「インシデント・プロセス」とは、事例演習の一つで、ある出来ごとに対し、背景や原因を探り、分析し、対処法を考えるプロセスのことです。主に教育訓練で利用されています。
アクシデントにつながりかねない出来ごと(インシデント)を知らされ、そこからさらに必要な情報を集め、分析して問題解決を行っていく手法です。事前準備が比較的少なく、実践的で役立つことが多いので、中間管理職層のマネジメントスキル向上を目的に用いられます。
アメリカマサチューセッツ大学教授のポール・ピゴーズが1950年に考案した手法で、背後の事実関係を最初に示さない点がケースメソッドと異なっています。ケースメソッドが、洞察力、判断力向上を狙いとしているのに対し、インシデント・プロセスは、処理能力・問題解決力の向上を狙いとしています。
この分析は、5つのプロセスで進められます。(1)事例の提示(2)内容を理解し、事実をまとめる(3)解決するべき問題を確定させる(4)意思決定と理由づけをおこなう(5)全体を振り返り、状況を把握するとなっています。
それぞれのプロセスは時間を区切り、短時間で考え、短時間で意見を述べます。事例提供者は簡潔に事例を伝え、参加者が質問することにより、情報を集め、それを元に、意見を交わしていきますが、ここで、事例提供者のこれまでの取り組みを批判しないというルールが存在します。
注目すべきは、第2のプロセスで、ここをきちんと行う事で、参加者を解決すべき事項へと導くことができるとされています。ポイントとしては、(1)問題の全容は、参加者の質問によって明らかになる(2)提供者はテーマの関連情報を把握しておく(3)同じ質問には答えない(4)提供者も不明な点は、「不明である」と答えるなどがあげられます。
今、処理すべき問題だけを見るのではなく、根本的な対策を描くことが求められるので、この演習を繰り返すことで、経営管理能力を長期的に開発できるとされています。
ケースメソッドのように膨大なケースを読まなくても、質問によりしだいに事実や現象が浮き彫りになっていくところから、受講者にとっては興味のわく事例研究といえます。しかも、繰り返し行うことにより、研修時だけではなく、日常生活にも応用して取り入れる事ができるので、能力向上の訓練だけではなく、問題解決の現場にも利用されており、問題がいくつもあって、何から手を付けていいかわからないときなどにこの手法は役立つので、最近では、小学校などの教育現場や子育て中の母親のカウンセリングにも使われています。
この伝統的な方式は、ピゴーズ・インシデント・プロセス(PIP)と呼ばれていて、現在はさまざまなバリエーションのインシデント・プロセスがあります。フィクションの世界で題材を用意したり、グループで解決するのではなく、個人単位で解答方式を用意するなど、その方法は、時代などによって変化しています。