企業の人事部門では、様々な課題がある中でどのようにして最重要課題を抽出し、解決に向けて取り組んでいるのだろうか。課題解決ができている企業と解決に至っていない企業をあらゆる角度で比較しながら、調査結果を紹介する。
<概要>
●「次世代リーダーの育成」、企業規模に関わらず半数以上で最重要課題
●人事課題の把握手法、大企業では「社員サーベイ活用」、中堅・中小企業では「ヒアリング・会話」
●経営戦略と人材戦略の連動状況には「人事部門の関与」が少なからず影響
●人事の最重要課題の解決3割未満、中小企業では「課題の抽出」自体に困難も
●「パーパス」や「従業員エンゲージメント」、「従業員体験(EX)」など、経営方針の傾向は?
●組織改善に社員サーベイを有効活用している企業は4割以上、大企業では6割近く
●最重要課題の施策成果が出ている企業の特徴とは?
●「PDCAの実践」と「社員サーベイデータの有効活用」には密接な関係あり
●大企業では7割近くが社員サーベイを活用する方針、中小企業では3割にとどまる
「次世代リーダーの育成」、企業規模に関わらず半数以上で最重要課題
まず、【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での課題については、すべての企業規模において「次世代リーダー育成」が最多で、従業員数1,001名以上の大企業では54%、301~1,000名の中堅企業では54%、300名以下の中小企業では49%となっている。「次世代リーダーの育成」は、例年人事課題のトップとなっており、人的資本経営の取組み項目としても重視される傾向が見られている。大企業では、これに次いで「キャリア採用」が44%、「専門職人材の採用」と「マネジメントスキル向上」がともに41%などとなっている。中堅企業では「キャリア採用」が41%、「マネジメントスキル向上」が38%など、中小企業では「マネジメントスキル向上」が42%、「キャリア採用」が37%などと続いている。企業規模に関わらず、上位には同様の課題が挙がっている。
ただし、大企業では「専門職人材の採用」や「シニア人材の活性化」(37%)に、中堅・中小企業より課題感を持つ企業の割合が高いという特徴が見られている(図表1-1)。
【図表1-1】企業規模別 【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面での課題
【組織・制度・仕組み・システム】面での課題については、大企業では「評価の定着、評価者スキルの向上」が最多で38%、次いで「従業員エンゲージメント向上」が32%、「従業員のモチベーション維持・向上」と「人事データの活用」がともに31%などとなっている。中堅企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で41%、次いで「従業員のモチベーション維持・向上」が34%、「組織開発・組織風土改革」が27%などとなっている。中小企業では「従業員エンゲージメント向上」が最多で30%、次いで「従業員のモチベーション維持・向上」29%、「評価制度の改革」が28%などとなっている(図表1-2)。上位に挙がる項目の中で、企業規模による差異が顕著に見られるのは、「評価の定着、評価者スキルの向上」や「人事データの活用」であり、組織マネジメントにおける課題の傾向は、従業員数によって異なることがうかがえる。
【図表1-2】企業規模別 【組織・制度・仕組み・システム】面での課題
人事課題の把握手法、大企業では「社員サーベイ活用」、中堅・中小企業では「ヒアリング・会話」
人事の課題について把握する手法を見てみると、大企業では「社員サーベイ」が最多で52%、次いで「社員ヒアリング」が46%、「日頃の会話などからの推測」が40%などとなっている。中堅企業では「社員ヒアリング」が最多で48%、「日頃の会話などからの推測」が46%、「管理職層ヒアリング」が39%などとなっている。中小企業では「日頃の会話などからの推測」が最多で55%、「社員ヒアリング」が49%、「管理職層ヒアリング」が32%などとなっている。これらの結果から、大企業と中堅・中小企業のとの最大の違いは「社員サーベイ」の活用であり、大企業では過半数が活用しているのに対して中堅企業では25%、中小企業では12%と活用率が低い状態にある。中堅・中小企業で多く実施されている「社員や管理職層へのヒアリング」や「日頃の会話からの推測」は、課題の見当を付けるために必要であるが、それだけで課題テーマを決めてしまうと、ヒアリング対象者の選定による偏りなどが生じる恐れがある。そのため、ヒアリング等で得られた情報を元に社員サーベイまでを行い、データドリブンな課題の抽出をすることが望ましいだろう(図表2)。
【図表2】企業規模別 人事課題の把握手法
経営戦略と人材戦略の連動状況には「人事部門の関与」が少なからず影響
ここで、経営戦略と人材戦略の連動状況を確認してみる。
企業規模別に見ると、大企業では「概ね連動している」が最多で32%、次いで「一部のみ連動している」が26%、「全般的に連動している」が18%などとなっており、「概ね連動している」と「全般的に連動している」を合計した「連動している」企業群の割合は50%とちょうど半数である。中堅企業では「一部のみ連動している」が最多で43%、「概ね連動している」が25%などで、「連動している」企業群の割合は32%と3割程度となっている。中小企業では「概ね連動している」が最多で28%、「一部のみ連動している」が22%などで、「連動している」企業群の割合は40%となっている。これらから、3~5割の企業で経営戦略と人材戦略が連動している状況であることが分かる(図表3-1)。
【図表3-1】企業規模別 経営戦略と人材戦略の連動状況
また、経営戦略策定・運用(意思決定)への人事部門の関与については、大企業では「やや関与している」が最多で26%、次いで「どちらとも言えない」が25%、「関与している」が18%などとなっており、「関与している派」(「関与している」と「やや関与している」の合計、以下同じ)は44%で4割程度となっている。「関与している派」の割合は、中堅企業で34%、中小企業で31%といずれも3割程度となり、大企業より1割程度低い状況となっている(図表3-2)。
【図表3-2】企業規模別 経営戦略策定・運用(意思決定)への人事部門の関与
経営戦略と人事戦略との連動状況について、経営戦略の意思決定に人事部門が「関与している企業群」と「関与していない企業群」に分けて比較すると、経営戦略と人材戦略が連動している企業の割合は、「関与している企業群」では64%、「関与していない企業群」では28%となり、36ポイントもの差で「関与している企業群」の割合が高くなっている(図表3-3)。
したがって、経営戦略と人事戦略の連動には、「経営戦略の意思決定」への人事部門の関与が少なからず影響していることが分かる。
※関与している企業群:「関与している」もしくは「やや関与している」を選択した企業群
※関与していない企業群:「どちらとも言えない」、「あまり関与していない」、「関与していない」、「わからない」のいずれかを選択した企業群
【図表3-3】経営戦略の意思決定への人事部門の関与状況による、経営戦略と人材戦略が連動している企業の割合
人事の最重要課題の解決3割未満、中小企業では「課題の抽出」自体に困難も
次に、人事部門における最重要課題の解決状況について見てみる。
まず、【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面の最重要課題の解決状況については、大企業では「実施しているが、まだ成果は出ていない」が最多で34%、次いで「実施しており、やや成果が出ている」が21%などとなっており、「成果が出ている派」(「実施しており、成果が出ている」と「実施しており、やや成果が出ている」の合計、以下同じ)は27%と3割近くとなっている。「成果が出ている派」の割合は、中堅企業では25%で4分の1となり、中小企業では僅か13%にとどまっている。いずれの企業規模でも、最重要課題の解決成果が出ている企業の割合は3割未満で高い割合とは言えない状況となっている。また、「最重要課題を抽出できていない」の割合は、大企業から順に12%、20%、29%と企業規模が小さくなるほど割合が高くなっている(図表4-1)。
【図表4-1】企業規模別 【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面の最重要課題の解決状況
次に、【組織・制度・仕組み・システム】面での最重要課題の解決状況についても同様に見てみると、「成果が出ている派」の割合は、大企業で24%、中堅企業で20%、中小企業で11%となり、【採用・人材育成・配置・人材ポートフォリオ】面の最重要課題より成果が出ている企業の割合が低い状況となっている。また、「最重要課題を抽出できていない」の割合は中小企業で特に高く、29%となっている(図表4-2)。
これらの結果から、特に中小企業では、まずは「最重要課題の抽出を的確に行うことが課題解決への第一ステップ」となっている企業が少なくない状況と言える。
【図表4-2】企業規模別 【組織・制度・仕組み・システム】面での最重要課題の解決状況
大企業では7割近くが社員サーベイを活用する方針、中小企業では3割にとどまる
「人事課題の解決に向けた社員サーベイの活用方針」を企業規模別に見ると、大企業では「ある程度、活用していく」が最多で43%、次いで「積極的に活用していく」が24%で、これらを合計した「活用していく派」は67%と7割近くとなっている。中堅企業でも「ある程度、活用していく」が最多で36%、「活用していく派」は49%と半数となっており、中小企業では「活用しない」が最多で34%、「活用していく派」は30%となっている(図表9)。
中小企業では従業員数によっては社員サーベイの活用をしづらい場合も想定されるものの、図表4-1,2で示したとおり最重要課題の解決率が低いことを踏まえると、可能な範囲で社員サーベイの活用を視野に入れていくことが期待される。
【図表9】人事課題の解決に向けた社員サーベイの活用方針
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【調査概要】
アンケート名称:人事向け:【HR総研】「人事の課題と社員サーベイの活用」に関するアンケート
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査期間:2022年5月23~30日
調査方法:WEBアンケート
調査対象:企業の人事責任者・担当者
有効回答:246件
※HR総研では、人事の皆様の業務改善や経営に貢献する調査を実施しております。本レポート内容は、会員の皆様の活動に役立てるために引用、参照いただけます。その場合、下記要項にてお願いいたします。
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