HR総研では、「人事の課題とキャリアに関する調査」を2017年4月5日~4月18日に実施した。この調査の特徴は、人事課題を俯瞰するために、「採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ」という人的資源管理の軸と、「組織・制度・仕組み・システム」という組織管理の軸という2つ軸を設け、それぞれの「現状」と「将来(3~5年後)」を問うていることである。

変わらない課題トップ3

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「現状の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での課題」では、全体の最多は「次世代リーダー育成」(62%)、「新卒採用」(56%)、次いで「中途採用」で54%。過半数の企業が選択した課題は、この3つの課題のみである。順位は毎年少し変わるが、2015年調査、2016年調査でもこの3課題がトップ3である。また「現状の課題として選択した中での最重要課題」を択一式で聞いた結果も3課題がトップ3となっている。
ただし、関心の強さは規模によってかなり違っている。「次世代リーダー育成」への関心は規模が大きいほど高く、「1001名以上」では77%に達しているが、「301名~1000名」では52%、「300名以下」では62%だ。「新卒採用」は「1001名以上」で54%、「300名以下」で53%だが、「301名~1000名」では61%と高い。
「中途採用」への関心は規模が小さいほど高く、「300名以下」では59%もあるが、「301名~1000名」では52%、「1001名以上」では43%にとどまっている。

【図表1】現状の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での課題

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

フリーコメントを読むと、目立つのは「採用難」と「人材育成」の悩みだ。中堅・中小が切実な「採用難」を訴えている。
●新規学卒採用予定人数の確保が困難(メーカー、301~1000名)
●優秀な大卒は大手企業に流れてしまい、中小企業では採用が困難(情報・通信、301~1000名)
●当社が営業展開している道北における少子高齢化・過疎化の進行と道北以外への進学・就職に伴う人口流出の影響で、採用母体自体が縮小しており、新卒採用・中途採用に苦慮しております(商社・流通、301~1000名)
●ニッチな業界のため認知度が低く、母集団形成が難しい。中小企業で志望度が低く、歩留まりが悪い(サービス、300名以下)
●医療業界は人材の流動性が高く、優秀な人災の確保が難しいと実感しています(サービス、300名以下)
●空前の売り手市場の中で、地方中小はコストをかけても必要人材の採用が難しい(メーカー、300名以下)
●売り手市場が続く中、小規模なICT企業で優秀なSE人材を確保することが、とても難しくなっているため(情報・通信、300名以下)
●学生の売り手市場となっている現状では、中小企業を選ぶ学生が少ない。いたとしても、学生の質は過去のレベルより落ちている。とくに男子学生の質が年々落ちている。トップ層のさらに上澄みを採用している大手企業と違い、中小企業は平均層の中から可能な限り上位層を採用するしかないが、その層への接触自体が売手市場のため難しくなっている(マスコミ・コンサル、300名以下)

【図表2】現状の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での最重要課題

現状と3~5年後の人事課題は同じ傾向

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後3~5年の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での課題」について聞いてみたところ、「次世代リーダー育成」(57%)、「新卒採用」(44%)、「中途採用」(40%)の3つが「現状の人事課題」と同じくトップ3を占めた。次いで、「マネジメントスキル向上」(36%)も多く、内容としては「リーダー育成」に近い。
2016年調査では「次世代リーダー育成」(47%)、「新卒採用」(42%)、「中途採用」(35%)であり、「次世代リーダー育成」の伸び方が著しい。
現状の人事課題では規模別で関心の高さが異なっていたが、今後3~5年でも同じ結果が得られた。「1001名以上」は「次世代リーダー育成」、「301名~1000名」は「新卒採用」、「300名以下」は「中途採用」への関心が高い。

【図表3】今後3~5年の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での課題

3~5年後の最重要課題は「次世代リーダー育成」が急伸

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後3~5年の人事の最重要課題」をひとつだけ選んでもらったところ、「次世代リーダー育成」が現在の20%から29%に伸び、「中途採用」は現在の14%から7%へと半減している。「新卒採用」や「次世代リーダー育成」は戦略課題だが、「中途採用」は戦略補充の意味合いが強いために低い数字になっているものと思われる。「新卒採用」は現在とほぼ同じ16%となっている。

「女性活用・登用」(5%)、「中高年活用・再生」(4%)の数字は低いが、フリーコメントでは目立っており、切実な問題意識を抱えているようだ。
●現状は、65歳までの再雇用だが、今後3~5年で定年65歳再雇用70歳を検討すべき時期に来ている(メーカー、1001名以上)
●大量採用時代の高齢者の退職による責任者の退職への対応(メーカー、1001名以上)
●大量定年退職後にマネジメントができるか否か。縮小していく国内市場に対応するグローバル市場で活躍できる人財が増えているか(メーカー、1001名以上)
●今後数年で定年退職者(嘱託再雇用者)が大幅増の見込み。原則フルタイムで正社員時代とほぼ変わらない業務を継続してもらう。しかし、給料は下がる。モチベーションをどのように維持してもらうかが課題(運輸・不動産・エネルギー、301~1000名)
●確実に人材不足となる中で、経験のある高年齢者などをどう活用していくか。高年齢者も、収入のためだけではなく、世の中のシステムを維持するためにも、役割を担って社会を支えていただかなくてはならない。人生90年時代、定年後30年近くの人生をどう生きるか(サービス、300名以下)

女性活用を課題とする企業はメーカーが多い。
●女性活躍、障害者雇用、グローバル化を含めて、広い概念をダイバーシティと認識。それらにしっかりと対応しつつ、どのように戦力化していくのかが課題(メーカー、1001名以上)
●人材活用の観点から女性活躍推進が必要な状況だが、現時点ではまだ効果が十分ではなく、今後効果を抽出できるように短期的でなく、時間がかかっても本質的な対応が必要になる(メーカー、1001名以上)
●女性の管理職登用が進まない(メーカー、301~1000名)
●採用が難しくなっている中で、いかに女性活用・登用を進めるかが重要になるかと考えております(メーカー、300名以下)

【図表4】今後3~5年の[採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ]面での最重要課題

組織管理での最多課題は「従業員のモチベーション維持・向上」

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「現状の[組織・制度・仕組み・システム]面での課題」を聞いたところ、半数以上の企業が選択した課題はひとつもなく、分散していることが特徴だ。
そのよう中でも最多の回答は、「従業員のモチベーション維持・向上」の43%で、昨年調査の数字でも43ポイントで最重要課題だった。2位は41%で、「評価の定着、評価者スキルの向上」と「教育体系・能力開発の導入・改定」が同率。4位は36%で「人事制度の改定」と「長時間労働への対応」が並び、昨年とほぼ同じ課題である。

企業規模別に見てみると、「人事制度の改定」のようにどの企業規模でも高い関心を持つものもあるが、多くの課題で違いが目立つ。「タレントマネジメント」は「1001名以上」で31%だが、「301名~1000名」は22%、「300名以下」は15%だ。
「長時間労働への対応」の対応は「301名~1000名」では50%と高いが、大手や中小では3割程度だ。「メンタルヘルス」に対しても中堅企業の関心は高い。

【図表5】現状の[組織・制度・仕組み・システム]面での課題

最重要課題は「長時間労働への対応」

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

最重要課題を択一で回答してもらった結果では、1位は「長時間労働への対応」(16%)「人事制度の改定」と「従業員のモチベーション維持・向上」が同率の13%だった。
ただし、企業規模によって関心の高さは異なる。「長時間労働への対応」は大手で18%、中堅で25%と高いが、中小では10%と低い。「人事制度の改定」は中堅企業で19%に達しているのに対して、中小企業ではわずか9%にとどまっている。
「従業員のモチベーション維持・向上」は、大企業12%、中堅企業11%、中小企業14%と、企業規模の違いは小さい。

フリーコメントでは「あるべき姿」と「現実」の乖離が書かれており、「働き方改革」など社会の動きを意識するコメントが目立つ。
●働き方改革・多様性尊重・グローバル化対応など、組織・人材が直面する課題は増えつつある。それらを総合的に俯瞰して対応していくことが求められている(メーカー、1001名以上)
●現実問題として存在し、社会問題にもなっているので喫緊の課題となっている。しかしそれゆえに、他の課題へ手がまわっていない、というのもまた課題である(メーカー、1001名以上)
●働き方改革の推進(メーカー、1001名以上)
●職場環境の問題やコンプラ遵守、或いは評価者スキル、教育体系などとも関連する複合的な課題というなかで、一つの現象として目に見えて来ているのが、働く皆さんの活力の問題です。どう業績向上のため、自分の成長のため、お客様のためなど何かしらの個人個人のトリガーとなりうることに寄り添いながら、働くことへの活力を作り出す上司の力をどのように醸成していくかが大きな課題と言えます(商社・流通、1001名以上)

【図表6】現状の[組織・制度・仕組み・システム]面での最重要課題

3~5年後の課題も「従業員のモチベーション維持・向上」

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後3~5年の人事課題」について聞いてみたところ、「従業員のモチベーション維持・向上」が39%でトップとなった。「従業員のモチベーション維持・向上」は現状の課題でも43%でトップだった。続いて「人事制度の改定」と「教育体系・能力開発の導入・改定」(31%)が同率2位である。
3位以下は、「組織開発・組織風土改革」(30%)、「長時間労働への対応」(28%)、「評価の定着、評価者スキルの向上」(27%)、「メンタルヘルス(メンタル面)」(25%)、「タレントマネジメント」(22%)の課題が並んでいる。
トップの「従業員のモチベーション維持・向上」と2位以下の課題には10ポイント以上の差があり、「モチベーション」は人事の本質的課題と言える。

【図表7】今後3~5年の[組織・制度・仕組み・システム]面での課題

3~5年後の最重要課題では「組織開発・組織風土改革」が躍進

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後3~5年の人事課題」について最重要課題を択一式で選択してもらったところ、トップは「長時間労働への対応」(15%)となった。2016年調査では1位は「人事制度の改革」(13%)、2位には「組織開発・組織風土改革」と「従業員のモチベーション維持・向上」がともに12%で並んでいた。今年は「長時間労働への対応」→「タレントマネジメント」(14%)→「人事制度の改定」(12%)・「従業員のモチベーション維持・向上」(12%)と順位が大幅に変わった。「長時間労働」への関心が急上昇した背景には、働き方改革と電通過労死事件がある。

コメントを読むと「働き方」「残業」という言葉が目立つ。
●働き方改革・多様性尊重・グローバル化対応など、組織・人材が直面する課題を中長期的な視点でビジョンを描くこと(メーカー、1001名以上)
●働き方改革、同一労働同一賃金、女性活躍、無期雇用化、等々この先も多くの法改正等があると思われ、現在とは大きく変わることが予想される。後手の対応にならないよう対応していく必要がある(サービス、301~1000名)
●下期偏重型の事業構造のため長時間労働の改善施策が必要(サービス、301~1000名)
●自動車運転者の特例扱いが縮小廃止されるので、それに見合った時間管理が必要(運輸・不動産・エネルギー、301~1000名)
●働き方改革も同時に進めていく中で、風土改革は必要だと感じるから(メーカー、300名以下)
●世間一般的に「働き方改革」といった言葉が頻繁に使われる中で、自社はどうなのだろうと考える社員も増えていくと思われ、社員の定着性を考えても課題としてとらえている(メーカー、300名以下)
●一部の優秀な従業員が残業がかさみすぎる点(メーカー、300名以下)
●将来法制化される時間外規制に係る、法対応における対応を検討中(メーカー、300名以下)
●在宅勤務(テレワーク)やインターバル制度など、多様な働き方が出来るように制度面・システム面でも整備しないと、生産性向上がままなくなると考える(マスコミ・コンサル、300名以下)

【図表8】今後3~5年の[組織・制度・仕組み・システム]面での最重要課題

「ビジネス戦略のパートナー」と「人材管理のエキスパート」が拮抗

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「人事」には「人としてなし得る事柄」という意味があり、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉もあるが、ビジネス社会では組織内の個人の採用、地位、職務などを扱うことを指しており、「人事」が「人事部」や「人事パースン」を指すこともある。
その役割についてのもっとも有名な定義は、『MBAの人材戦略』で著名なミシガン大学のデイビッド・ウルリチ教授が提唱した4分類だろう。
1.戦略パートナー(Strategic Partner)、2.管理のエキスパート(Administrative Expert)、3.従業員のチャンピオン(Employee Champion)、4.変革のエージェント(Change Agent)―― 調査ではこの4分類から現在の人事部門の役割を選んでもらった。
最も多い回答は「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」(33%)と「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」(32%)だ。「組織・風土改革実行を中心的に担う(組織・風土変革のエージェント)」は25%と少し低い。「従業員代表として従業員の声を経営に届ける(従業員のチャンピオン)」(5%)はかなり低い。

【図表9】現在の人事部門に最も求められる役割

今後に様変わりし、人事部門は「ビジネス戦略のパートナー」に

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後の人事部門に最も求められる役割」は現在と様変わりしている。どの企業規模でも「ビジネスの成果に貢献する(ビジネス戦略のパートナー)」が激増して、全体では54%を超えている。逆に「人事管理を精密に行う(人材管理のエキスパート)」は激減して11%。「組織・風土改革実行を中心的に担う(組織・風土変革のエージェント)」は26%と横ばい、「従業員代表として従業員の声を経営に届ける(従業員のチャンピオン)」も変わらない。
人事部門の仕事は、勤怠管理、給与計算などのルーチンワークが多く、外部からは見えにくく、よく言えば独立性が高い。「奥の院」と悪口を言われることもあるが、人事自身は今後「ビジネス戦略」を担う部署になると考えているようだ。

【図表10】今後の人事部門に最も求められる役割

4分の3が「今後人事部門の役割は高まる」

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

「今後人事部門の役割は高まるか」という設問でも「大いに高まる」(30%)と「高まる」(46%)を合わせると76%になる。企業業績に貢献する戦略部署になると考えているようだ。とくに「300名以下」の中小企業で「大いに高まる」(37%)が高い。

フリーコメントでも人事の気概が伝わってくる。
●組織が自己変革することは難しく、人事がその役割を担うべきと考えるため(メーカー、1001名以上)
●これまでは人事部門としてビジネス部門との連携が十分にできていなかったが、リソースを充実させることによりそれに対応する準備が整ってきた。ビジネス部門からのニーズも高い(メーカー、1001名以上)
●既存の役割をふまえつつ、将来的には役割を大きく発展し、組織を活性化する機能を持たせる必要があるため(サービス、301~1000名)
●人・物・金の中で、人材により企業価値、業績が大きく変動するため(サービス、301~1000名)
●健康経営実現のためには人事部門が果たすべき役割は大きい(情報・通信、301~1000名)
●経営人材の課題は即ち経営そのものの課題であり、経営戦略の立案・実行により会社業績を上げていくためには、人材の充実が最重要課題と考えるから(メーカー、300名以下)
●情報サービス業は人が財産で有るので、潜在能力の高い人材の確保、育成は経営の重要部門である(情報・通信、300名以下)

【図表11】今後人事部門の役割は高まるか

人事部門のパフォーマンスへきびしい自己評価

HR総研:人事の課題とキャリアに関する調査 結果報告【1】

人事の自己評価は低い。回答があった165社中100点をつけた企業は1社のみだ。「30点未満」が12%、「30~50点未満」が33%あるが、落第点だ。最多ゾーンは「50~70点未満」の40%だが、及落のぎりぎりの点数だ。そして及第点の「70~100点未満」は13%と少ない。
人事部門に謙虚な人が多いという理由ではないだろう。フリーコメントを読むと、人事自身が課題を課題を熟知しており、取り組みが不十分なこと、あるいはそもそも取り組んでいないことをよく知っているから自己評価が低いようだ。
●解決すべき課題は多いがなかなか着手できていない(サービス、1001名以上)
●ビジネス部門との連携が十分でないことと、業務効率化も不十分であること(メーカー、1001名以上)
●まだまだ未着手の問題が多い(メーカー、1001名以上)
●各自は十分なパフォーマンスを発揮しているが、人員が不足しており、会社からの要求に応え切れていない(情報・通信、301~1000名)
●見えている課題には大方対応できているが、表面化していない課題がまだまだ残っているから(情報・通信、301~1000名)
●人事制度の運用・管理という面では概ね合格圏内に入っていると思うが、経営戦略のパートナーとしては未だ十分とは言えないため(メーカー、300名以下)

【図表12】現在の人事部門のパフォーマンスは何点か

【調査概要】

調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2017年4月5日~4月18日
有効回答:169社(1001名以上:21%、301~1000名:32%、300名以下:47%)

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