HR総研では、制度開始直後の2015年12月16日~25日にかけて、「ストレスチェック制度対応状況に関するアンケート調査」を実施した。企業の取り組みはどのような状況なのか、またどのような課題があるのかについてレポートする。
ストレスチェック制度導入の方針は中小規模では1/3が「最低限の対応」
ストレスチェック制度は、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みである。そこでストレスチェック制度導入に対する方針を聞いた。1001名以上の企業では、「これ以前よりメンタルヘルス対策に積極的につとめている」が66%でありすでに対策が進んでいるが、1000名以下の中小企業では約3割に留まっているのが現状である。「これを機に、自社のメンタルヘルス対策や管理職によるラインケアの改善につなげたい」という積極的な取り組み方針が約3割あるが、一方で「法律に抵触しないよう、最低限の対応は行う」としている企業も約3割強である。ストレスチェック制度の導入によって、メンタルヘルス対策全体の底上げになることを期待したい。
〔図表1〕ストレスチェック制度導入における方針
取り組み状況は「実施済み」と「方針・計画がほぼできている」が5割、300名以下では1/3が いまだ情報収集段階
1001名以上の大企業では、すでにストレスチェックを実施済みが24%、実施後のフォローを行っている企業が11%あり、制度開始に向けて万全の準備を行ってきたものと伺える。「実施の方針・計画は、ほぼできている」とした企業は企業規模にかかわらず3割弱である。300名以下の企業では「情報収集段階」が3割強あり、準備の遅れが懸念される。
〔図表2〕ストレスチェック制度についての取り組み状況
外部委託の活用が83%
ストレスチェック制度では、ストレスチェックと結果のフィードバック、結果に応じて医師による面談といったステップが必要となる。そこで外部委託をを利用するかどうかについて聞いてみた。「全部、外部委託を利用する」が24%、「一部、外部委託を利用する」が59%、「すべて社内で対応する」が17%で、何らかを外部委託する企業が大半である。規模別でみると「すべて社内で対応する」は1001名以上の企業で約2割あった。自社に産業医がいる企業では可能なのだろうが、面談が必要な労働者に対してすべて対応が可能なのか、今後も検討が必要なのではないだろうか。
〔図表3〕外部委託利用の状況
ストレスチェックの実施時期は、大手では定期健康診断と異なる時期が55%
ストレスチェックは定期健康診断と同様に1年に1回の受診が義務付けられている。そこで定期健康診断と同時に実施するという方法もあるので同時に行うかどうかを聞いてみた。結果は、1001名以上の大企業では55%が「定期健康診断とは異なる時期に実施」と回答。301名~1000名でも44%、300名以下では29%が同様に回答している。
定期健康診断の委託先にストレスチェックも委託するケースもあるため、同時に行うというのは簡便に実施ができるメリットがあるが、一方で定期健康診断結果とストレスチェック結果の処理フローが異なることもあり、同時に行うことによる混乱などのデメリットも危惧される。法で定められたストレスチェックの実施は初めてのことになるので、いずれの方法であっても、ストレスチェック後のフォローの流れを社員に周知徹底することが重要となるだろう。
〔図表4〕ストレスチェックの実施時期(予定、または実施)
ストレスチェックの実施方法は大手ではPC・モバイル利用が約8割
ストレスチェックの実施方法を聞いたところ、1001名以上の企業では「全員がPCやモバイル」が42%と最多で、「PCやモバイルと一部質問紙」を合わせると約8割で、社員数が多いほどPCやモバイルでないと対応が難しいことがうかがえる。一方、「全員が質問紙」と回答している企業も1割で、1000名以下でも約2割ある。質問紙は手間はかかるものの、低コストで実施できたり、全社員が同等に実施できるといった平等性のメリットがあるからであろう。
〔図表5〕ストレスチェックの実施方式
ストレスチェックの予算は一人2000円未満が約半数
ストレスチェックを外部委託する場合にかかる一人当たり予算は、「1000円未満」が25%、「1000円~2000円未満」が22%と回答した。約半数は2000円未満の予算ということになる。これまでにストレスチェック施策を行っていない企業では今回からコスト発生することになるため、なるべく低予算で実施したいということだろう。
〔図表6〕ストレスチェックの一人当たり予算
制度実施の課題は「本人の了承なしに人事部が結果を見ることができない」ことでの対応
ストレスチェック制度では、ストレスチェックの結果は医師による面接指導の要否判定、および本人からの面接指導の申出によって医師の面接指導が行われることになっており、受検者の個人情報保護の観点で配慮されている。しかし実務面では、「制度全体の担当者」となる人事部にとっては課題と感じることも多いのが実情ではないだろうか。本調査で制度の課題を聞いたところ、課題の第1位は「本人の了承なしにストレスチェックの個人結果を人事部が見ることができないため、人事部としてどのように対応したらよいのかわからない」で、約半数の44%の回答であった。企業の規模に関係なく、中小から大企業までが課題と捉えている。
第2位は「ストレスチェックの結果をどのように職場の改善につなげたらよいのかわからない」で38%。厚生労働省のパンフレットでは「集計・分析の結果を踏まえて、職場の改善を行いましょう」と記されているが、具体的な方法は示されていない。企業ごと、職場ごとに検討することになるだが、その方法が人事にとっては悩みとなっているようだ。
第3位は「産業医や保険スタッフがメンタルや職場改善の経験が少ないので、どの程度対応できるのかわからない」で27%である。産業医や保険スタッフのすべてがメンタルヘルスやうつなどに明るいわけではなく、ストレスチェックの業務や面談は専門外なので引き受けないというケースもあると聞く。法で定められたように実施ができるのか、人事担当者の不安の声が表明されていると言えよう。
またコスト面や運用面での不安、社員間の差異も課題として挙がっている。
〔図表7〕ストレスチェック制度実施における課題
【調査概要】
調査主体:HR総研(ProFuture株式会社)
調査対象:上場および未上場企業人事責任者・担当者
調査方法:webアンケート
調査期間:2015年12月16日~25日
有効回答:188社(1001名以上:38 社、301~1000名:54社、300名以下:96社)
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