ストップ人手不足! そのカギは“人事評価”にあり
少子高齢化による労働力人口の減少、成長産業・人気企業への雇用集中、働き方の多様化が呼んだ離職率の上昇……。さまざまな要因が重なって、いま日本は空前の人手不足に陥っている。株式会社マイナビが全国の民間企業などを対象に実施した『マイナビ中途採用状況調査 2019年版』によれば、人材が「余剰している」とした企業19.2%に対し、「不足している」と答えた企業は64.7%と3倍以上に達している。また中小企業庁の『2018年版 中小企業白書』によると、人材の未充足率(未充足者数/常用労働者数×100)は、1,000人以上規模の規模では比較的低い(製造業0.4%、非製造業1.6%)ものの、従業員5~29人規模では製造業で3.2%、非製造業で3.5%。企業規模が小さいほど人材不足は深刻だ。
「このままでは日本から中小企業が消える」と警鐘を鳴らすのが、慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授だ。2018年9月に発表したレポート『人事評価制度を活用した人材確保と賃金向上』で岩本教授は、各種データから人材不足について詳細に分析し、現状のままでは次のようなことが起こると予測する。
●今後、中小企業の大学新卒者採用は10年に1人(実質ゼロ)となる
●後継者難によって中小企業250万社(国内企業の2/3)が倒産・廃業する
事実、東京商工リサーチの調査によると、2018年、人手を確保できず事業を継続できなかった「求人難型」倒産が前年比68.5%増、中核社員の独立・転職などで事業継続に支障が生じた「従業員退職型」が33.3%増、人件費のコストアップから収益が悪化した「人件費高騰型」が73.3%増など、人手不足関連倒産は2013年の調査開始以来最多となる387件に達したという。
こうした状況を打開する方策として前述のレポートが着目するのは“人事評価制度”だ。人事評価制度とは、社員の能力や業績などについて評価、それを昇進や昇給などの処遇に反映させる仕組みのこと。制度の導入・普及により、社員の成長を促すとともに、エンゲージメントの向上による離職防止、社内の活性化、生産性向上などにつながるとし、実際に業績改善などに直結することを示すデータも紹介している。
実際に中小企業は人事評価制度を導入、活用できていない。厚生労働省が2016年に発表した「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業の報告」のデータ「働きぶりを評価し昇給や昇進に反映する仕組」を導入していない企業は100~299人の企業が12.8%、20~99人では20.1%、19人以下にいたっては24.5%にものぼる。さらに、導入済みでありながら「社員への人事評価結果とその理由のフィードバック」をしていない企業は、100~299人が37.6%、20~99人が48.4%、19人以下になると59.2%に跳ね上がる。
これら数値からも「小さな企業には人事評価制度を導入・実行する余裕などない」との声も聴こえてきそうだが、中小企業でこそ人事評価制度は大きなメリットを発揮すると、同レポートは説くのである。