かり合える「おじさん」だけで組織が成り立ったりする時代は完全に過ぎ去り、企業が勝っていくためには、議論を通じた共通の戦略が必要であると述べた。

「ダイバーシティの時代において、企業内で多様な背景を持つ人々が集まって議論すると、『正しいことが勝つ』というメリットがあります。時代背景や今起こっていることを踏まえたうえで、何が正しいのかを徹底的に主張できる企業や社会に変えていかなければなりません。例えば、共働き世帯が多数であるにも関わらず、いまだに子育ては女性だけに任せておけばいいとされている。そのような過去は捨てて『何が正しいのか』を考えてみれば、やるべきことがはっきりするでしょう」(八木氏)
戦略人事の第一人者、八木氏登壇 ── 第2回HeForSheセミナー「マインドセットは自分で決める」開催
八木氏は、マインドセット・チェンジに伴い、実際の行動を変える必要性を訴えるとともに、自身の家庭でのエピソードを明かした。八木氏と妻は、結婚当初から共働きだったが、家事は当然のように妻にすべて任せていたという。しかし30代になった八木氏が自分を客観視した際、「こんなことをしていては人間としてまずい」と気づき、自身も家事をこなすようになったという。八木氏が行動を変えることができたきっかけは、まさに「何が正しいのか」という観点から考えたことだった。

対談相手の成澤氏も、ジェンダー平等のマインドセット・チェンジに関する自身の経験を振り返った。同氏のマインドセット・チェンジのきっかけは、2週間育児休暇の取得だったが、昨年妻が入院した際にいわゆる「ワンオペ育児」を経験したことで、ジェンダー平等の考え方が、改めて腑に落ちたと言う。

最後に、女性活躍やダイバーシティの推進に消極的な「日本のおじさん」がマインドセット・チェンジするために、改めるべきことを問われ、八木氏は次のように締め括った。

「おじさんは『女は休む』と言います。でも、おじさんの中には仕事中にタバコを吸って休憩する人がいます。1日に10本吸えば合計1時間休み、これが20年続けば合計5年間も休んでいる計算になるわけです。女性が子育てをするのに1〜2年休んで何が悪いのでしょうか。また『女にはできる奴がいない』と言うおじさんもいる。しかし、機会が与えられなければできないのは当然。おまけに『女に下駄を履かせるな』と言うおじさんは“男、年齢”という2足の下駄を履いている。女性にも平等に能力を発揮できるチャンスを作るべきです」(八木氏)

また、会場の女性に向けて、「日本のおじさん」のアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)に気づいたら反論すること、男性に向けては、アンコンシャス・バイアスを外す意識づけをして欲しいと呼びかけた。


ジェンダー平等はなにも女性のためだけに叫ばれているものではない。ますますグローバル化が加速し、国内の労働人口が減少する社会において、ダイバーシティ実現は、企業の成長に欠かせない要素と言えるだろう。多様性を欠く企業は、これからの時代のニーズに合う価値を生み出すことができず、人材獲得競争が過熱する労働市場で魅力的な人材を獲得することも難しくなっていく。手遅れになる前にマインドセット・チェンジに着手し、実際の行動まで落とし込むことが求められている。
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