日本企業の多くがグローバル化への対応などを課題としており、人事は曲がり角を迎えている。そこで今回の調査では、どのようテーマが人事課題として意識されているのかを調べるため、現在課題と将来課題を聞いてみた。
【調査概要】
調査主体:HR総合調査研究所(HRプロ株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の人事担当者
調査方法:WEBアンケート
調査期間:2012年2月24日~2012年3月8日
回答者数:282名
最優先課題は、「優秀な人材の確保」と「教育・能力開発」
「貴社の人事関連の課題として重要だと思われるもの」について聞いたところ、メーカー、非メーカー、企業規模によって、かなり大きな違いがある。そこで「全体」「メーカー系規模別」「非メーカー系規模別」のグラフを取り上げてみたい。
図表1 人事関連の課題として重要だと思われるもの(全体)
まず全体の傾向から見てみよう。もっとも重要な課題は「優秀な人材の確保」(77%)と「社員の教育・能力開発」(75%)だ。「社員のモチベーションアップ」も67%と高い。
以下は「幹部候補の選抜・育成」(54%)、「人事制度改革」(48%)、「中間管理職層の能力開発」(48%)、「メンタルヘルス対策」(47%)、「新人・若手社員の戦力化」(39%)、「適正な要員計画」(38%)、「組織風土改革」(36%)、「戦略的な人材配置・人事異動」(34%)、「女性社員の活用」(32%)が続いている。
人事課題のソリューションを外部に求める「アウトソーシングの活用」は7%と低い。意外に少ないと感じるのは「グローバル化への対応」(29%)、「ワークライフバランスの実現」(26%)、「中高年社員の活用」(23%)だ。
業種や企業規模によって、重要な人事課題は変わりやすい。どの項目で違いがあるのかをメーカー系と非メーカー系の規模別で確認してみよう。
メーカー系規模別の関心の違い
メーカー系でも高い項目は「優秀な人材の確保」と「社員の教育・能力開発」だが、数字が興味深い。「優秀な人材の確保」は「1001名以上」86%、「301名~1000名」88%、「1~300名」70%だ。301名以上の企業は高い関心を示しているが、小規模企業は少し低い。
「社員の教育・能力開発」については、「1001名以上」76%、「301名~1000名」79%、「1~300名」85%。小規模企業ほど、社員を育てようとしている。裏を読めば、育っていないと言うことかもしれない。
極端に数字が異なっている項目を上げておこう。「女性社員の活用」は「1001名以上」43%、「301名~1000名」42%とかなり高いが、「1~300名」は17%とかなり低い。「中高年社員の活用」についても、「1001名以上」29%、「301名~1000名」26%とそこそこの数字だが「1~300名」は9%に過ぎない。
「グローバル化への対応」でも、「1001名以上」は62%、「301名~1000名」49%と関心が高いが、「1~300名」になると20%に急落する。「離職率の低減」は、「301名~1000名」16%、「1~300名」13%だが、「1001名以上」の回答はゼロだった。
「技術・技能の伝承」は「1001名以上」と「301名~1000名」は4割台だが、「1~300名」では6割近くに跳ね上がる。小規模メーカーほど技能継承が重要そうだ。
「新人・若手社員の戦力化」と「戦略的な人材配置・人事異動」もブレ幅が大きい。
図表2 人事関連の課題として重要だと思われるもの(メーカー系・規模別)
非メーカー系・規模別の関心の違い
非メーカー系でも高い項目は「優秀な人材の確保」と「社員の教育・能力開発」だ。しかしメーカー系よりも低く、とくに「社員の教育・能力開発」については、「1001名以上」66%、「301名~1000名」71%、「1~300名」73%とメーカー系よりも10ポイント前後低い。
「組織風土改革」も規模別の違いが大きく、「1001名以上」52%、「301名~1000名」27%、「1~300名」34%だ。規模が大きくなると、「組織風土」に立ち入った改革が必要になると言うことだろう。
「グローバル化への対応」は、メーカー系よりかなり低い。「1001名以上」でも38%に過ぎず、「301名~1000名」が24%、「1~300名」は16%にとどまっている。非メーカー系企業は内需型が多いからだろう。
「戦略的な人材配置」もブレが大きく、「1001名以上」52%、「301名~1000名」40%、「1~300名」27%だ。
図表3 人事関連の課題として重要だと思われるもの(非メーカー系・規模別)
現在と5年後の人事課題の差異
今回の調査では、「現在の重要人事課題」だけでなく、「将来(5年後)の重要人事課題」についても問うてみた。全体的に見ると、現在よりも落ちている項目が多い。現在も将来も重要課題のトップ2は「優秀人材の確保」、「教育・能力開発」だが、数字はかなり落ちている。採用と教育は人事の仕事の柱だから、重要性が薄まると予測しているわけではなく、当たり前の仕事として認識しているのではないかと考えられる。
図表4 現在と5年後に重要になる人事課題(全体)
数は少ないが現在よりも高くなった項目もある。「戦略的な人材配置・人事異動」は34%→37%、「グローバル化への対応」は29%→32%、「中高年社員の活用」は23%→26%だ。成長のために戦略人事、勝ち残りのためにグローバル対応、政府の求める65歳までの雇用維持のために中高年社員の活用が必要ということだろう。
「活用している成果指標」 もっとも高いのは総人件費
図表5 人事マネジメントの成果指標として活用しているもの(全体)
「人事マネジメントの成果指標として活用しているもの」についての設問の結果を見ると、全体ではもっとも高いのは「総人件費」49%だ。続いて「従業員1人当たり売上高」32%、「経営戦略と人事戦略の合致度」と「採用計画の達成度」がともに30%、そして「従業員満足度」28%と続いている。
「正社員の平均年齢」15%や「正社員の年齢構成」などの年功制に関わる項目はともに20%と低い。考慮はしているが主たる指標ではないという位置づけのようだ。
ただメーカー系と非メーカー系は「人事課題」と同じく大きな違いがあり、規模による差異もある。
異なる傾向を示す「1001名以上」のメーカー系
メーカー系で目立つのは「1001名以上」の企業だ。「経営戦略と人事戦略の合致度」という成果指標が48%と飛びぬけて高い。「1001名以上」の「女性管理職比率」は12%と低い数字だが、「301名~1000名」と「1~300名」はわずか2%と比べると、かなり高い。
「正社員の年齢構成」は「1001名以上」が29%であり、これも中小規模に比べると倍近く高い。年功的な制度が残っているのかもしれない。
「労働分配率」は大規模企業の方が低く、「1001名以上」は14%、「301名~1000名」は21%、「1~300名」は26%と中小ほど高くなっている。
図表6 人事マネジメントの成果指標として活用しているもの(メーカー系・規模別)
非メーカー系で目立つ「従業員満足度」
メーカー系では「従業員満足度」はそれほど大きな成果指標ではなかったが、非メーカー系は高く、とくに「1001名以上」の非メーカー系は48%と目立っている。「女性管理職比率」は、メーカー系でも非メーカー系でも「1001名以上」の企業のみが指標としているようだ。
他に目立つ項目は「従業員1人当たり売上高」だ。「1001名以上」は21%だが、「301名~1000名」は36%と急増し、「1~300名」は41%と大きな成果指標になっている。逆に「戦略的人材配置の達成度」は、「1001名以上」では24%だが、「301名~1000名」13%、「1~300名」8%と規模が小さくなるにつれ低くなっている。
「その他」に回答した人事のコメントを読むと、そもそも「成果指標」という考えを持っていない企業もある。また成果指標は「会社の業績」というコメントもある。
図表7 人事マネジメントの成果指標として活用しているもの(非メーカー系・規模別)
戦略が重視される5年後の成果指標
図表8 現在と5年後の成果指標
現在活用している成果指標は「総人件費」がダントツのトップだった。しかし回答した人事担当者は、5年後に大きな変化を予測している。5年後でトップなのは「経営戦略と人事戦略の合致度」。現在の30%→5年後51%と非常に高くなっている。「従業員満足度」も28%→45%になっている。「戦略的人材配置の達成度」は12%→35%。「組織活性度」も18%→30%と増えている。
これらの項目を見ると、人事マネジメントにおける戦略が重視されてくる、と回答者たちは予測しているようだ。
次回は、人事考課制度の改定状況と女性活用の進展について取り上げる。
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