2019年4月から、「時間外労働の上限規制」や「年休取得の義務化」など、「働き方改革関連法」が具体的にスタートする。HR総研の調査によると、労働時間の短縮と、年次有給休暇の取得推進に取り組む企業は、それぞれ8割に上ることが明らかとなった。
では、各企業は具体的にどのような施策を行い、何がうまく機能しているのだろう。そこで生じる課題も含め、現場の「生の声」を交えながらレポートしたい。
●「所定労働時間」(月平均)は、151~160時間(32%)が最多
「働き方改革関連法」により、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、「労働時間の上限規制」が施行される。1日8時間労働で換算すると、おおむね月160時間が上限労働時間の分水嶺と言えるだろう。
今回の調査では、まず「従業員1人あたりの1ヶ月平均の所定労働時間」について質問した。その結果、所定労働時間が160時間以下の企業は、全体で58%を占め、昨年調査よりも10ポイント増加した。
最も多かったのは151~160時間(32%)で、2位は161~170時間(30%)だった。171時間以上と回答した企業は全体で11%だが、従業員数1000名以上の大企業では、まだ19%も存在することは注目に値する。
【図表1】「所定労働時間」(月平均)
●「実労働時間」(月平均)は、171~180時間が最多(26%)
続いて、1ヶ月の「実労働時間」について質問した。全体のトップは、171~180時間(26%)、2位は161~170時間(23%)、3位は181~190時間(19%)である。所定労働時間(月平均)の最多は151~160時間なので、月平均の残業時間は20時間程度が多いようだ。
従業員数301~1000名の中堅企業では、181~190時間(26%)の割合が他の企業規模よりも多く、長時間労働の傾向がやや強いことが分かる。
【図表2】「実労働時間」(1ヶ月平均)
●「労働時間短縮」に取り組む企業は8割
「労働時間短縮」の取り組みは、全体で79%の企業が「ある」と回答した。企業規模別で見てみると、大企業では88%、中堅企業では81%、従業員数300名以下の中小企業では、71%が「ある」と回答している。従業員規模が小さくなるほど、取り組みの割合も減少していることから、人的リソースの不足が労働時間短縮の足かせになっている可能性も窺える。
【図表3】労働時間短縮のための取り組みがあるか?
●労働時間短縮のための施策は「残業の事前届出制、許可制」がトップ
労働時間短縮のための制度・施策は「残業の事前届出制、許可制」(54%)が最も多く、「ノー残業デーの設定」(52%)が僅差で2位となっている。
3位以下の序列は、「フレックス・スライド出勤制度」(37%)、「管理職の意識改革」(30%)、「深夜残業の禁止」(29%)など、昨年調査とほぼ変わらない。労働時間の短縮は自社だけで成立するものではなく、顧客や関係各社との調整も必要だ。その意味で、「取引先との契約関係の見直し」に取り組む企業もあるが、割合としてはわずか2%にとどまっている。「システムの保守は、客先の都合に多分に左右され、当社側の意向だけでは進みません。極力客先にご理解をお願いしていますが、難しい状況です。」(300名以下/情報・通信)というフリーコメントが寄せられるなど、なかなかハードルは高いようだ。
【図表4】労働時間短縮のための制度・施策
●うまくいっている施策は「ノー残業デーの設定」が最も多い
前問で様々な施策を実施している企業に、うまくいっている施策を質問したところ、「ノー残業デーの設定」(34%)が1位を占めた。2位は「フレックス・スライド出勤制度」(26%)、3位は「残業の事前届出制・許可制」(23%)である。これらは、実施している施策としてもトップ3を占めており、効果の実感も高いようだ。
一方で、「うまくいっている取り組みはない」と回答した企業が15%も存在している。「残業」は、「仕事が終わらない」という切実な問題が解決しない限り、いつまでも存在し続ける。適正な人員を配置し、社員の労働効率を高め、一人ひとりの意識改革をするなど、会社全体を巻き込みながら、各社に合った解決策を見出して欲しい。
【図表5】実施している取り組みのうち、うまくいっているもの
労働時間の短縮によって、新たに生じた課題もあるようだ。フリーコメントからいくつか抜粋してご紹介する。
・残業代が発生しない管理職の負荷が増えた(1001名以上/サービス)
・残業ありきの給与を期待していた社員からの反発(1001名以上/サービス)
・業務量に対する人員不足感(1001名以上/メーカー)
・社内での教育機会減少によって(特に若手)社員の育成体系を改める必要がある(1001名以上/メーカー)
・時間短縮ができる環境の社員とできない環境の社員との間の不公平感(1001名以上/商社・流通)
・残業時間の増減とパフォーマンス向上との関係は改善されておらず、残業時間のいたずらな短縮はパフォーマンス低下にむすびつくとの観測結果が得られている(301~1000名/サービス)
・業務の偏りによる部署間の不公平感(301~1000名/メーカー)
・事務職で家に仕事を持って帰るケースもある(300名以下/メーカー)
・業務の放棄が散見されるようになったように感じる(300名以下/運輸・不動産・エネルギー)
・社内で他部門との交流的な「ゆとり」がなくなった気がする(300名以下/マスコミ・コンサル)
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【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】働き方改革実施状況に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2019年2月8日~2月15日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び未上場企業の人事ご担当者様・働き方改革ご担当者様
有効回答:218件
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