またも安易な若者バッシングだ。日本生産性本部が4月21日に発表した「2014年度 新入社員 春の意識調査」によると、「海外勤務のチャンスがあれば応じたいか」の質問に対して「そう思う」と回答したのは50.1%だった。これはこの質問を始めた2011年以来、最低の数値とのこと。
若者は内向き志向にあらず。データを無視して若者バッシングをするなかれ!

 この調査結果が新聞やテレビなどで報道されると、「最近の若者は内向き」「グローバルな時代なのに大丈夫か」といった声が上がった。何かというと「昔の若者は海外志向が強かったのに、最近の若者はどうしてしまったのか」と若者を批判する風潮がある。
 しかし、本当に昔の若者は海外志向が強かったのか。今の若者は内向き志向なのか。データを基に検証する。

 文部科学省の調査によると、1980年代に日本人の海外留学生数は1万人台で推移しており、初めて2万人の大台に乗ったのは、バブル経済華やかな1989年だった(89年は2万2798人)。その後1990年代に急増し、2004年には8万2945人に達したが、2011年には5万7501人となった(文部科学省の最新データは2011年)。
 マスコミは2004年から減少していることばかり強調するが、80年代に比べれば圧倒的に多い。絶対数として海外留学生が多いことには触れていないのだ。
しかも、1989年と2011年では、若者の人数は大きく違う。留学に適した年齢を20代とすると、89年の20~29歳人口は1675.6万人。少子高齢化が進んだ2011年は1358.9万人と、20~29歳人口は316.7万人も減少している。
 1989年に比べて2011年の若者人口は大幅に少ない。しかも経済状況は圧倒的に悪い。さらに、2011年といえば東日本大震災の影響で、留学を取りやめた若者も少なくなかっただろう。こうした状況にもかかわらず、2011年の留学生数は1989年に比べて3万4703人も増加している。倍率にすると2.5倍だ。
 これでも最近の若者は「内向き志向」なのだろうか。内向きどころか、海外志向が強まっていると言えるのではないか。

 また、「以前は米国の大学へ行くと、日本人留学生がたくさんいた。しかし、最近では日本人留学生が少ない」という話をよく聞く。実は留学先の内訳を見ると、米国へ留学する人は減少しているが、中国、台湾、韓国などアジア諸国への留学は増えている(「日本人の海外留学状況」文部科学省)。若者の内向き志向が強まっているわけではない。きちんとした統計データを見ることなく、イメージで意見を言う無責任な人が何と多いことか。安易な若者バッシングは若者を委縮させるだけで何のメリットもない。


東洋経済新報社 東洋経済HRオンライン編集長 田宮寛之

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