「働き方」だけでなく「休み方」も改革しなければならない日本企業の実態とはどのようなものなのか、HR総研の調査結果を見てみよう。
まず、有給休暇の平均取得率についてみると20%以下が17%、取得率21%~40%が21%、取得率41%~60%が33%という結果だ。有給休暇取得率が高いと言える81%の企業は、わずか7%という残念な結果である。
では、有給休暇取得に関して、推進の課題は何なのか、各企業ではどのような施策を行っているのか。詳しくはこちらをご覧ください。
有給休暇取得率が40%以下の企業が4割。取得率81%以上はわずか7%
政府主導で「働き方改革」が推進されているが、厚生労働省では労働対策強化のために、「働き方・休み方改善ポータルサイト」を開設し、「休み方」の支援もしている。有給休暇の取得推進は、まさに国家を挙げてのプロジェクトである。
今回のHR総研調査では、回答者の昨年度の有給平均取得率を10%刻みで回答を得て集計し、20%刻みごとに集計した結果が下記のグラフである。最多回答は有給休暇平均取得率が「41%~60%」で33%、次いで、同「61%~80%」が22%、同「21%~40%」が21%と拮抗する。有給休暇はほとんど消化されない「20%以下」が17%あり、逆に消化率が高い「81%~100%」はわずか7%という結果である。まだまだ改善の余地がありそうだ。
こうした現状に対して、どのように対策を行っているのか、アンケート結果を見ていこう。
〔図表1〕昨年度の従業員の平均年次有給休暇取得率
約6割の企業では有給休暇取得推進のための取り組みがある
年次有給休暇の取得を推進するための取り組みがあるかを聞いた。「ある」は全体では59%、「ない」が41%だ。企業規模ごとに見ていくと「ある」は1001名以上の大規模企業では79%、301~100名の中堅では60%だが、300名以下の中小では45%に低下している。規模が大きい企業ほど有給休暇取得推進の取り組みが行われている。
〔図表2〕年次有給休暇の取得推進のための取り組みがあるか
年次有給休暇制度は法定が主流
年次有給休暇は法律で定められている。「雇い入れの日から6か月間継続勤務し、その間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して最低10日を付与しなければなりません。その後は、継続勤務年数1年ごとに一定日数を加算した日数」とされる。
勤続継続年数が0.5年では付与日数10日、以下同で1.5年が11日、2.5年が12日、3.5年が14日、4.5年が16日、5.5年が18日、6.5年以上が20日である(週所定労働時間が30時間未満の労働者は別に定められている)。
年次有給制度の内容を自由記述で回答を求めたところ、上記の法定に則したものが大半であった。事業場が労使協定に基づいて計画的に年休を与える「計画年休制度」を取り入れている企業や、取得促進策として様々な休暇を設けているところもある。なかには法定以上の日数の有給休暇制度を設けている企業もある。いくつかご紹介しよう。
・半休制度あり。支給日数は法定どおり。翌年まで前年支給の有休残を繰り越せる(1001名以上、メーカー)
・期初に勤続年数に応じた有給休暇を付与。繰越は60日まで可能(1001名以上、情報・通信)
・法定有給休暇+法定外有給休暇(5日)。年間8.0時間×5日分を時間単位有給休暇にすることが出来るシステム(301~1000名、メーカー)
・上半期と下半期にそれぞれ有給を3日連続で取得し(可能ならば、その前後に1日ずつ公休を取り)最大5日連休を必ず取らせる制度(301~1000名、商社・流通)
・取得促進策として計画付与制度、リフレッシュ休暇、アニバーサリー休暇、介護休暇、ボランティア休暇(301~1000名、商社・流通)
・年間20日の有給休暇が与えられる。時間単位の取得は、時間合計で年間5日まで可能。半日、一日単位で取得できる。取得できなかった場合は、最大20日まで翌年に繰り越しできる。また、ライフ休暇として20日を超えた切り捨て分を3日まで貯められる(300名以下、サービス)
・ストック休暇(繰り越しが出来ない有給休暇をプールし、療養や育児・介護等の特定自由での使用を可能としている制度)、アクティブライフ休暇(10年毎にリフレッシュ休暇を付与)(300名以下、情報・通信)
取得推進のための制度・施策の最多は「時間単位や半日単位での年次有給休暇制度」
年次有給休暇取得推進のための制度・施策はどのようなものを行っているかを聞いた。
最多は、「時間単位や半日単位での年次有給休暇制度」で66%が導入している。半日や時間単位で休暇がとれると使い勝手が良いことから休暇取得が推進されるものだ。「5営業日以上の連続休暇制度」(19%)、「不測の事態に備えた特別休暇の拡充(病気休暇等法定以外)」(19%)、「誕生日等の決まった日や申告した日を年次有給制度とする休暇制度」(14%)、「長期休暇を可能とするような特別休暇の拡充」(13%)と続く。
厚生労働省が推奨する「計画的付与制度」は、「付与に数のうち5日を除いた残りの日数を計画的付与の対象とできる」もので、これを利用して各社で有給休暇が取得しやすいような工夫をしていると言えよう。
有給休暇取得推進では、「計画的取得」が最多35%
年次有給休暇取得推進のために、以下の運用を行っているかと聞いた。
最多回答を得たのは「年次有給休暇の計画的取得」である。「『計画有休取得制度』という名目で有休を年度初めに日付を決めて上長に提出し取得する(1001名以上、サービス)、「連続年休の取得推進、年初に年休の取得目標日数及び日にちを設定等」(1001名以上、メーカー)など、社員に計画的に有給休暇を取得するような運用を行っている企業もある。
第2位は、「年次有給休暇取得率の目標設定」(21%)だ。取り組みの具体的数値を聞いたところ、50%目標、60%目標、70%目標などの企業が多いなか、「有給取得100%」(1001名以上、情報・流通)と言った高い目標を設定している企業もある。数値目標を設定することで、達成意識がもたらされ、次年度の改善にもつながる。比較的容易に導入でき、成果も出やすい運用手法だ。
第3位は、「年次有給休暇取得のための周知・啓発(ポスター等の掲示など)」で17%の企業が実施している。「経営トップからの呼びかけなど取得しやすい雰囲気の醸成」(14%)、「年次有給休暇取得率の低い従業員に対し、個別に休暇取得を奨励(人事からのメール送信等)」(13%)などが行われている。「部下の年次有給休暇の取得状況を、管理職の人事考課(評価)項目として設定」している企業が2%あった。有給休暇を取得すると評価が下がる、という風土がある企業では、こうした強制力も効果を発揮するだろう。
課題は「業務量が多く、人員が不足している」「従業員の計画的な年休取得に対する意識が薄い」
次に、「年次有給休暇取得の推進における課題はどのような内容ですか」と聞いた。企業人事が最も課題であると考えているのは、6割弱が「業務量が多く、人員が不足している」(57%)と回答している。第2位は、「従業員の計画的な年休取得に対する意識が薄い」で45%である。続いて、「休んだ日人の業務をカバーする体制がない」(41%)となった。労働時間調査の結果でも見られたように、日本企業の職場は業務過多・人手不足の状況に陥っているようで、それが休暇取得が進まない理由になっている。
「職場に取得しにくい雰囲気がある(上司や同僚もとっていないなど)」は39%、「休まないことが評価される風土がある」は29%で、いわゆる文化・風土的な問題もあるようだ。
有給休暇取得を一層推進するには、業務と人員の調整と、「有給を権利として当然に取得する」という文化の醸成の両面からの施策が必要だろう。
有給休暇取得推進には義務化、計画化、管理職・社員の意識変革が必要
年次有給休暇の取得推進についての考えを自由に記述してもらったところ、84名もの方々が熱心にコメントを寄せてくれた。全部をご紹介できないのが残念だが、代表的なコメントをご紹介しよう。
■義務化・強制
・有休消化も義務化すべき。(300名以下、商社・流通)
・休みを他者がカバーする必要があるものなので、ある一定数の有給休暇は計画的に強制的に取得させる制度が必要だと思う。時間外の削減にはある一定以上は限界があると思うので、休ませることによる就業時間の制限は必要であると思う。(301~1000名、メーカー)
・中小零細企業は、有給休暇は取れません。法律により、祝祭日を増やしてもらうのが、一番手っ取り早いと思います(300名以下、メーカー)
・職員全員が最低何日取得するという目標を定めて、2~3日でもよいので取得する義務にするのが望ましいです。シフト体制で業務が進めている部署が多数にわたるため、年間の業務をスケジュールする際、日ごとの必要人員もわかるし、年休取得の予定も組んでいけると感じます。(1001名以上、学校法人)
■計画化
・期初に概ねの計画をたてて、上司と共有したり、関係者へ見える化することは有効なのではないかと考える。(1001名以上、情報・通信)
・会社が率先して計画的に取得できるルールや制度に取組まないと、前進しない。基本的に、みな勤労に真面目。(301~1000名、サービス)
・これからになりますが、労働組合と話し合って「計画有給休暇」協定を締結する予定です。そうすることにより、管理職・一般職で殆ど取得していない人の取得率を向上させて、5年先には平均で70%以上になるように持っていきます。(301~1000名、メーカー)
■管理職の意識改革
・一部の管理職に「有休」を申請すると良い顔をしない者がいると、部下は取得し難い。いまだにそういう管理職は存在している。(1001名以上、サービス)
・管理監督者を含む社員全員の意識を変えることにつきるかと思います。また、年休については休んで何をするかという「余暇の過ごし方」の影響も大きいので、「趣味を持つ」などのプライベートを充実させる意識の向上も必要かと考えます。(1001名以上、情報・通信)
・管理職層の積極的な取得と上司からの啓蒙が重要。あとは業務をカバーしあえる雰囲気づくり。(300名以下、商社・流通)
・有休をとりにくい雰囲気はすべての職場に存在する。管理者の意識改革が必要。管理者自身が積極的に有給消化することが必要。(300名以下、サービス)
・有休取得を個人任せにするとどうしても取得しない傾向になるため、上司の考課項目に入れることで「休む」ではなく「休ませる」方向でまずは意識定着を図りたい。(301~1000名、商社・流通)
■課題・提案・箴言
・取得をしたいのに出来ない方は問題だと思いますが、ことさらに取得を促進するという風潮には抵抗感を感じます。個人の選択と責任において行使する従業員権利であると考えます。(1001名以上、情報・通信)
・遅くまで働いた日の翌日は遅く出勤するなど、工夫を加えている。会社が時間で管理する時代は終わっているのかとも思う。成果で管理すれば労働時間は個人の裁量になるのではないだろうか。(300名以下、サービス)
・与と消滅を繰り返しているだけでは何の意味も無いので、取得率100%を目指すべきだと思っています。(300名以下、メーカー)
・年休は、不慮の事故など緊急事態発生時の備え的な考えの人もかなりいるため消化率がアップしない。不測の事態のため使用でき、有効期限を持たない休暇を積み立てるなどの制度の充実が望まれる。(300名以下、情報・通信)
・取得が労働時間短縮に結び付くわけではない。社員の有効な時間活用のための有給休暇であると考えており、取得は本人の意思に任せるべきだと思う。業務が集中しすぎている社員へのフォローは実施している。(300名以下、情報・通信)
・積極的な取得と業務の実績を両立するロールモデルを作りたい(300名以下、マスコミ・コンサル)
有給休暇が権利としてあっても、休みを取らず、まじめに働き続けてきた日本人。それが経済発展を支えてきたことは誰も否定しない。しかし労働者として国から与えられた権利を行使せず、家庭生活やプライベートを犠牲にしてきたことで、国民の「幸福度」は一向に上昇しない。今の日本企業に求められるのは、制度設計や運用に加え、従業員の一人ひとりの意識や、経営や管理職の意識を「有給休暇を取得して個人のパフォーマンス向上につなげよう」という方向に変えることだ。休暇取得のために必要な生産性の向上や、業務を個人任せにせずにチームで共有してメンバーが休暇を取得しても通常業務が行えるようにする工夫など、働き方を変革していく必要があるだろう。
【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年10月5日~10月20日
有効回答:252件(1001名以上:77件、301~1000名:65件、300名以下:110件)
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