採用企業数の増加により、プレエントリー数減少企業が上回る
リクルートワークス研究所が毎年発表している大卒求人倍率は、企業の採用計画数の増加により、昨年の1.28倍から1.61倍へと大きく上昇した。就職ナビ「マイナビ」「リクナビ」への掲載企業数も1万社を優に超える社数となっている。
そのあおりを受けて、プレエントリー数が前年を下回る企業が35%と、前年よりも増えた企業(23%)を10ポイント以上も上回っている。景気回復により学生の大手志向がこれまで以上に強くなっているが、大手企業でもプレエントリー数が減少した企業の方が多くなっている。BtoC企業とBtoB企業、人気企業と認知度の低い企業、人気業界と不人気業界など、企業の二極化が年々進行しているようである。
[図表1]プレエントリー数の前年比
批判が多い学生に一括プレエントリーを煽る「リクナビ」の姿勢
今年、ある学生のネットでの投稿に端を発して、「リクナビ」の学生に対するプレエントリーを煽るやり方に対して様々な意見が飛び交った。「リクナビ」側としては、狭い視野で就職活動をするのではなく、広く会社を見ることを勧めている趣旨もあるとは思われるが、批判的な声が多いようだ。企業から寄せられた意見を一部紹介しよう。
・プレエントリー学生の質低下を招いており、弊害が多いと思う。
・一括エントリーは学生の興味が伴っていないため、無責任なエントリーとなり意味がないと感じる。
・プレエントリー自体の価値が失われてきており、不毛化と思う。
・対象学部以外のエントリーが増えているので、あまり意味がない。
・おどらされている学生がかわいそうだと思います。
・見かけの数字だけを増やそうとしている感があり、あまりり関心しない。
・一括プレエントリーでたまたま入社し、結局あわず、早期離脱せざるを得ない学生を生産し、転職市場に誘導しようとしているのではないか、と勘ぐりたくなる。
・学生にとっては楽をできるかもしれないが、企業研究もままならない状況で望むのは、雇用のミスマッチの原因になると思います。
ただ一方ではこんな意見も。
・その一括エントリーにつられて、中小へのエントリーも増え、大手と縁の無かった学生へのアプローチには繋がった気がする。
・当社の採用メインの理系学生は文系学生より活動量が少なく、明らかに就活経験の面で劣っているため、ある程度背中を押す意味では理解できる。
・少しでも多くの学生さんに興味を持って頂きたい弊社にとっては、助かります。
プレエントリー数の減少を容認する企業は5割強
(上記のような一括エントリーの仕組みをなくして)「プレエントリー数が減ろうが、本当に興味がある学生からのプレエントリーだけでいい」という企業が過半数を超えた。ただし、「自社(所属する業界)に少しでも興味があればいい」とする声も少なくない。プレエントリーが容易に集まる企業群と、知名度や募集学科の関係から思うように集められない企業群とでは、「母集団形成力」により、意見が分かれるようだ。
メーカー、非メーカー別でみた場合、メーカーの方が「本当に興味ある学生のエントリー」を支持する企業が多い。メーカーでは63%の企業が「本当に興味ある学生のエントリー」を求めるのに対して、非メーカーでは48%と過半数割れしている。
[図表2]プレエントリーのあり方
中小企業では「理想的なプレエントリー数は採用計画の10倍未満」
では、採用計画数に対して、どの程度のプレエントリーがあればいいのだろうか。多すぎれば「落とす作業」に労を割く必要が出てくるが、少なすぎれば選考する余地が狭くなってしまう。全体集計で最も多いのは「10倍未満」の32%、次いで「10~30倍未満」26%、「50~100倍未満」17%となった。中には、1%ながら「500倍以上」という企業がどの企業規模にもある。1名の採用に500名以上のプレエントリー、100名の採用であれば50,000名以上のプレエントリーということになる。果たしてこんなにプレエントリーは必要なものだろうか?
プレエントリーの中身の濃さにもよるだろう。一括エントリーだけで集まったものであれば、果たしてどの程度自社を理解してのものだかわからず、500倍といっても実質的にはその何分の一か、何十分の一の価値しかないだろう。逆に、一切一括エントリーのない、企業を詳しく理解してのものであれば、そんな数はとても必要はなくなるだろう。
[図表3]採用計画に対する理想的なプレエントリー数(全体)
大手では「100倍以上」の企業が4分の1
理想的なプレエントリー数を企業規模別に見てみよう。大企業で最も多かったのは「10~30倍未満」の30%、次いで「50~100倍未満」21%、「100~300倍未満」18%と続く。「100倍以上」とした企業は24%もあり、4社に1社は「100倍以上」と回答したことになる。
規模が小さくなるにつれ、理想的な倍数は減少し、中小企業では実に42%の企業が「10倍未満」を支持し、次いで「10~30倍未満」26%となっている。この2つで7割近くに上り、「100倍以上」とする企業は1割にとどまる。
[図表4]採用計画に対する理想的なプレエントリー数(規模別)
依然として多い郵送エントリーシートタイプ
次に、エントリーシートの導入状況について見てみよう。
Webフォームによるエントリーシートか、郵送型のエントリーシートなのか、はたまたエントリーシートによる事前選考は行われているのかをまとめたのが図表5である。
大企業では8割近くが導入しているエントリーシートだが、中堅企業では7割弱、中小企業では5割程度にとどまる。学生側からすれば、エントリーシートを提出しなくていい会社だけで就職活動を行うことも十分可能な社数だと言える。
さて、データを見てみると、Webエントリーシート型が増えてきたと言われるものの、まだまだ紙の郵送型エントリーシートの方が多いようである。どんな字を書く学生なのかを確認することができること、白地スペースに自由に表現させる設問項目が可能なこと、顔写真を貼らせることができることなどが主な利点である。写真については、Webフォーム型の企業でも画像ファイルをアップロードさせる仕様にしている企業もあるようだが、そこまでITリテラシーを学生に要求していいものかという論議もある。
全体で最も多いのは、「郵送エントリーシート+事前選考なし」のパターンで22%、あとは「郵送エントリーシート+選考あり」「Webエントリーシート+選考あり」「Webエントリーシート+選考なし」がほぼ同程度(13~14%)となっている。
[図表5]エントリーシートの導入状況
エントリーシートによる書類選考での絞り込みは「6~8割未満」が最多
エントリーシートによる書類選考を実施した企業に、結果的に通過(合格)したエントリーシートの割合を聞いたところ、全体では「60~80%未満」が32%で最多、次いで「80~100%未満」「40~60%未満」がともに24%で続く。中には、「10%未満」(2%)、「10~20%未満」という極めて厳しいハードルを設定している企業もあるようだ。1次面接を実施できる人数は、面接官の人数や会場、日程などの要因により、必然的に上限が決まってくるものであるから、エントリーシート数が多ければ、ここで一気に絞り込みをせざるを得ないということなのだろう。前年のエントリーシートの合格率などの情報も企業側が開示するようにすれば、生半可な志望度の学生からのエントリーは自然に減らすことができるのではないだろうか。落とす側にしても落とされる側にしても、無駄な労力をかけなくて済むやり方を模索していくべきだと考える。
[図表6]エントリーシトーの通過(合格)率
プレエントリー同様、エントリーシートも前年比で減少企業が多い
エントリーシートの受付数を前年比較してもらったところ、4割は「前年並み」、「減少」31%、「増加」16%と、「減少」した企業が「増加」した企業を大きく上回る結果になった。プレエントリー数での傾向値が、エントリーシートでもほぼそのまま反映したと言える。大手企業においても「減少」した企業の方が多くなっている。
[図表7]エントリーシート数の前年比
意見が真っ二つに分かれるリクナビ「OpenES」
今年、「リクナビ」が始めた新しい試みがエントリーシートの共通化「OpenES」です。協賛する企業のエントリーシート(ES)の基本部分を各社共通とし、各社ごとのオリジナル設問は数点に制限することで、学生のエントリーシートにかかる負担を低減しようというもの。
これに対する企業の意見は、「(どちらかと言うと)趣旨に残同する」51%、「(どちらかと言うと)趣旨に賛同できない」49%と真っ二つに分かれた。
[図表8]「OpenES」への賛否
「OpenES」への賛否の理由は以下の通りだ。
【賛同する】
・学生の負荷が本当に軽減するという前提で賛同する。
・企業も学生も本来の趣旨に注力できると考えるため。
・共通化についての問題点が今のところないから。
・同一フォーマットで視点が統一できる為。
・自分が就活をしていた頃を振り返ると、大きな負担となっていたため。
・学生にヒアリングしたところ、好評の意見が多く、また、弊社としても管理や書類準備が容易になった。
・合理的と思います。
・中小企業にとっては、応募する学生が増える効果が期待できるため。
【賛同できない】
・使ってみたら、使い勝手が悪かった。
・自分の会社にどういった人材が必要なのか、考えることを放棄している行為。
・共通化してしまったら、意味をなさない。
・学生がエントリー社数を増やすことが容易になり、ますます志望度の低い学生が集まる傾向になる。
・OpenESについても、簡易化による時短化は学生にとって良いと思うが、大量応募を加速させるものであり、企業・学生双方にとってマイナス面が大きいのではないか。
・学生が簡単にエントリーできるようになり、企業研究を怠るかと心配。
【調査概要】
調査主体:HR総研(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2014年4月21日~4月30日
有効回答:396社(1001名以上 71社, 301~1000名 131社, 300名以下 194社)
- 1