早期選考開始を望む学生たち
経団連による採用スケジュールは前年の「8月 面接選考解禁」から「6月面接選考解禁」へと2カ月の前倒しとなった。2016年卒学生を対象とした採用スケジュールは、学生が学業に専念できる期間を確保することを目的に政府主導で進められたが、結果は逆に就職活動期間を長引かせる羽目となり、たった1年での見直しとなった。
もう一方の当事者である学生は、就職活動の選考時期についてどう考えているのであろうか。択一で最もふさわしいと思える時期を聞いたところ、文系と理系では異なる結果となった。理系学生は、夏前から卒業研究に専念したいこともあり、できるだけ早い時期に就職活動を終えてしまいたい意向が強く、最多回答は「学部3年(修士1年)の12月~2月」で3分の1以上の36%の学生が選択している。次いで「学部3年(修士1年)の3月~学部4年(修士2年)の5月」が23%で続く。
一方の文系学生は、理系同様に「学部3年の12月~2月」も28%と高いものの、僅差で「学部3年3月~学部4年の5月」が最多(29%)となっている。
また、理系では「在学中時期関係なし」とする回答も10%あり、3%しかなかった文系と比べると、早めに決めてしまいたい意向がここにも表れているものと推測できる。
[図表1]最適だと思う選考開始時期
意外と少ない楽観論者
昨年末時点では、良好だった2016年卒の先輩の就職活動結果を見たとともに、依然として堅調な企業の採用意欲を前にして、前年以上に就職活動を楽観視している学生が増えているとの危機感が、大学関係者から数多く発信されていた。ただし、今後の就職活動をどう見ているかを聞いた今回の調査結果を見る限り、楽観論者はそんなに多くはなさそうである。文系、理系で大きな差異は見られず、ともに「楽観している」学生は4分の1前後いるもののも、6割以上の学生は「不安」だと回答している。
[図表2]今後の就職活動をどう見ているか
スケジュール変更よりも選考そのものに不安
「不安」の理由を聞いてみると、「採用スケジュールの変更」を挙げる者は意外少なく、文系、理系ともに23~24%ほどである。それよりも、「面接が苦手」「筆記試験が苦手」といった選考そのものに対する不安の方が強い。文系では、「面接が苦手」36%、「筆記試験が苦手」が33%となっている。これに対して理系では、「筆記試験が苦手」は23%にとどまり、かえって「面接が苦手」とする学生が文系よりも多い42%となっている。文系における「筆記試験」は、「数学・理科」系問題を念頭に不安になっているのであろう。
その他、文系と理系での差異を見てみると、「自己分析」「志望業界」を不安理由にしている学生が文系で多くなっている。理系の場合には、「専攻」によって業界がある程度絞られるとともに、「学部生」「院生」の違いによって選択できる職種にも制約が入ることから、志望先選択において「自己分析」が入り込む余地は文系と比べると少ないことも影響しているのであろう。
[図表3]不安の理由
人気業種は団子状態
志望する業界を択一式で回答してもらったところ、文系では「商社」「生損保」「運輸」がトップ3となった。ただ、択一式での回答は分散しており、トップの3業種ですらいずれも6.4%に過ぎない。
トップ10の業界を見てみると、メーカーの人気がそれほど高くないことに気付く。「食品」が4位、「建設・住宅」が7位に入っているほかは、上位には一切顔を出していない。文系では、「生損保」以外にも「地銀」が6位、「メガバンク」が8位に入るなど、依然として金融系人気が高い。
[図表4 最も志望する業種(文系)]
理系の人気業種トップは「情報処理・システム開発」
一方、理系の結果を見てみると、文系と違って上位の業種では10%を超える業種も5業種ある。トップは「情報処理・システム開発」の15%で、「化学」の14%、「食品」12%、「医療」と「電機」が10%で続く。
6位「機械」7%、7位「建設・住宅」6%と、トップ5との間には少し差がある。
文系で人気の高かった「商社」は1%、「生損保」は0%、「運輸」は2%と低位に甘んじている。
[図表5 最も志望する業種(理系)]
文理ともに今年も「外食」が断トツの不人気
志望業種では特定の業種に集中することなく、多くの業種に分散する結果となったが、「最も敬遠したい業種」では、今年も「外食」が文系・理系学生ともに20%と、2位以下の業種を大きく引き離して断トツのトップとなった。労働時間管理の杜撰さや給与・休暇といった待遇の悪さ等が報道されることが多く、マイナスイメージを払しょくすることは難しそうだ。「外食」は、アルバイト学生の多さでは他の業界を圧倒しており、早期から学生との接点のある点は強みであるともいえる。今後は、アルバイト学生から新卒採用へつなげていく活動も、これまで以上に見直されていくのではないだろうか。
[図表6 もっとも敬遠したい業種(文系)]
[図表7 もっとも敬遠したい業種(理系)]
大手企業志向は減少
一般的に、好景気の時は大企業の採用意欲が旺盛のため、学生は入社可能性が高まるとの思いから、大手志向が強くなるといわれる。実際に、昨年調査でも大手志向(絶対大手+できれば大手)の学生割合は前年よりも文系で6ポイント、理系では2ポイントほど高くなっている。ところが今年の調査結果を見ると大手志向の学生割合は、昨年はおろか、一昨年よりも低い割合となっている。文系では、一昨年の59ポイントが昨年65ポイントまで上昇したものの、今年は55ポイントにとどまっている。理系でも、一昨年の68ポイントが昨年は2ポイント伸びて70ポイントだったものが、今年は59ポイントと10ポイント以上も下がっている。
採用スケジュールの変更が不安要素になっている点もあるだろうが、それでいえば昨年の方がスケジュールの変更内容は大きかった。そう考えると今年の学生は純粋に大手企業志向が弱まっている可能性が高い。文系、理系ともに「企業規模にこだわらない」だけでなく、「中堅企業に行きたい」「中小企業に行きたい」学生の割合がいずれも増えている点に注目したい。
[図表8 志望する企業規模(文系)]
[図表9 志望する企業規模(理系)]
文系では複数社のインターンシップ参加学生が大きく伸びる
ここからはインターンシップについて見てみたい。まずはインターンシップへの参加状況であるが、文系では参加経験のある学生が75%にも上っている。昨年から10ポイント近い伸びである。もともと参加割合の高かった理系でもさらに伸びて78%の学生が参加したと回答している。
調査対象としている楽天「みんなの就職活動日記」の早期登録学生は、比較的就職意識の高い学生割合が高くなりがちのため、本来の学生全体の割合よりはやや高めの数値となっていることは否めないが、3年間の経年比較という点では、同じ「みんなの就職活動日記」登録学生を対象とした調査であり、傾向値としては間違っていないと自負している。
また、参加学生の割合だけでなく、複数社のインターンシップに参加している学生が増えている点も特徴である。理系ではそれほどの変化は見られないが、文系では2社以上のインターンシップ参加者が6割近くにまで増えている。さらには「4社以上」のインターンシップに参加したとする猛者も昨年の17%から25%へと伸びている。
[図表10 インターンシップ参加社数(文系)]
[図表11 インターンシップ参加社数(理系)]
2割以上の企業が選考のために面接を実施
インターンシップへの参加は、企業によっては採用面接を通過するよりも厳しい、狭き門だといわれている。企業側が用意した定員を超える応募があれば、何がしかの選考をもって参加学生を絞り込むしかない。なかには、先着順や抽選といった企業もあるようだが、多くの企業で採り入れられているのが「エントリーシート」による書類選考である。インターンシップ参加者の6割がエントリーシートによる事前選考を経験している。次いで多いのが「面接」の22%で、「グループディスカッション」も14%の学生が経験している。選考方法もここまでくると、採用活動の一環としてインターンシップを活用しているとしか思えなくなる。
[図表12 インターンシップ事前選考の内容]
2月がインターンシップ参加のピーク
次にインターンシップに参加した時期について見てみよう。「12月 採用広報解禁」だった2015年卒採用までは、インターンシップといえばサマーインターンシップのことを指すことが多く、「8月」「9月」にインターンシップは集中し、解禁後の12月以降に実施される例はわずかであった。
この流れが変わったのは、スケジュールが大きく変わった2016年卒採用からである。採用広報解禁が3月に繰り下げられたことにより、サマーインターンシップから実際に学生と本格的な接触を始める3月までに間が空きすぎること、さらにはもともと「2月」は2015年卒採用までは「会社説明会・セミナー」の開催ピークでもあり、企業側としても2月開催であれば学生の受け入れが可能となるところが多い。
ただし、それを前提にしても、今年の「2月」のインターンシップ参加学生の割合は昨年と比べても大きく伸びている。昨年調査では文系・理系ともに2月にインターンシップに参加した学生45~46%程度であったが、今年の結果を見ると文系では54%、理系でも50%に達している。驚くべきは「12月」「1月」にも参加学生が多いことである。文系にいたっては、「12月」ですら「8月」に近い学生が参加しており、「1月」は後期試験期間があるにもかかわらず「8月」以上の参加割合となっている。それだけ企業側の受入数が伸びていることの裏返しともいえる。
[図表13 インターンシップ参加時期]
文系、理系ともに「1Dayインターンシップ」参加者が急伸
最後に参加したインターンシップのタイプ(期間)を見ておこう。文系、理系別にそれぞれ昨年の調査結果との比較データを用意した。
まずは文系であるが、経団連が推奨する「1週間程度」の参加割合は昨年の42%から34%へと8ポイント減少しているのに対して、「半日」は昨年の24%から34%へ、「1日」は昨年の52%から実に67%にまで伸びている。3人に2人は「1日」タイプのインターンシップに参加した経験を持つ。
理系では、「1週間程度」も「半日」も参加割合は昨年とほとんど同じであるが、「1日」タイプの参加学生は昨年の52%から60%へと大きく伸びている。
これら「半日」や「1日」タイプのいわゆる「1Dayインターンシップ」が伸びたことで、学生からすると複数の企業のインターンシップに参加しやすくなったといえる。「4社以上」のインターンシップに参加した学生のほとんどはこの「1Dayインターンシップ」が含まれている。この傾向は2018年卒採用でも変わらないだろう。
[図表14 参加したインターンシップのタイプ(文系)]
[図表15 参加したインターンシップのタイプ(理系)]
【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査協力:楽天「みんなの就職活動日記」
調査対象:2017年卒の大学生・大学院生
調査方法:webアンケート
調査期間:2016年3月22日~3月30日
有効回答:990名(文系:628名,理系:362名)
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