労働時間短縮のため、何らかの取り組みを行っている企業は8割だった。また、各企業の所定労働時間の月平均は、161~170時間(36%)が最多であり、実労働時間の月平均は、171~180時間(31%)が最多であることも判明した。
各企業は具体的にどのような施策を行い、その効果はどうだったのか。そこから新たに生じた課題は何なのか。現場の「生の声」に迫ってみたい。
●「所定労働時間」(月平均)は、161~170時間(36%)が最多
今回の「働き方改革」実施状況調査によると、85%の企業が「長時間労働の是正」を第一の目的に掲げ、83%の企業がその効果を実感していた。実際の労働時間はどうなのだろう。
まずは「所定労働時間(月平均)」について質問した。
土日祝日を休日とした場合、2017年度の就業日数は247日である。1日あたりの法定労働時間(8時間)で計算すると、1か月の所定労働時間は164.6時間となる。
それに対して、所定労働時間が160時間以下の企業は、全体で48%を占めた。つまり、約半数の企業で、土日祝日以外の休暇や、1日8時間未満の労働時間を設定していることが分かる。
最も多かったのは161~170時間(36%)で、2位は151~160時間(28%)だった。171時間以上と回答した企業は全体で15%だが、従業員数301~1000名の中堅企業では23%とやや多い。
【図表1】「所定労働時間」(月平均)
●「実労働時間」(月平均)は、171~180時間が最多(31%)
続いて、1か月の「実労働時間」である。全体では171~180時間(31%)が最多であった。2位は181~190時間(19%)、3位は161~170時間(18%)である。所定労働時間(月平均)の最多は161~170時間だったので、月平均の残業時間も10~20時間程度が多いものと思われる。
従業員数301~1000名の中堅企業では、201時間以上の割合が15%を占めるなど、長時間労働の傾向が強いことが分かる。
【図表2】「実労働時間」(1か月平均)
●8割の企業が「労働時間短縮のための取り組み」を実施
「労働時間短縮のための取り組みがありますか?」と質問したところ、全体で79%の企業が「ある」と回答した。しかし企業規模別では、規模が小さくなるにつれて、「ある」と回答する割合も小さくなっている。もともと所定労働時間が短い企業の割合が他の規模の企業よりも多いこともあるが、業務量とのバランスを考えると労働時間短縮に踏み切れないと考える経営者も少なくないのではないだろうか。
【図表3】労働時間短縮のための取り組みがあるか?
●最も多い取り組みは「ノー残業デーの設定」(61%)
労働時間短縮のため、具体的にどのような取り組みをしているのだろう。
最も多い取り組みは「ノー残業デーの設定」(61%)だった。続いて、「残業の事前届出制、許可制」(57%)、「フレックス・スライド出勤制度」(33%)、「管理職の意識変革」(30%)が上位を占めた。
一方で、「勤務間インターバル制度」(3%)を実施している企業は少ない。この制度は2017年度から厚生労働省の「職場意識改善助成金」対象施策となったが、まだ充分に浸透していないようだ。
他にも、「業務繁閑に対応した営業時間の設定」(4%)や「取引先との契約関係の見直し(スケジュール、発注方法など)」(2%)などの実施率も低い。社外まで巻き込んだ抜本的な改革の実行は、やはりハードルが高いことが分かる。
「その他」(2%)の具体的な取り組みとしては、「残業の多い社員が発生した場合、上司と本人が話し合い、改善書または再発防止策を上層部に提出する」という回答が複数見られた。
【図表4】労働時間短縮のための制度・施策
●うまくいっている施策は「フレックス・スライド出勤制度」(69%)がトップ
続いて、実施している取り組みのうち、うまくいっているものについて質問したところ、実施企業に占める割合では「フレックス・スライド出勤制度」(69%)がトップとなった。2位は「ICTによる業務削減」(67%)、3位は「深夜残業の禁止(指定時前退社制度など)」(65%)である。
実行施策でトップだった「ノー残業デーの設定」は60%が効果を実感している。一方で、施策の第4位に上がっていた「管理職の意識変革」は、24%しか効果の実感がなかった。「従業員の能力開発」も26%と低い数値である。人材の意識変革や能力開発は、一朝一夕に効果が期待できるものではないが、「労働生産性向上」のための「長時間労働是正」であれば、今後も継続して取り組むべき課題と言えるだろう。
【図表5】実施している取り組みのうち、うまくいっているもの
最後に、これらの取り組みによって労働時間が短縮した結果、新たにどのような課題が生じたか聞いてみた。
「残業代減少に伴う収入減少に対する不満」、「サービス残業の増加」、「業務水準の低下」、「業務分担の非均衡」、「コミュニケーションの減少」、「労働意欲が高い社員のモチベーション低下」など、現場の悲鳴が聞こえてくるようだ。
今後改革を進める上での参考として欲しい。
<大企業(従業員数1001名以上)>
・手取り賃金の減少による従業員不満の増大。(サービス)
・時間短縮ができてきた職種、なかなかできない職種等バラつきが出てきている。(メーカー)
・時間のみ管理されており業務の見直しが出来ておらず、逆に高負荷を強いられる場合が散見されるようになった。(メーカー)
・負荷オーバーによる現場の不満。業務の積み残し。(メーカー)
・根本的な「働き方改革」のあり方の議論ではなく、表層的な労働時間短縮施策に陥っている。(メーカー)
・「いま集中して多めに働きたい」という者の意欲を削ぐ。(メーカー)
・各々が集中するのは良いが、息抜きができなくなった。会話が減ったように思える。(メーカー)
・実践スキル、知識の自己学習が職場で出来なくなった。(サービス)
・労働時間の虚偽報告のリスクがある。(サービス)
・自宅でのリモート勤務が深夜に及んでいる可能性も見えてきた。(商社・流通)
・企画業務の消滅。(メーカー)
<中堅企業(従業員数301~1000名)>
・収入減少を理由とした離職。(サービス)
・賃金(時間外手当)の減少。(メーカー)
・仕事が終わらず休日出勤(無給)。(サービス)
・リカバリーするために管理職の残業が増えている。(サービス)
・水面下ではサービス残業が発生している可能性が高い。(情報・通信)
・自発的・多発的な打刻時間の調整や、こっそり休日出勤をする者が増えた点。かつ、それを黙認しがちな点。(商社・流通)
・残業=悪であると考える社員が現れ、作業量が増えること、難しい仕事を任せられることに抵抗を示す。そのため、能力の高い社員にしわ寄せが及び、今後の仕事の振り分け方の検討が必要になった。(情報・通信)
・効率的に仕事できる社員とそうでない社員の差が拡大。(サービス)
・仕事の進捗が遅れ、顧客へのサービス低下となっている。(サービス)
・時間は短縮されたが中身が伴わない。(運輸・不動産・エネルギー)
・ビジネスモデルや商習慣による制約。(情報・通信)
・出勤時間の差異が出るため、朝礼のあり方などコミュニケーションの方法が課題。(サービス)
<中小企業(従業員数300名以下)>
・残業代削減に関し不平・不満が出ている。将来的には基本給のアップ、削減分を従業員に還元する等、対策を講じなければならないと考えている。(運輸・不動産・エネルギー)
・サービス残業が増えている。(情報・通信)
・業務が終了しなかった場合、家に持ち帰ったり、休日にやったりしている社員がいる点。(情報・通信)
・休日に勝手に出勤して、資料作りなどをしていること。(金融)
・人員不足。(メーカー)
・お客様の納期に間に合わない、不良品発生率の上昇、作り貯め置きの増加。(メーカー)
・残業減少に伴って業務進捗の遅れの対応が管理職に回ってしまう。(メーカー)
・全体としては短縮されたが、管理職や一部の高スキル者に集中してしまっている。(情報・通信)
・形式的に労働時間短縮を実施した部署では、業務整理が追いついておらず、ただ目先の仕事を先送りしているだけで根本的な業務改革が進んでいない。(メーカー)
・若年層のやる気の低下。(情報・通信)
・労働意欲の高い社員のエネルギーの持って行く先。(サービス)
・自主改善ではどうしようもない業務に対して、会社としてどう指針を出していくか。(メーカー)
【調査概要】
アンケート名称:【HR総研】働き方改革実施状況に関する調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2018年1月19日~1月25日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:上場及び非上場企業の人事担当者・働き方改革担当者
有効回答:266件
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