安倍内閣では2016年6月に「ニッポン一億総活躍プラン」が閣議決定され、1年をかけて「働き方改革」が推進されてきた。
HR総研では、その実態がどうなってきているのかについて、本年5月に「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」を行い、212件の回答を得た。多様な働き方に関しては、「時間外労働の削減」に取り組んでいる企業は86%、「有給休暇取得推進」を行っている企業は58%となった。
2016年10月に実施したHR総研調査では、労働時間の短縮に取り組んでいる企業は57%だったので29ポイント増加しており、この半年間で、長時間労働や時間労働の削減に取り組み始めた企業が増えていることがわかる。
今回は、「時間外労働の削減」について、平均残業時間、時間外労働が発生する理由、効果があった施策などについて、具体的な調査結果ご報告する。

多いのは「時間外労働の削減」(86%)と「有給休暇取得推進」(58%)

「多様な働き方」に関する施策として「時間外労働の削減」「有給休暇取得推進」「テレワーク」「兼業・副業の推奨・容認」を挙げ、取り組んでいる施策を選んでもらった。結果は「時間外労働の削減」(86%)→「有給休暇取得推進」(58%)→「テレワーク」(17%)→「兼業・副業の推奨・容認」(4%)であり、とくに「時間外労働の削減」はほとんどの企業が、「有給休暇取得推進」には過半数の企業が取り組んでいる。ふたつとも既存の制度であり、残業の削減や有給の取得奨励はやりやすいからだろう。
 「テレワーク」と「兼業・副業の推奨・容認」は少ないが、新しい制度や考え方なので、取り組みが少ないのはやむを得ないだろう。またどの施策でも大手が積極的に取り組んでいる様子が見られる。

[図表1]「多様な働き方」に関する取り組み施策(規模別)

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

1か月の時間外労働時間は「~40時間」が89%

平均時間外労働時間について聞いた。
1か月平均時間外労働(残業)時間が「0時間」は1%(1社)しかない。「1~20時間」が42%、「21~40時間」は46%。ここまでを総計すると「40時間以下」が89%である。
そして「41~60時間」が10%で、「60時間以下」が99%なのだ。残りの1%(2社)は「61~80時間」である。過労死ラインは80時間とされるが、会社全体での平均ということでは、今回の調査では無かった。
なお時間外労働時間については業種や規模の差はあまりない。

[図表2]従業員(正社員)の1か月平均時間外労働(残業)時間

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

時間外労働は「取引先からの納期要望に応えるため」が56%で最多

時間外労働が発生する理由を見ると、全体では「取引先からの納期要望に応えるため」(56%)、「常に業務量が多いため」(54%)、「人員が不足しているため」(53%)の3つが50%を超えている。4位の「時季的な業務がある、業務の繁閑が激しい」(46%)も多い。要は、業務量とそれをこなす人員のバランスが取れていないわけだ。その他にいろんな理由があるが、規模による差はあまりない。

しかし一方で、「業務フローが整理されていない、仕事にムダがある」「管理職のマネジメント力不足のため」といった理由が26%あり、改善や管理職のスキル向上により解決することもできそうだ。

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

取り組み目的は「従業員の健康維持・向上」(83%)と「業務の生産性向上」(63%)

時間外労働削減には、全体の86%が取り組んでいる。
取り組む目的としては、もっとも多いのは「従業員の健康維持・向上」で全体の83%に達している。長時間労働により健康を害することが、統計的に明らかになってきたことや、過労死の問題などが広く認識されてきた結果だろう。

「業務の生産性向上」(63%)も多く、だらだら仕事をするのではなく、時間あたりの生産性を向上させて残業を削減したい考えだと思われる。
3位は「従業員の満足度向上」(43%)であり、長時間労働を削減することで従業員の意欲を高めたい考えだ。4位は「残業代の削減」(40%)であり、これ自体を目的としている企業は半数以下だということが判明した。
以下に「離職防止」(29%)、「社会的要請に応えるため」(28%)、「採用ブランディング」(13%)が続いている。

[図表4]時間外労働(残業)削減に取り組む目的

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

時間外労働削減施策で最も多いのは「残業の事前届出制、許可制」(63%)

時間外労働を削減するための施策でもっとも多いのは「残業の事前届出制、許可制」(63%)、2位は「ノー残業デー」(51%)だ。3位「業務プロセスの見直し」(49%)で、業務そのものを見直す動きも約半数の企業で見られた。
4位は「フレックスタイム制度」(37%)、5位「長時間労働者への個別指導」(31%)、6位「管理職への教育」(28%)である。

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

効果のある時間外労働削減策の1位は「残業の事前届出制、許可制」

さまざまな時間外労働削減施策があるが、効果のあった施策は何だろうか。1位は「残業の事前届出制、許可制」(40%)、2位「ノー残業デー」(35%)、3位「業務プロセスの見直し」(24%)、4位「長時間労働者への個別指導」(21%)、5位「フレックスタイム制度」(19%)、6位「管理職への教育」(15%)、7位「長時間職場の社内公表」(10%)だった。ただこの数字は全体を総計した数字であり、企業規模別で見ると「1001名以上」では「ノー残業デー」(54%)がもっとも高く、「フレックスタイム制度」(33%)もかなり高い。

HR総研:働き方改革「多様な働き方とダイバーシティに関するアンケート調査」vol.1

コメント1:1か月100時間などの一律規制は納得がいかない

ほとんどの企業が取り組む時間外労働削減だが、なかなか削減ができないようだ。フリーコメントを求めたところ多数の寄稿があった。少し多めに紹介しよう。まず長時間労働削減に対する疑問の声を聞いてみよう。
「年々労働基準監督署の要求が厳しく、なおかつ人員不足で、新規物件を断っている状態である。募集をかけてもなかなか人が集まらず、入ってきてもトラブルメーカーだったりする。政府の政策は、日本の事業推進にはたしてよいのか、はなはだ疑問でもある。高度経済成長は、長時間労働によって成り立ったが、今後成長は鈍化していくのではないかと懸念している」(サービス、1,001名以上)
「人員減の中で、残業は既に業務設計に組み込まれている現状を打破するのは難しい」(メーカー、1,001名以上)
「平均残業時間は少ないが、個別の問題として、納期要望・費用抑制・トラブル対応など効率化以前の問題で瞬間的や一定期間過重労働となる場合があり、1か月100時間などの一律規制は納得がいかない」(情報・通信、300名以下)

コメント2:評価の難しさが時間外労働の削減を妨げている

デスクワークに対する評価の難しさも削減を妨げている一因のようだ。
「特にホワイトカラーについては、業務効率、生産性を計ることが困難で、業務量に対して適正な労働時間であるかの判断がつきにくく、削減の目標が設定しづらい」(メーカー、1,001名以上)
「時間の量で仕事の成果を測っている風土を変えるのは、かなり難しいと感じている」(メーカー、1,001名以上)

コメント3:時間外労働削減の取り組み自体が無用の業務を増やしている

時間外労働削減の取り組み自体が無用の業務を増やしてしまうというジレンマもある。
「マニュアル作成や業務標準化を行うこと自体に労力がかかり、抵抗・難色を示す職場が多い」(メーカー、1,001名以上)、
「時間外削減ありきの対策(例 一斉消灯・ノー残業デー)は未処理作業の発生や職員モティベーションの低下を招くので効果が薄いと考える。作業内容の見直しと効率化の推進が根拠ある生産性向上となり、結果的に時間外が削減される対策の手順がよいのではないかと考える」(サービス、301~1,000名)

コメント4:残業手当を頼りにしている従業員もいる

時間外労働による残業手当を頼りにしている従業員もいる。子どもがいて教育費が必要な場合、残業代が減ることはかなり大きなダメージである。
「定期昇給が必ずしも望めない中、残業代を生活給として考えていることも中にはあるため、扱いが難しい問題ではあると思う」(メーカー、300名以下)
「小売業の当社ですが、平均残業時間は他社に比べると少ないです。しかし微々たる残業代でも、生活費としてアテにしている社員が居ることから、なかなかゼロにはもっていけていない現状です」(メーカー、300名以下)

コメント5:トップが本気にならないと効果は出ない

本気で取り組むなら、トップの意識を変える必要があると考える人事はとても多いようだ。
「最近の新卒者は特に残業を好まない傾向にあるため、少しでも残業のない企業を目指すべきである。電通なども表面上は残業が少ないように見えていたが、やはりブラック企業であったことから、人事担当者だけでなく、トップの考えを変える必要がある」(情報・通信、300名以下)
「トップの本気度が重要。長時間労働者を評価する風土から改善する事が大切」(商社・流通、300名以下)
「どんな施策をするにしても、社長をはじめとする経営層(発言力があるリーダー)が積極的に動かない限りは効果はない」(メーカー、301~1,000名)
「どんな施策をするにしても、社長をはじめとする経営層(発言力があるリーダー)が積極的に動かない限りは効果はない」(メーカー、301~1,000名)
「半数以上が早く帰るのが当たり前という働き方になったら、おのずと残りは早く帰るようになる。明確に経営側から、早く帰って欲しい、それは健康が大切だから、仕事を継続するために、という話を定期的にする必要がある」(サービス、300名以下)

長時間労働の是正は、日本全体の文化・風土を変えていくのだから、容易いことではない。しかし人事の皆様の真剣な取り組みがあれば、きっと日本の働き方は変えられるはずだ。トップダウンも重要だし、そのトップを動かすのも人事の仕事。人事の皆様の力があれば、少しずつでも変化を起こしていけると信じている。

【調査概要】

調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2017年5月10日~5月17日
有効回答:212件(1,001名以上:25%、301~1,000名:26%、300名以下:48%)

※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照をいただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
1)出典の明記:「ProFuture株式会社/HR総研」
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