国を挙げて「ダブルワーク」を後押し
元来、「ダブルワーク」といえば、非正規労働者が給料の少なさを補うために、複数の職場を掛け持ちするなどのケースが多かったようだ。しかしながら昨今では、正社員として勤務しながら、休日や夜間の時間を利用して「ダブルワーク」を始めるケースも増えているという。また、厚生労働省でも平成29年3月に決定した働き方改革実行計画を踏まえ、副業・兼業の普及促進を行っているところである。つまり、働き方改革の名の下に、国を挙げて「ダブルワーク」を後押ししているのが、現在のわが国の状況と言えよう。
このような状況を、企業の社会保険事務の視点で考えると、「自社の従業員の中に、他社でも社会保険の加入条件に当てはまっている者がいるかも知れない」という問題が見えてくることになる。
たとえば、非正規労働者が週の前半3日間をA社で終日勤務し、週の後半3日間をB社で終日勤務すれば、A・B両社で厚生年金と健康保険への加入が義務付けられることになる。
また、平日は正社員としてA社で勤務する人が、週末起業により休日を利用してB社という会社を立ち上げたとする。このような場合も同様である。
「二以上事業所勤務」は届出が必須
複数の企業で社会保険に加入して勤務する状態のことを「二以上事業所勤務」という。新たに雇用する従業員が「二以上事業所勤務」である場合、その従業員を厚生年金と健康保険に加入させるのは当然のことながら、合わせてその事実を年金事務所に届け出ることが、法律上義務付けられている。
具体的には、年金事務所に対して『所属選択・二以上事業所勤務届』という書類を提出しなければならない。この届出により、複数の企業で社会保険に加入していることが日本年金機構側に登録されるのである。
さらに、勤務する企業ごとに管轄の年金事務所が異なるのであれば、この『所属選択・二以上事業所勤務届』を使って、ダブルワーカーの社会保険事務をどちらの年金事務所が行うのか選ぶことも求められる。
年金事務所の管轄が異なる複数の企業で働いていたとしても、その人物の厚生年金などの記録管理を行うのは、あらかじめ指定した特定の年金事務所だけだからである。
「ダブルワーカー」への社会保険手続きの指導を
この『所属選択・二以上事業所勤務届』を提出する手続きには、他の社会保険手続きとは大きく異なるポイントが一つある。それは、従業員側に届出義務がある、という点である。社会保険関係の給付以外の手続きでは、多くの場合、企業側に届出義務が課されている。あるいは、従業員からの申し出に基づき、企業が届け出る仕組みを採用している。そのため、企業の社会保険担当者が制度を正しく理解していれば、届出の出し忘れは起こりづらい。
しかしながら、『所属選択・二以上事業所勤務届』については、従業員本人に社会保険の詳細な知識がないと、手続きモレが起こるという特徴がある。
万一、「ダブルワーク」を行う従業員が「二以上事業所勤務」の手続きを正しく行っていない場合には、企業が負担する社会保険料額が本来の額ではなくなるという問題が出てくる。場合によっては、本来の額よりも多い社会保険料を支払うケースも発生してしまう。
とは言え、「ダブルワーク」を行う従業員本人が、社会保険のこのような仕組みを理解していることは極めて稀だ。従って、企業側が従業員の就業状況を正確に把握するようにし、「ダブルワーク」を行っている従業員に対しては、適切な社会保険手続きを指導することが肝要である。