第3回目は、内定取得学生の就活継続意向、企業の採用活動終了時期見込、これからの採用活動、今年の採用活動の感想、最後に学生の内定辞退連絡の状況について見てみたい。
内定取得後、就職活動を終える学生が増える
【学生】
ずでに内定を保有している学生に対して、今後もまだ就職活動を継続する予定なのかを聞いてみた結果を、文系・理系別に昨年の調査データと比較してみた。いずれも採用選考解禁後、約1カ月経過の時点で調査しているため、2016卒データについては昨年8月下旬時点での調査結果となっている。
まずは文系であるが、「終了する」学生の割合は昨年の66%から69%へと微増にとどまっている。ただし、調査時期が2カ月早まっていることを考えれば、「微増」は決して「微増」にはとどまらないと思われる。8月末に再度調査をしたとすれば、「終了」学生は格段に増えることになるだろう。昨年の学生は、調査段階で8月末までの長丁場を就職活動に費やし、かつ7月・8月の猛暑の中、リクルートスーツを着込んで就職活動を続けていたことを考えれば、志望度がそれほど高くない企業からの内定であったとしても、もうやめようと考える学生がいておかしくない。
しかし、今年はまだ6月末である。一部の人気企業の採用活動は落ち着いてしまったかもしれないが、まだまだ採用活動を継続している企業は多く、現在の内定先を不本意だと思えば就職活動を続けることはできる環境にある。その証拠に「第1志望の企業に内定したがまだ他も見たいので継続する」という学生は昨年の8%から13%へと増えている。
昨年の学生は、学生最後の夏休みを棒に振る形になったが、今年の学生は最後の夏休みを満喫しようとの意気込みだともとれる。
【図表1】内定保有学生の就職活動継続意向(文系)
続いて理系学生の意向であるが、こちらも昨年と比較すると「終了する」学生の割合は微増にとどまる。文系よりも「第1志望の企業に内定したので終了する」学生の割合が多いのは、推薦制度で内定を取得した学生が一定数いるためである。推薦での内定は、原則辞退が許されない。
「第1志望の企業に内定したがまだ他も見たいので継続する」という学生が昨年よりも多いのも、文系学生と傾向は同じだ。こちらは自由応募で内定を取得した学生ということになる。
【図表2】内定保有学生の就職活動継続意向(理系)
7月までに採用活動を終了する企業は3分の1
【企業】
続いて、企業側の採用活動終了時期の見込みを見てみよう。最も多かったのは「7月」の17%、次いで「8月」の15%、「9月」と「12月」の13%と続く。「7月」「8月」「9月」に終了見込みの企業が多いのはわかるが、「9月」と「12月」が同じだという点に注目したい。10月1日からの内定式を一つの区切りと考え、それまでに採用活動を終えたいと考える企業が多いのは理解できる。「10月」と回答した企業はわずか5%しかなく、「9月」からの落差は大きい。「11月」は3%とさらに落ち込んだ後、「12月」に跳ね上がる。年内には終えようという意志(希望)が垣間見える。年が明けると「1月」「2月」は少ないが「3月」で再び11%と跳ね上がる。最後の最後まで粘った企業ということになる。
【図表3】採用活動の終了見込み時期(全体)
企業側の採用活動終了見込み時期を従業員規模別に比較してみよう。
大企業では8月までに終了見込みの企業が72%にも及ぶのに対して、中堅・中小企業ではいずれも4割前後にとどまり、逆に年明け以降も採用活動を継続見込みの企業が2割程度ある。
【図表4】採用活動の終了見込み時期(従業員規模別)
「新たにエントリーを受け付ける」企業が半数以上
【企業】
今後の採用活動の方針を聞いた結果がこちらのグラフである。「すでに選考は終了した」とする企業は16%にとどまり、残りの企業はまだ選考活動を継続中である。継続している場合、2つの選択肢を用意してみた。ひとつは「既存のエントリー者だけで選考を続ける(ことで採用計画数は確保できそう)」、そしてもうひとつは「(既存のエントリー者だけでは足らないので)新たなエントリー者を受け付ける」である。結果は後者のほうが圧倒的に多く、56%の企業がこちらを選択している。採用活動を継続する企業にとっては大変であるが、就職活動を継続している学生にとっては朗報と言えよう。
【図表5】今後の採用活動の方針(全体)
大企業でも4割以上が「新たにエントリーを受け付ける」
【企業】
上記で見た今後の採用活動の方針を従業員規模別に分解したデータがこちらである。大企業といえども「すでに選考は終了した」とする企業は2割もなく、中堅・中小企業と大差はない。
違いがあるとすれば、「既存のエントリー者」で事足りるかどうかである。大企業の31%が「既存のエントリー者だけで選考を続ける」としているのに対して、中堅企業16%、中小企業19%と少なくなっている。もともとのプレエントリー者、正式エントリー者のパイが少なく、母集団形成からリスタートする必要に迫られていると言える。ただし、大企業ですら「新たなエントリー者を受け付ける」とする企業が44%もあるのには驚く。大企業の中でも、B to B企業をはじめ、学生になじみのない企業では採用に苦戦していることがわかる。
【図表6】今後の採用活動の方針(従業員規模別)
昨年よりも大変になった企業の採用活動
【企業】
ここまでを振り返って、昨年の採用活動と比較してみて今年の採用活動がどうだったかを回答してもらったところ、「かなり大変になった」(21%)、「やや大変になった」(33%)を合わせると5割以上の企業が昨年よりも「大変になった」と回答している。昨年の指針とは違いは、「3月 採用広報解禁」は変わらず、「8月 採用選考解禁」が「6月 採用選考解禁」へと2カ月間前倒しになった点だけである。前年の「12月 採用広報解禁、4月 採用選考解禁」からの変更と比べれば、その変更度合いは緩やかであったとは言えるのだが。
【図表7】2016年卒採用と比較しての2017年卒採用活動の感想(全体)
従業員規模別に見たものがこちらである。大企業で「楽になった」と回答した企業は皆無である。大企業で「大変になった」と回答した企業は56%もあり、中小企業の43%を上回る。「大変になった」と回答した割合が最も多かったのは中堅企業で、実に72%に及ぶ。中小企業は、前年も「大変」であったことには変わりはなく、結果的に「変わらない」と回答している企業が多そうである。中小企業の一部は、大企業の選考が落ち着くのを待って選考する道を選んだが、中堅企業の多くは大企業よりも先んじて選考する道を選んだ企業の割合が多く、結果的に後から大企業に内定者を奪われる形になっている企業が少なくないのであろう。もちろん、企業の旺盛な採用意欲によって、昨年を上回る求人倍率となっており、全体の環境として企業にとっては厳しくなっていることは事実ではある。
ただ、中には6月には採用活動の決着を見た企業もあることを考えると、昨年よりも「楽になった」との回答がもっとあってよさそうなものではあるが。
【図表8】2016年卒採用と比較しての2017年卒採用活動の感想(従業員規模別)
「大変になった」理由を見てみると・・・
【企業】
前年よりも「かなり大変になった」と回答した企業の理由を見てみよう。
●昨年は出遅れたので集客に苦労したが、今年は良い時期に開催できたものの、他社とバッティングしたため、集客、選考途上の辞退ともに課題となった。(1001名以上、メーカー)
●広報解禁から選考解禁までの期間が短くなり、業界研究・企業研究が浅く、求める水準に達しない学生が増えた。(1001名以上、情報・通信)
●無断キャンセルがかなり増えた。(301~1000名、サービス)
●強気な学生が多く、初期段階での広報ができていないと選考中にも辞退してしまう。(301~1000名、メーカー)
●昨年よりも大手企業に合格して辞退するものが増えた。(301~1000名、メーカー)
●母集団の確保ができない。学内説明会の予約ができない。(301~1000名、情報・通信)
●昨年と比較して、3月の母集団形成はうまく行ったが、GW以降のエントリー、説明会参加者数が激減した。(301~1000名、商社・流通)
●プレエントリー数~応募者数~求める学生が集まらない という状況が続いている。(301~1000名、商社・流通)
●辞退防止の観点で、選考というより営業的な動きをしたことで、工数や負荷もかかった。(300名以下、運輸・不動産・エネルギー)
文系で4割、理系でも4分の1の学生は内定辞退を伝えきれていない
【学生】
最後に、重複内定をもらった学生の内定辞退の状況を見てみよう。6月末の段階で、すでに辞退する企業への連絡をすべて済ませている学生は、文系で60%、理系で75%となっている。理系の学生の方が高い数字となっているが、推薦応募の学生は原則的にはそこしか受験していなはずなので、重複内定となっている割合は少なく、この設問は対象外となっている。理系についても自由応募の学生がほとんどだと考えると、この数字の違いは理系学生の「生真面目さ、実直さ」といったところが現れているのであろう。
企業側からすると、残りの学生が気になるところである。文系で41%、理系でも26%の学生は、辞退するつもりの企業にまだ伝えきれていない。
【図表9】重複内定保有学生の内定辞退行動(全体)
中下位校の学生ほど要注意
【学生】
上記設問の文系の結果を大学クラス別に見たものがこちらである。
大学クラスによって、内定辞退の伝え方にバラつきがある。「早慶クラス」をはじめとする上位校学生ほど、「すべての企業に内定辞退を伝えた」割合は高く、下位校ほど低くなっている。「早慶クラス」では8割の学生がすでにすべての企業に内定辞退を告げているのに対して、「その他私立大学」では48%と5割を切っている。「早慶クラス」は第1志望の企業から内定をもらっている割合が高いのに対して、「その他私立大学」ではまだまだ現在の内定先企業に満足できておらず、特定の1社に決めかねているものと推測される。上位校学生ほど多くの企業から内定をもらって、内定を抱え込んでいるイメージを持たれがちであるが、実際は逆だと言える。中下位校の内定者を多く抱えている企業は要注意である。
【図表10】重複内定保有学生の内定辞退行動(大学クラス別)
入社式まで内定辞退はわからない
【学生】
内定辞退をまだすべて伝えていない学生は、どのタイミングで企業に辞退の意志を伝えるのであろうか。今回紹介する最後のデータは、採用担当者にとっては少し嫌なデータである。内定辞退の連絡をいつまでに終わらせるつもりかを聞いてみた。文系、理系ともに入社したい会社が決まれば、残りの会社に対してはできるだけ早く意志を伝えるつもりのようではある。「6月末まで」「7月末まで」を合計すれば、文系の87%、理系でも82%に及ぶ。さらに、「8月末まで」「9月末まで」「内定式まで」までを含めると、文系・理系ともに95%の学生がそれまでには内定辞退の連絡をすべての企業にし終えると回答している。企業側が内定式を採用活動のひとつの区切りと考えるように、学生にとっても内定式は「内定辞退」を伝える節目にはなっているようである。
注目すべきは、残りのデータである。「卒業まで」、挙句の果てには「自分から(内定辞退を)伝えるつもりはない」という学生の存在である。企業側は、内定式で安心してはいられない。入社式を迎えるその日まで気が抜けない日々が続くことになる。ただし、そんな非常識な学生は抜けてもらって結構と考えるべきなのかもしれない。
【図表11】内定辞退連絡の完了予定時期
【調査概要】
■企業調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業の新卒採用担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年6月22日~6月29日
有効回答:149社
■学生調査
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査協力:楽天「みんなの就職活動日記」
調査対象:2017年卒の大学生・大学院生
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年6月22日~6月29日
有効回答:1,355名(文系:803名、理系:552名)
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